ふたり 12








眠れないままに朝を迎えた


教室に向かうと、昨日の試合結果が話題になっていた。
信じられない思いで景吾の席を見たが、机にはカバンだけが置き去りにされている。


いてもたってもいられなくて、は席を立った。



「忍足君、ちょっといい?」


「ああ。おはようさん。あれ、ちゃん・・・顔色悪いなぁ。ちゃんと、睡眠とってるか?」



相変わらずにこやかで、それでいて鋭い忍足だ。



「昨日・・・本当に負けたの?」


「そーや。聞いての通り。無名のノーマーク校にやられた。」


「じゃあ、もう終わりなのっ?」


「大丈夫。敗者復活戦みたいなんがあるからな。ちゃんと、関東大会に行けるって。」


「でも、昨日の景・・跡部君、変だった。」


「ふーん。あの後、ちゃんとこ行ったんかぁ。
 平気な顔してたけど・・・よっぽどヘコンでたんやな。そうか・・・。」



忍足が顎に手を当てて眉間に皺を寄せた。
それに何かを感じたが、先を促すように忍足を覗き込む。



「いや。宍戸が向こうの大将にコテンパンにされてなぁ、レギュラーから外された。
 けど、跡部は気にも留めてない感じやったし。実力主義の跡部やから・・・まあ・・あっ、ちゃん?」



