(4) ミュージカル時代(ミス・サイゴン後)

 美奈子さんは、この後、全部で7作品のミュージカルに出演しますが、常に新しい歌い方にチャレンジし続け、こちらが驚くぐらい進化し続けます。しかし、単に地声の美しさという点だけなら、ミス・サイゴンの公演が終わった頃(1992年から数年)が一番だったかもしれません。残念ながら、1992年ぐらいの声は、美奈子さんがCDをリリースしていない時期なので、ミュージックフェア等のTV番組の歌を試聴するぐらいしか、声を聴く手段がありません。

 ミス・サイゴンのキムのように感情を込めて歌っているミュージカルには、レ・ミゼラブルとひめゆりがあります。特にひめゆりは、これでもかというぐらいに感情をこめて歌いあげます。ひめゆりは、公演期間が短いため、本公演を見た人も少なければ、CD等の音源が出回っていないため、美奈子さんが歌っているところを全然知らない人も多いでしょう。 レ・ミゼラブルの方は、日本語版だけでも6種類のCDが出回っていますが、美奈子さんバージョンはありません。

 レ・ミゼラブルのエポニーヌのナンバーでは、「On My Own」が一番有名ですが、美奈子さんの歌い方、コンサートと、ミュージカルの公演ではだいぶ違います。コンサートでは、最初、甘い声バージョンで始まって、途中から大人の声に変化する歌い方が多いのですが、ミュージカルの公演では、最初から大人の声で歌う歌い方で、最後は、迫力いっぱいに盛り上げて終わります。

 On My Ownを歌う歌手は、レ・ミゼラブルに出演したことがない人も含め、世の中に多くいますが、声量豊かに思いっきり歌いあげて、力強さを感じさせてしまう歌い方をする場合があります。On My Ownを歌うシーンでは、エポニーヌは、かなえられない恋におしつぶされそうになる悲哀感でいっぱいのはずなので、迫力を感じさせても、力強さを感じさせるような歌い方は興ざめです。

 美奈子さんの歌い方は、最後の方、大迫力になるのですが、エポニーヌの絶望感が直接心に飛び込んできます。

 美奈子さんのOn My Ownは、何度もコンサートで聴いたことがあるのですが、本公演の時の感動に比べて、いつも物足りなく思っていました。もしかしたら、もう本公演の歌い方はできなくなっているのかと思っていたのですが、2004年7月のレ・ミゼラブル in コンサートで、良い意味で見事に裏切ってくれました。その時の美奈子エポニーヌのOn My Ownは、本公演の時の感動を倍加させたような歌い方で、本当に人の心をえぐるような感じのするものでした。一周忌の追悼会の時に、別所哲也さんが、一度聞いただけだが驚いたと表現した時の歌唱です。