まどろみの向こう側F
やがて父親が深い溜め息をつき、
思い直したよう彼の妻の横顔を見つめた。
「いったい何を恐れているんだい。
まだたった3つになったばかりの我が子に」
「ちがう、ちがうわ。恐れてなんかいない」
母が激しく頭を振る。
「距離を置いているのはあの子の方よ。
あの子、わたしに気を使うのよ。
とても大人びた口調で、それもよそよそしく!
まだたった3才になったばかりの我が子がよ?!」
「エレーナ……」
自嘲的な笑みの含んだその言葉は、
話す当人たちだけでなく子である己の胸をも深く貫いた。
(ごめん、エレーナ、マルコ……)
自分が『アルマ』を目覚めさせることができずにいるせいで、
また人を不幸にしている。
『ジョーイ』は唇を噛み、手摺りから身を退いた。
もうこれ以上、二人の会話を聞き続けることに耐えられそうもない。
立ちあがり残りの階段を降りた。
居間からは、母親の押し殺したような泣き声と、
それを宥める父親の声が聞こえてくる。
『ジョーイ』はそんな2人の声から逃れるため、
静かに玄関の扉を開き家を後にした。
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