話し終わらないうちに、が忍足に背を向けた。
その背中を見送って、忍足は溜息をつく。


相思相愛。じれったいけど・・・羨ましくもある。


跡部を探しに行ったのであろう彼女の、授業をサボった言い訳でも考えといてやるか。
そんなことを考えながら授業の準備をはじめた。





は景吾を探す。景吾がいそうな場所。
部室を覗いたが誰もいない。思いつくままに、探して歩く。


昨日の今日で、何を言っていいのか分からない。
でも会いたかった。


昨日の景吾は、絶対変だったから。





なんでちゃんと話を聞いてあげられなかったんだろう?
私、景ちゃんのために出来ることは何だろうって・・・いつも考えていたのに。


きっと、景ちゃんは辛かったんだ。
責任感の強い人だから、敗戦の責任を自分ひとりで背負い込んでいるに違いない。


宍戸くんも、ジローちゃんも。景ちゃにとっては心の許せる友達だ。
その宍戸君をレギュラーから外さなくてはならなかった景ちゃん、どんなに苦しかっただろう。


それを誰にも見せないで。
沢山の部員を率いる部長だから。きっと無理して平気な顔してる。


私を頼ってくれたんだよね?
幼馴染の私だから・・・弱音を吐きに来てくれたんだよね。


ゴメンね、ゴメンね、景ちゃん。


私、自分のことばっかり考えてて。





始業のチャイムが鳴る。すれ違って、景吾は教室に戻っているかもしれない。
でも、は戻る気になれなくて探し続けた。





図書室の裏にまわって。


ベンチから立ち上がる景吾を見つけた。



「景ちゃん!」



その呼び声に、景吾が振り返る。
が息を切らせながら、そのままの勢いで景吾の腕に飛び込んできた。


ふいを突かれて2-3歩後ろに下がった景吾。
それでも、の体を受け止めた。



「な・・・なんだ?お前」


「大丈夫だよっ。次は勝って、関東大会に行けるっ!
 宍戸君は、こんなことでへこたれないっ!また、戻ってくるっ。
 ねぇ、景ちゃん。自分を責めないで?」



腕の中で一気にしゃべる
がっしりと体を彼女に抱きしめられながら、景吾はの声を聞いていた。


ふ・・・と口元が緩んだ。
そのまま、の体に腕をまわして抱きしめる。


力を入れすぎないように。それでいて、しっかりと抱きしめて。
その肩に顔を埋めた。



「バーカ。慰めんのが、一日遅れてんだよ。」


「ゴメン。ゴメンね・・・景ちゃん。」


「バカは・・・俺もだ。昨日は悪かった。お前に・・・八つ当たりしたな。」


「ううん。いいの。景ちゃんが・・・私だけに八つ当たりしに来てくれたのなら嬉しい。」


「はあ?何いってんだ?」


「私、景ちゃんの役に立ちたいって思ってたから。これからは、八つ当たりでも何でもしに来ていいよ。」


「・・・バカヤロウ。」



抱きしめる腕に力を込めた。
ぎゅうっと一度抱きしめて、そっと体を離す。


少しだけ頬を上気させたが景吾を見上げている。
正面からこうやって抱きしめたことは初めてかもしれない。


景吾は自然との顎をすくい唇を寄せようとした。
さすがに、が慌てて景吾の唇を手で押し返してきた。



「この期に及んで、なんだ?」


「こ・・この期に・・って?なに・・しようとしてるの?」


「キスだ。」



さらっと答えた景吾。途中でお預けをくらって不機嫌だ。


がっ、はパニックになっていた。
いくら幼馴染でも、キスはやりすぎだと思う。
この状況だと・・・頬やおでこへのキスという雰囲気ではない。



「えっ、でもっ、それはっ」


「嫌なのか?」


「いやっ・・・じゃ・・・ナイケド。」



小さくなるの声。



「お前が子供だからと思って我慢してきたが、ほっとくと勝手に離れて行くからな。
 もう、容赦はしないことにした。
 ここからは俺がお前を女にしてやる。もう、お子ちゃまは卒業してもらうぜ?」



す・・・すごい事をいわれている気がするのは・・・気のせいだろうか?



の頭の中を高速回転で物事がまわっていく。
そして、導き出された答え。



「景ちゃん・・・私のこと・・・どう思ってる?」



ニヤリと景吾が笑った。



「その前に、お前はどう思っているのか聞かせてもらおうか。」



ずるいっと思ったが。
今までの景吾を思い出していた。


いつも傍にいてくれた。
守ってくれて、慰めてくれて、優しくしてくれた。


髪を乾かしてもらった、あの夜。
感じたぬくもりは愛情だったのだと・・・思ってもいい?



「私は・・・景ちゃんが迷惑じゃなければ・・・好き・・・です。」



くっ・・・と景吾が体を折って笑い始めた。
らしい告白だ。



俺が迷惑じゃなければ?どういう発想なんだか。



から引き離した忍足にいわれた言葉を思い出す。



『お前、あんまり近くにいすぎて見えてへんやろ?ちゃんが誰を見てるのか。誰に恋してるか。
 そんなんやったら、俺が横取りしてもええけど?』



癪に障るが、それでの気持ちに気がついた。
だから、片っ端から女達をきっていった。
しっかりと、に手出しをしないように根回し・・・というか脅しもしつつ。


それがすべてすんだら、にちゃんと告げるつもりだった。



予定は狂ったが、まぁ・・・後は何とかなるだろう。



「景ちゃん?」



泣きそうな目で不安そうに見つめてくる彼女が愛しい。


笑いを止めて、またそっと彼女の顎に手を添えた。



「迷惑じゃねぇから、ずっと・・・好きでいろ。」



綺麗な瞳に涙が溢れてくるのに目を細めて、ゆっくりと唇を寄せた。





ふたりの・・・初めてじゃないけれど、初めてのキスをした。





後で。

私にとってはファーストキスだったけど。景ちゃんは違うもん。と。
拗ねてみせる恋人が可愛らしい。



「はぁ?何を言ってるんだ?お前のファーストキスなんか、とうの昔に俺が貰っちまったぜ。
 当然、俺のファーストキスもお前のもんだ。安心しな。」


「嘘っ!いつ?私、知らないっ!」


「あれは・・・小3だったか?ああ、遠足の帰りだ。お前、バスの中で寝てたから。」


「信じられないっ!」


「その後も、ちょくちょくキスしてたぞ?お前、無防備にどこででも寝るからだよ。
 これからは、気をつけろよ?」


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ」



真っ赤になって蹲ってしまったに、また景吾が笑う。





その日。ふたりは幼馴染から恋人になった。




















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