ふたり 13





「あーあ。お前のせいで遅れちゃたじゃん。跡部に怒られるぜ?」


「大丈夫やって、岳人。俺は跡部に恩を売ってあるからな。遅刻ぐらい、どうってことあらへん。」



忍足・向日ペアが遅れてコートに姿を現したのに、
フェンス周辺にいた女の子達が黄色い声をあげた。
ジャージを肩にかけ、仁王立ちになっている景吾がチラッと視線を流す。


ニコッ。忍足が微笑みかけた瞬間。



「遅刻だっ!学校10周してきやがれっ!」


「「ゲッ」」



忍足と岳人が同時に言ったが、無視された。
顔も見ずに、片手だけで『さっさと行けっ』のジェスチャー。



「はぁ、はぁ。なんだよっ、全然っ恩なんか感じてねぇじゃんかよっ」


「あいつに・・・普通の人間と同じ感覚を求めた俺が・・・はぁ・・・アホやった・・はぁ・・・しんどっ」



氷帝学園の敷地は広い。
これは、青学の手塚が言う『グラウンド10週』の数倍はあった。





忍足が戻ってくると景吾の姿がない。
なんとなく気になって見てみると、準レギュラーのコートの方にいた。


遠めで見るから分かる。
景吾が誰の姿を目で追っているか。


練習メニューのファイルをチェックしながらも、景吾の視線は宍戸に注がれていた。
レギュラー落ちすると、ほとんどがやる気を失くす。中には退部する奴もいる。
だが、宍戸はくさることなく1.2年生にも混じって練習していた。





しばらくして正レギュラーコートに戻ってきた景吾に、忍足は近づいていった。



「愛のキューピッド忍足に酷い仕打ちやな。ちゃん、可愛がってるか?」


「気持ち悪い名前をつけるな。部活中の私語は慎め。あと、俺の女の名前を気安く呼ぶな。」


「俺の女ときたか。俺の女にしてあげたんは、愛のキューピットおし・・・痛いっ」



ゲシッと、膝を蹴られた。激不機嫌な顔で睨まれて、忍足は肩をすくめる。



「宍戸、頑張っとるよなぁ。岳人が言うには、鳳と特訓してるみたいやで?
 ホンマに這い上がってくるかもしれん。」


「ふん。そんときゃ、お前がレギュラー落ちかもな。せいぜい頑張るこった。」


「酷っ」



ふふん、と笑って。景吾がコートに入っていった。
忍足も蹴られた膝を摩りつつ苦笑する。


氷帝の大将は、実は情に厚い努力家や。けれど、それを人には見せない。





そう・・・たった一人の女の子以外には。










どうして今まで触れないでいられたのだろう?
不思議に思える。


心も体も、すべてが求めている。
お互いが、お互いの存在を。


想いを告げあった、あの日から。
僅かな時間も惜しんで、二人は共に過ごしている。


部活の帰りは、自分の家に帰るより先に家の門をくぐった。



「充電だ。」


「え?私・・・電気?」


「バカ。」



を腕に抱いて、軽いキスをして。
それだけで景吾の心が癒されていく。



最近は学校でも彼女を近くに置いた。
幸いクラスが同じなので目が届く。



跡部景吾とが付き合うようになったらしい。
その噂は、あっという間に校内に広がっていった。


宍戸とジローは。
「「え?昔から付き合ってただろ?」」 きょとんとしていた。


ライバルが跡部。
そうなると、さすがの男の子達もしり込みをする。
に密かに憧れていた男の子達は涙を呑んだ。


やっかむ女達は山のようにいたが、悪口は言えても手は出せない。
いつも景吾の目が光っているし、彼がいない時でも2年生のドデカイ用心棒がついていた。
「天然」とか「目立たない」とか「可愛くない」などなど。
陰口で嫌がらせをする女の世界。


