All Season 〜初めての夜〜
シャワーから出たら、洗濯機の上にパジャマが置かれてあった。
洗剤の匂いが残るパジャマに袖を通す。
洗濯した衣類なのに。身につけると彼の匂いがした。
それだけで。胸がドキドキする。
どうしよう。帰りたい・・・。
何度も頭を掠めたけれど。
引き返せない。それも分かっている。
ぶかぶかのパジャマ。袖と裾を折って、深呼吸をした。
1LDKの寮。寮といっても個別だし。マンションとかわらない。
それでも。本当は女の子を部屋に入れてはいけない。
面会は下のロビーのみだ。
なのに。私は、ここにいる。侑士の部屋に。
ぺたぺた・・・っと素足で歩くフローリングの音に、侑士が振り返った。
「ははは。やっぱり、パジャマ・・・大きかったな。」
そう言って目を細める。
どういう顔をしていいのか分からずに。曖昧に微笑んだら、うまく笑えなかった。
それでも侑士は、いつもと変わらない笑顔で笑っている。
「髪、ぬれてるやん?俺が乾かしてやるから。ここに座って?」
指差されたのはベッド。侑士は私の返事も待たずに立ち上がって洗面所に消える。
ドキドキドキドキ。自分の心臓の音を聞きながら、ベッドに座った。
分かって。嫌なんじゃない。ちょっと・・・怖いだけ。大丈夫。侑士が好きだから。
心の中で、つぶやいて。また、深呼吸。
片手に赤いドライヤーを持って。やっぱり笑顔の侑士が戻ってきた。
ベッドヘッドについているコンセントに差し込んで。
ドライヤーを片手に私の後ろに膝立ちする。
「熱かったら言うてな。」
言いながらドライヤーのスイッチを入れた。
大きなモーター音と共に温風が吹いてくる。
侑士の長い指が、私の髪をすくっては撫でていく。何度も、何度も繰り返し。
柔らかい指の動きに、目を閉じる。
誰かに髪を乾かしてもらうのって、気持ちいい。
それが大好きな彼ならば尚更かもしれない。
ぼーっとしていてるうちに、緊張は解けていき、鼓動も落ち着いてきた。
「。」
「ん?」
耳元で唸るドライヤーの音に混ざって、侑士の声がする。
「俺、待てるから。無理・・・せんでもええよ?」
「・・・・。」
「けどな。朝まで、一緒におって?一緒に寝るだけ。それぐらいは・・・ええよな?」
「・・・・。」
手は休めずに。優しく髪をすきながら、侑士が言う。
前を向いたままの私には、彼の顔が見えないけれど。
見なくても分かる。きっと、優しい目をしてる。ほんの少し、微笑を乗せた唇で。
穏やかに話しているはず。
愛されているのだと。彼の仕草から。言葉から。彼のすべてから、感じることが出来る。
だから。
いいよ、侑士。ひとつになろ?
ドライヤーの音が止まった。
突然に背中から抱きしめられて、息が詰まる。
お願い・・・。私に後悔させないで。
ずっと、私を好きでいて?私に好きでいさせて?
約束する。
侑士の短い返事に目を閉じて。体の力を抜いた。
初めての夜。
「初めての夜」
2004.11.19
戻る テニプリ連載TOPへ 次へ