卵のつがい
第一章
1−13
「お待たせ。少し多めに入れておいたからな」
「わぁー! ありがとうございます」
パンパンになった小ぶりな麻袋がカウンターの上へ置かれる。ミラ
が背負っていたリュックからお金を取り出すと同時に、再び来店の合
図が聞こえてきた。
「いらっしゃ」
「ミラ! てめーやっと見つけたぞ!」
アルノーの声が怒鳴り声にかき消される。怒りを含んだ低音の声で
名を呼ばれ、ミラは肩を竦めながら振り返った。
「エポック? どうしたの?」
そこには先刻別れたはずの幼馴染が腕を組んで立っていた。なぜ怒
っているのだろう。皆目見当もつかず、ミラは首を傾げた。
「どうしたの? じゃねーよ。お前、今日泊まる宿屋の場所知ってる
のか?」
エポックが頭を掻き毟り、深いため息を吐く。呆れたと言わんばか
り嘆く彼の言葉にミラは目を瞠った。
「あっ」
確かにあらかじめ宿の名前は聞いていたが、場所までは把握してい
ない。罰の悪さに、目線を逸らすとエポックが小突いてきた。
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