が、本当に天然でお嬢様育ちのには通じていなかった。
というか、気付いていないと言うのが正しい。



「女の嫉妬はみっともないで?せっかくの可愛い顔が台無しやん。」


「え・・・忍足くんっ」


「陰口叩くと、心まで汚れるから・・・やめとき。なっ」



忍足も、しっかりと影で釘をさしていた。
ということで忍足の株が裏で急上昇していた。










コンソレーションは聖ルドルフを楽々と破って、関東大会へ進めることが出来た。





そして、宍戸が戻ってきた。


激しい特訓を重ね、諦めなかった宍戸。
自慢の髪を切ってまで監督に頭を下げる姿に胸が熱くなった。


一言だけ、景吾が監督に言葉を添えて復帰が決まる。


宍戸は『よけいなことをっ』と景吾に憎まれ口を叩いたが、本当は嬉しかった。


自分のためにも。
練習に付き合ってくれた鳳のためにも。
そして黙って見ていてくれた、氷帝を背負った友達のためにも。


もう二度と負けはしないっ!


宍戸は強く心に誓った。





宍戸に敗れて、滝がレギュラーから外れた。
景吾の心が痛まなかったといえば嘘になる。


だが、強い者、諦めない者が上にいく。それが、この世界だ。


滝にその心があれば、また上がってくる。





関東大会。一回戦は手塚のいる青春学園だ。





今は前を見る。





共に戦うメンバーは揃ったのだから。










二人で過ごす時間。
を後ろから抱きしめるようにして、お気に入りのソファーでくつろいでいた。



。今度の試合、見に来いよ。」


「うん!手塚君も出るんだよね?」


「・・・・・。」



柔らかく彼女の髪を梳いていた景吾の手が止まる。
不思議に思って振り向けば、複雑な顔をした景吾がいた。



「あ・・・景ちゃん。あのね、別に変な意味はなくて。
 あの・・・ほら。知ってる人が手塚君しかいなくて・・・」


「お前、多分もう一人知っていることになる。」


「え?誰?」


「手塚の・・・彼女がシングルス2に出てくるだろう。」


「ええっ、青学って女の人が出るのっっ」



景吾は眉間に手を当てて溜息をついた。
が、ここで事実を伝えておかないと、試合当日にパニックになられても困る。



「いや。不二は男だ。」


「ええっっ、手塚君は男の子と付き合ってて。その子が女装してるのっっっ??」


「・・・お前の頭の中は、そんなもんか。バカ。」


「わかんないよっ」


「お前が見たのは、文化祭の出し物のために女装させられてた不二だ。
 アイツと手塚が付き合ってるかまでは知らねぇが。」


「待って。じゃあ、景ちゃん・・・あの時。私が失恋した時っ」


「ああ、知ってた。」



ガバッとが体の向きを変えて、景吾と向き合う姿勢になる。
景吾がまた溜息をついた。



「酷いっ!私が勘違いしてるの知ってて言わなかったなんてっ」


「俺だって気付いたのは後でだ。なんだ?お前、まだ手塚に未練があるのか?」


「ちがうっ、手塚君には・・・憧れてたって感じで。景ちゃんを好きって気持ちとは全然違うよ?
 苦しいくらい・・・泣きたくなるくらい好きなのは、景ちゃんだけだもんっ!でもっ・・・」


「お前・・」



がムキになって話しているのに、優しい目をした景吾が手を伸ばしてきた。
頬に触れて、そのまま後頭部にまわった手が、の体を引き寄せる。
自分の腕に倒れてきた体をふんわり抱きしめると頬を寄せて目を閉じた。



「ちょっ・・・景ちゃん?」


「お前、可愛いな。」


「何言ってるの?そんなこと言っても誤魔化されないんだから。」


「お前がこうして腕の中にいる。
 もしも、が手塚に惚れたままだったとしたら・・・ここにお前はいなかった。
 だからいいだろ。何か問題があるか?ん?」



言いながら、想いを込めて髪を撫で続けた。


景吾の胸に抱きしめられて、そう囁かれてしまったら。
に反論など出来るはずもなく。



「ないけど。なんか・・・なって、感じ。」

と、小さく呟いただけだった。



には見えていない。
自分を抱きしめている景吾が、どんなに柔らかい表情で目を閉じているか。


さっき、が告げた『景吾が好き』という想い。


それが、まっすぐ景吾に届き心を満たしていった。





彼の胸の内は。





という幸せに溢れている。




















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