卵のつがい
第三章
16
「ほら深呼吸しろ。そしたら挨拶だ。いいな。
……ったく久々だからって彼氏相手にそんな力むことないだろうが」
エポックがぶつぶつと何か呟いていたが
自分の考えに没頭しすぎて後半は聞こえなかった。
(そうね。まずは挨拶と案内役をしてくれているお礼よね)
ミラは震える手をぎゅっと握りしめ、イースへ声をかけた。
「あ、イース、久しぶりね。元気だった?」
思いのほか声が大きくなってしまった。
しかしそのおかげでイースも正気に戻ったようだ。
彼の黒縁眼鏡の奥にある黒い瞳が、こちらをとらえた。
「え? あ、ああ。ひ、久しぶりだねミラ。
げ、元気だったよ。うん」
「今日はあり、がとね。そのあ、案内してくれて」
ぎくしゃくする空気を払拭しようとミラは言葉を続ける。
だが、上手く言葉が出てこない。ミラは焦った。
(なんで普通に話せないのよ。
これじゃ緊張してるって丸わかりじゃない。
絶対イースってば変に思ってるわ)
ちらちらとエポックとこちらへ交互に視線を向けてくるのが
何よりの証拠だ。
しかしちゃんと話そうとしてもなぜかつっかえてしまう状況に
ミラは頭を抱えたくなった。
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