All Season 〜涙のキス〜
「。ええ加減にしい。そんなんに金つぎ込んでも、もったいないやろ?」
「だって、くやしいんだもんっ」
意地になって、もう5回目。
ポロッとクレーンから転がり落ちた縫いぐるみに泣きそうになる。
「なんでっ」
「だから。そんなに意地になってイライラやったかてな、取れんって。
縫いぐるみぐらい、俺が取ってやるから。なっ、。」
「ヤダッ」
「・・・。」
はぁ。と、隠しもせずに侑士が溜息をつく。
もう。なんだか泣きたくなってきた。
また、100円玉を入れてボタンを押そうとしたら。自分の手に、侑士の手が重なった。
振り向こうとしたら、耳元に侑士の声。
「やきもち、めちゃ可愛いんやけど。泣かれるのは・・・苦手なん。なっ、俺に任せて。
よしっ。ここら辺かな。」
私は、もう動けなかった。侑士には、ばれていた。私の・・・嫉妬。
次のボタンを押すために、離れていった手。
けれど、体は背中からピッタリと引っ付けられていて。侑士の髪が頬をくすぐる。
「よし。これで、いけるやろ。」
目の前でぶら下がって運ばれていく縫いぐるみ。可愛くも可笑しくもない。
別に欲しくもない人形。
ただ。意地になっていただけ。
『昨日さ。ゲーセンで、忍足君に取ってもらったの。』
わざわざ見せられたマスコット。あてつけだと分かっていたのに。気持ちはどうにも抑えられなかった。
それでも、平気な顔をして。
部活帰りに部員達でちょっと寄っただけなのだと。自分で勝手に推測して。
これぐらいのこと、気にしちゃダメ。侑士が女の子に優しいのは病気なんだから。
なんて、心に言い聞かせた。
ポトン・・・と、穴に落ちていった縫いぐるみを侑士がしゃがんで取り出す。
「はい。どうぞ・・・って。?」
ポロポロと。涙がこぼれてるの分かってる。止めたいのに、止まらない。
自分が情けなくて、醜くて、大嫌い。
「見ないで。」
顔を覆ったまま、首を横に振った。気配がして。すぐに体を包んでくる、ぬくもり。
「。俺な、悪くないから謝らんで?あれは、岳人が安請けあいして。
どうしても取れんって泣きついてきたから取ってやっただけ。
それが、クラスの女の子に渡っただけなん。岳人には、ちゃあんとお仕置きしておいたから。なっ。」
真相を聞いて。ますます、涙が止まらない。自分のみっともない嫉妬に、もう顔が上げられない。
嗚咽を耐えようとするのに、息が出来なくて。肩を震わせながら、しゃくりあげてしまう。
はあ。また聞こえてきた、侑士の溜息。今度こそ、呆れられたのだろう。
忍足は、しつこい女は嫌いだと。束縛されるのは嫌うのだと。前に、誰かが言っていた。
もう。嫌われちゃうのかな。
そう思ったら、もう・・・どうしようもなく悲しくて。
「。ちょっと、移動しよう。」
ぬくもりが離れて行き、肩を抱かれて歩く。もう、涙で前も見えなくて。侑士に押されるままに歩いた。
重い鉄の扉を開けて、非常階段にでる。
背中で扉の閉まる鈍い音を聞いた途端。思いっきり、抱きしめられた。
目を見開いて。目の前に揺れている黒髪を見つめる。
「嬉しいっ」
え?なに?
「っ。めちゃ、可愛いっっっ!」
え?え?
唖然としている私の体を乱暴に離すと、侑士は満面の笑みで瞼にキスしてきた。
「ちょっ?侑士・・・」
言いかけた唇にもキス。
「ごめんなぁ。泣いてんのに。けど、もう可愛らしくてっ。もうっもうっって、感じなん。んーっ、。」
と、まるで愛犬に頬擦りでもするかのように引っ付いてくる。
「ちょ・・・ちょっと、やめて。」
侑士の顔を手で押しのけようとしたのに、その手も掴まれて。指にキスされた。
「いやぁ。妬かれるんが、こんなに嬉しいもんやとは知らんかったなぁ。
もう、泣いてる・・・お前。ツボや。ツボ。
あー、幸せやなぁ。うんうん。俺、愛されてるよなぁ。」
言いながら、ぎゅうぎゅう抱きしめてくる。そりゃ、もう。だらしないヘナヘナの笑顔で。
誰だっけ。クールな、大人の雰囲気って。男っぽいのがセクシーだって。
女の子に人気のある忍足侑士は、どこに?
もう、いつの間にか涙も止まった。
そして、心に誓った。二度と、嫉妬はするまい。
こんなにも、愛されているのだから。嫉妬する・・・必要もないのだから。
何度も触れてくる唇は。ほんのちょっと、しょっぱくて。でも、やっぱり甘かった。
「涙のキス」
2004.11.28
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