(3) ミュージカル時代(ミス・サイゴン)

 日本版ミス・サイゴンのオーディションに合格した後、美奈子さんが、1年ぐらい仕事を休んで、レッスンに専念したという話は、テレビ番組等で、広く紹介されています。ミス・サイゴンの出演者一同のためのミス・サイゴン スクールが始まったのは、1991年5月13日です。美奈子さんは、ミス・サイゴン スクール以外にも、別にプライベートレッスンを受けていたそうです。

 美奈子さんは、それまでは、全く我流で歌っていたのですが、歌を基礎からやり直すことにしました。その効果は、ミス・サイゴンの公演が始まるに従い遺憾なく発揮されてきました。才能のある人は、ボイス・トレーニングなしでも相当のところまでいけますが、しっかりしたトレーニングをすると、すごいレベルに達する例でしょう。

 どんな分野でも、生まれつき才能のある人は、たいした練習をしないでもかなりのところまでいけますが、才能のある人が、猛練習すると、神レベルになります。

 ミス・サイゴンが公開されたあたりの美奈子さんの歌は、それ以前の声と、声質そのものが異なり、とてもきれいな声になっていました。ミス・サイゴンでは、高音まで、基本的に地声で歌うことが要求されていました。美奈子さんは、それまでは出せなかったような高音まで、地声で出せるようになりました。ミス・サイゴンのナンバーでは、高音は、確か、A(ラ)まで必要であったと思います。

 もっとも、公演が始まった頃だと、美奈子さんの歌唱もちょっと安定性に欠ける点があったと思います。ミス・サイゴンのサントラ盤(ハイライト盤)は、本公演の始まる半年ぐらい前に録音されたもので、声はきれいですが、細かいところで、歌に狂いがあるようです。公演を重ねるに従い、歌唱レベルもアップしていきます。また、ミュージカル独特の歌唱法として、感情を思い切りこめたドラマティックな歌い方も磨きがかかります。ミュージカルでの美奈子さんの歌い方は、歌としての完成度を求めるより、役柄になりきって、心情を歌にぶつけるような感じで、大変心をうつものでした。幸なことに、ミス・サイゴンは本公演のライブ盤が残っており、迫力ある歌い方の片鱗がうかがえます。