All Season  〜好きすぎて〜








「なぁ!っ。見て見て。」
「なに?」


「ニモがおるやんっ。可愛いなぁ。ニモ。」
「はあ?」



・・・侑士。それは、ニモって名前の魚じゃないよ。カクレクマノミ。



「ニモ。お父ちゃんに会えて良かったなぁ。友達もぎょうさんいてるし。寂しくないよなぁ。」



おいおい。水族館で語りかけるな。そいつはアニメのニモ君とは別だよ?



突っ込みどころは、てんこ盛りだけど。
私が何か言うと、嬉しそうに10倍くらいになって返ってくるお喋りに耐えられず、黙り込む。



「あっ。見て見て。っ」
「いちいち言わなくても、見てるって。」



侑士は大きな手で私の手を包みこんだまま、あっちへこっちへと引きずり回す。



めったに出来ないデート。
全国区の氷帝学園テニス部だ。練習は半端じゃない。


その中で。レギュラーの位置を確保し続けている侑士も、例外なく。ほとんどの時間をテニスに費やす。


こんな休日。そう、あることじゃない。
はしゃぐ侑士の気持ちも分かる。
だって。私だって嬉しい。こうやって、時間を気にせずに傍にいられるなんて。



「侑士。ほら。ここさ、ヒトデとか触れる。」
「おっ。ウニもおるやん。美味そう。」
「ちょっと。」



二人肩を並べて。白い砂が敷き詰められた浅い水槽を覗き込む。
指先を水に触れさせながら。小学生に混ざって、小さな海の生き物達と戯れた。



「楽しいな。水族館なんて。何年ぶりやろ。」
「そうね。」


「けど・・・楽しいのは。」
「ん?」



私は、おそるおそる。ヒトデを撫でようとしていた。



と一緒やから、楽しいねんな。」



侑士を見た。彼は笑っていた。穏やかな優しい瞳で。
あんまり優しい顔してたから、なんだか泣きたくなった。胸が切なくて。



「どうした?」
「バカ。侑士が・・・変なこと言うから。」



笑おうとしたけど。うまく笑えてないのが、自分で分かった。



?」



『海の生物とコミュニケーション』と名のついた水槽。
子供たちに混ざって、しゃがんでいた私たち。


侑士はコツンと額を寄せてきた。額をあわせて、ポツっと。





     好きや。





「ここやと、青少年の教育上問題があるから。外に出よ?」





そう言って立ち上がると、私の手を引いて歩き始めた。
たくさんの見学者達の脇をすりぬけ。ガラスドアを押し開けて、噴水のある広場に出る。


途端に海風が私たちに吹きつける。
侑士は私の体を抱きこむようにして風が避けられそうな建物の影に入った。



「さて。俺のお姫様は、どうしたんかな?」



覗き込んでくる瞳は、やっぱり優しかった。



「なんでもない。」
「ホントに?嘘ついても、あかんよ。俺な、のことやったら何でも分かるねん。」


「分かるんだったら聞かないでよ。」
「じゃあ、当てようか?」



ニコッと侑士が笑った。何故か自信満々だ。





「うーんとな。今日は帰りたくない。侑士とずっと一緒に居りたい。どやっ?」
「なんか・・・違う。」


「あれ?じゃあなぁ。彼氏があんまり格好よくて見惚れてた。
 で、今日は彼氏のとこに泊まりたいなぁ・・・と。」
「違う。」


「おかしいなぁ。じゃあ。めったにない慣れないデートに疲れた。
 だから、彼氏のとこに泊まろかな。けど、自分からは言えないな。みたいな。」
「侑士・・・。」



なんで、そう『泊まる』がでてくるわけ?



冷たい目で睨んだら。侑士はボリボリと頭をかいて、肩をすくめた。



「降参。何考えてた?なんや、切ない顔してたから。」



冷たい風が吹く。建物の影でも、寒い。
侑士の男にしては長めの髪が、風に乱れるのを見ていた。


目の前の人が、愛しくて。私を優しく見つめてくれる人の愛情が痛いほど伝わってきて。
もう・・・胸がいっぱいになるの。こんなの変でしょう?





幸せなのに。幸せすぎて、切なくなるのよ。あなたが・・・優しいから。



「ん?。」



私の名を呼びながら。さりげなく、自分の体を盾にして風を避けてくれる。





・・・・侑士。





「たいしたことじゃないの。ただ、好きなだけ。」
「へ?」 



目を丸くした彼。



「好きすぎて・・・切なくなるの。寒いよ。中に入ろう?」



コートの胸元を合わせて、侑士の脇を通り過ぎようとしたら、背中から抱きしめられた。



「ちょっ。離してっ。人がいるんだよ?」
「離さへんっ。離せるわけないやろ?お前が・・・悪いっ」
「なんでっ?」



無理矢理に体を捻じ曲げて、腕から逃れようとしたら失敗して。
思いっきり前から抱きしめなおされた。
ぎゅっと、抱きしめたうえに。首筋に顔を埋める侑士は、ビクともしない。





のアホ。こんなに俺を喜ばせて。このまま無事に帰れると思うなよ。」
「何言ってるの?」


「俺かて。好きすぎて胸が痛いっ。を、ずっと俺だけのものにしたくて・・・。
 切なくて、苦しい。お前だけやない。」


「侑士・・・。」


「なぁ。こんな時間、めったに取れんねん。
 せやから・・・なっ。、今日は・・・ずっと一緒におって? 俺のとこ、泊まって?」



遠くで子供の泣き声がした。


ざわめきが漏れてくる水族館。強い風の音。





けれど。私たちの周りだけ、音が消える。


侑士の声だけ。私の声だけ。





「なぁ。。全部、俺に・・・ちょうだい?」





ああ。切ない。好きすぎて切ないよ。この切なさも。もっと近くなれば、なくなるの?





「うん。」
「・・・おおきに。」





温かい腕の中。耳元で囁かれた言葉に目を閉じた。




















「好きすぎて」    

2004.11.17




















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