ふたり 11
同じクラスになると、いつも景吾を見ていられる。
でも同時に、見たくないものまで見ることになる。
休み時間になると、時々よそのクラスの女の子が景吾を訪ねてくる。
さすがに、の視線が気になる景吾。
女の子達を教室から外に出して話をするようになった。
今日も女の子と出て行ったきり。
休み時間の間中、帰ってこない景吾。
景吾のいない机を見つめては溜息をつくに、忍足が近づいていった。
「あれはな彼女と違うで?勝手に跡部を追いかけてるだけやから。
多分、断わるんに手をやいてるんやろ。」
が一瞬瞳を大きくした。
私の気持ち、知られてる?
忍足はいたわるように微笑んで、の頭をポンポンと優しく撫でてやった。
彼の仕草に。
ふわっと。泣きそうに切なく、それでいて可愛らしく。
が笑顔を見せた。
の笑顔に。今度は忍足が瞳を大きくする。
アカンって。その笑顔は反則や。胸が、きゅんって・・・してしもうたやん。
あーあ。こんなに可愛らしいのに。心は、俺様のもんか?やりきれんなぁ。
けど・・・こんな可哀相な顔させとくのも辛いしなぁ。
少し考えて。
「あんなぁ。ちゃん、もっと自信持ってええよ?可愛いし、素直やし。
男子の間で、人気急上昇中や。
せやから、自分の気持ちは・・・ちゃんと口にせんと。
想ってるだけじゃ、相手には伝わらんの・・・分かるよな?」
ああ、おせっかい。ひとりゴチながらも、辛そうな彼女が見ていられなくて。
一度、目を伏せた。次に忍足を映した瞳は涙で潤んでいた。
それでも、健気な笑顔を見せる。
「ありがとう、忍足君。忍足君みたいな、いい人に好きになってもらえる女の子は幸せだね。」
「あははは。ちゃん、ええか?男にとって『いい人』なんて、一番ガックシくる言葉やで?」
「そうなの?」
「そうそう。あなたは恋愛対象にはなりません。と、宣言されるようなもんや。」
きょとんとした彼女の頭をまた撫でて、忍足は苦笑する。
自分の『いい人』度は、一番自身が分かっていた。
地区大会。都大会と氷帝は順調に駒を進めている。
まだ、レギュラーを出す程でもないと。
すでに景吾の視線は関東大会、その先の全国へと向いていた。
だが都大会第1シード氷帝は、準々決勝で不動峰に3-0で完敗した。
シングルス3の宍戸は唯一の正レギュラー。
その宍戸が不動峰の橘に遊ばれて負けた。
フェンス越し橘を見つめながら、景吾は表情を崩さず立っていた。
監督に結果を報告し、宍戸をレギュラーから外す。
そして、天才肌だが波のあるジローを早めに呼ぶことにした。
思いもよらぬところで足元をすくわれた。
コンソレーションに氷帝の名を並べるとは思いもしなかったが仕方がない。
いつもと全く変わらぬ様子で、てきぱきと部員達に指示を出す景吾。
ふてぶてしい微笑さえ浮かべて、明日の予定を告げると解散させた。
氷帝内は一時、敗戦に動揺した。
が、景吾の見せる落ち着きに、部員達も落ち着きを取り戻していく。
『コンソレーションに勝って関東に行けばいい。それだけのことだ。』
景吾の言葉は、部員達の士気を高めた。
視界の隅、黙ってラケットを仕舞う宍戸の背中を捕らえながらも、
景吾は声をかけずに背を向けた。
今は、宍戸にかける言葉が見つからなかった。
自分の部屋に戻って。レギュラージャージを乱暴に脱ぐと、壁に投げつける。
ギュッと唇をかみ締めて、その壁を睨んだ。
今日の敗戦は・・・俺の読みの甘さが原因だ。
無名校だとナメていた。
ノーマークなのを逆手にとって、はなから3試合でケリをつけるようオーダーを組んできた
橘にやられた。
全国区の橘。正直、宍戸には荷が重すぎる相手だ。
自分が相手して負けるとは思わないが、手こずる相手になるだろ。
それに宍戸をぶつけてしまい、正レギュラーから外す羽目になってしまった。
クソッ
自分に腹が立って堪らない。
イライラしながら。ふと、窓の外に目をやって思ったこと。
に・・・会いたい。
そう思うと我慢できなくて、景吾はそのままの姿で部屋を出た。
『様、景吾様がいらっしゃいました。今、そちらに上がられます。』
インターフォンからメイドが告げ終わるのと同時にノックがする。
心の準備もないままに、景吾がやってきてしまった。
「っ、入るぞ。」
「あっ・・・ど・・・どうぞ。」
バタンと外の空気をまとって入ってきた景吾。
珍しくテニスウェア姿で、まっすぐの前に立った。
今すぐを抱きしめたかった。
のぬくもりを抱いて、胸の中のものを吐き出したい。癒されたい。
景吾の思いは切実だった。
なのに。から出た言葉が、景吾には信じられなかった。
「跡部君、どうしたの?今日、試合だったんでしょ?」
「お前・・・どういうつもりだ?」
初めて聞く冷たい景吾の声に、は思わず体を硬くした。
「試合じゃ・・・なかったの?」
「そんなこと言ってんじゃねぇ。名前だっ」
「名前?」
「なんで、いつもみたいに呼ばねぇんだ?学校以外は今まで通りにしていいって言っただろうが。」
「私・・・ずっと、跡部君って呼ぶことにしたの。」
「本気で言ってんのか?」
睨みつけながら1歩1歩近づいて来る景吾に、は怯えた。
「どうしたの?いつもと・・・違う。」
「いつもと違うのは、お前だろう?俺は・・・ゆるさねぇ。」
「許さない・・・?」
「勝手に俺から離れて行くのは許せねぇんだよっ!」
言うなり景吾は手を伸ばして、力ずくでを抱きしめようとした。
痛いほど肩を掴まれて、気がつけば景吾の顔が直ぐ近くにあって。
咄嗟に顔を背けたが、唇の端に景吾の唇を受けてしまった。
「いやっ!ヤダッ、景ちゃんのバカッ!」
腕の中で闇雲に暴れながら、は泣き出す。
景吾は力で押さえつけながらも、自分は何をしたいのか・・・分からなくなっていた。
ただ、苦しくて。どうしようもなくて。
に救って欲しかっただけなのに。
何故、お前は俺を拒絶する?
「何故だ?なんで、俺から離れるっ、っ」
「違うっ!」
もみ合っていた体を、が渾身の力で突き放した。
ボロボロ・・と涙をこぼしながら、景吾を睨みつける。
「離れていったのは・・・。私を置いて離れていったのはっ、景ちゃんだよっ!もう、帰って!」
言いながら景吾の体をドアまで押していき、廊下に思いっきり押し出した。
よろけながら放り出された景吾は呆然と閉まっていくドアを見つめる。
完全にドアが閉まる瞬間に見えたの泣き顔に、景吾は駆け寄ったが遅かった。
目の前でドアは閉められ、鍵をかけられた。
「っ!おいっ、っ」
いくら呼んでも、は出てこなかった。
・・・。
景吾はドアに額をつけて、拳でドアを殴った。
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