ふたり 2








「下手くそっ!お前、運動神経をどこに置いてきやがったんだ!ああん?」
「信じられない。全国レベルの景ちゃん相手に、どうしろって言うの?」



はラケットを片手に文句をたれる。すらっとした足がスコートから伸びていた。
スタイルは、まずまず。もうすこし・・・胸が成長しないとな。


勝手に自分のものと決めてしまった彼女の、成長具合をチェックする。





ここは、跡部邸の一角にあるテニスコート。
家にテニスコートがある時点で、他と違う。
たまの休日。景吾は、にテニスを教えている。
全国にも『跡部景吾』の名前が聞こえ始めていた。
それは、跡部家のことではなく・・・景吾自身が培ってきたテニスでだ。


そんな景吾が、ど素人の相手をするなどということは、ありえない。
けれど、相手が、であれば別だ。
口汚く罵りながらも、根気よく相手をしてやる。


にしても、進歩がない。ため息が出る。


生まれてくる子供が、に似たなら・・・テニスは絶望的だな。
そん時は、英才教育で経営学でも叩き込むか。


などと、すでに将来の展望を描いている景吾だった。





ふたりは、来春には中学生。既に大人に成長している景吾と。
まだまだランドセルが似合っている、
それでも、やっぱり。ふたりは一緒だった。





汗を流して部屋に戻ると、がソファで寝ている。
景吾の部屋に置かれているソファは、品は良いが古いものだったから、
親が買い換えようとしたこともあった。
が、景吾は変えなかった。
そのソファーは、のお気に入りだから。それだけの理由だ。


小さな体を更に小さくして眠っている姿が、可愛らしい。
景吾は、の枕元に跪くと、頬にかかる髪をどけてやった。
そして、そっと唇にキスを落とした。


何度目のキスだろう。
どこでも無防備に寝てしまう、に。もう何度となく、キスをした。


目覚めればいいのに。そう思う。
おとぎ話のように。自分のキスに目覚めて、俺に恋すればいい。


しかし、現実のは・・・爆睡している。
例え、地震が来ようとも、起きそうになかった。


「ったく、お前はいつになったら、女になるんだ?」


景吾のつぶやきなど知らず、は夢の中だった。





春が来て。晴れて二人は中学生。


景吾にはテニスという、更に上を目指す戦いが待っていた。


そして、には・・・初恋が待っていた。





氷帝のテニス部は、関東・・・いや全国にも名を知られたテニスの名門校だった。
そこは弱肉強食。学年に関係なく、強い者が上に行く。負けたものは、去る。
景吾には、願ってもない部だった。
学年が下だからといって、ペコペコする必要もない。
強ければいいのだから。


それでも『生意気』などと、嫌がらせをされることもあったが、
そんな時もテニスで打ち負かしてきた。
監督も景吾に目をかけて、影から庇ってくれたおかげで、
景吾は俺様のまま1年からレギュラー入りした。


毎日。テニス。テニス。テニス。楽しかった。楽しいことには、努力は惜しまない。
けれど、決して他人に努力は見せないのも、景吾の美学だ。


勉強も常にトップを維持。テニスも、レギュラー。何もかも、やるからには、一番を目指す。
ついつい、への目配りがおろそかになっていた。





は毎日、遠くから景吾を見ていた。
初等部から、目立っていた景吾だか・・・
中学に入ると比べ物にならないほど人気者になっていた。
花形のテニス部に現れたプリンス状態。
黄色い声援が飛び交う中を、景吾は平気な顔でプレーする。


跡部ファンクラブなるものが、秘密裏に作られているとかいう噂。
まんざら嘘でもなさそうだ。
は、みんなの熱気が恐ろしくて、とてもじゃないが景吾に近づけなかった。


お嬢様育ちの上に、景吾にがっしりガードされて育ったは、おっとりしていた。
とても人を押しのけて、前に出るようなタイプではない。
は、清楚で可愛らしかったが、
今時の女の子のような華やかさや、派手さはなくて、おとなしかった。
あまり目立たない。本当は、それが幸いしている。


跡部景吾の幼馴染というだけで、目をつけられてもおかしくない。
だが、影の薄いは、特に苛められることもなく学園生活を送っていた。


景吾も、そこら辺は心得ていて。
むやみに学校内で、に接近することは避けていた。
実際は接近したくても、人が寄ってきて、なかなか行けないというのが本当だったが。


その分。空いた時間は、を傍に置いた。
勉強を見てやったり、たまにはテニスの相手をしたり。
しかし、徐々にそんな時間さえ、テニスに削られていった。


時々。どうしようもなく、が不足する。
そんな時は、部活がどんなに遅くなっても、を呼び出した。



「俺だ。今日は、俺んちにいろ。飯は、俺が戻るまで食うなよ。」
『ええ?景ちゃん、明日は』



まだ何か話していたが切る。
に何の用事があろうと、自分以上に優先されることなどあるわけがない。
恋はしていても、俺様の景吾だった。


真っ暗になった頃の帰宅。
疲れた体。それでも、が待っていると思えば、気分が違う。
玄関に着くと、執事の出迎えも聞かずに、そのまま自分の部屋に上がる。
が来ているはずだから。


ドアを開けると、やっぱり、はソファーで寝ていた。


『何故かソファーに座ると眠くなる。』


冗談みたいなことを、は言っていたが。本当だと思う。


ネクタイをシャツから抜き取ると、テーブルに放り投げて、のとなりに座った。
は、膝の上に数学のノートを広げて、
片手にはシャーペンを握ったまま眠っている。


よく、こんな体勢で眠れるもんだ。呆れながらも、の肩を抱き寄せた。
自分の首元に柔らかな、の髪が触れて、心地よい重さの頭が預けられる。
の髪にキスをしながら、景吾は目を閉じる。


充電・・・。


こうやって、が不足するたび、景吾は身勝手にを呼び出した。



自分が寝ている間に、何をされているかを知らない、
いつまでも幼馴染だと思っている。


ただの幼馴染。
頑張っている景吾を見るたびに、邪魔をしちゃいけない・・・と遠慮する。
そして、少しずつ離れていく景吾に寂しさを感じながらも、何も言えずにいた。


景ちゃん、凄いな。だんだん遠くなるみたい。
私なんか・・・そのうち、相手にもされなくなっちゃうのかな。


そんなことを思っては、何のとりえもない自分が悲しくなる、だった。


今日も、は遠くからテニスをしている景吾を見ていた。
ランニングから戻ってきた亮が、に気づいて声をかけてきた。



「よお。。んな隅っこで、何してるんだ?」
「ああ。宍戸君。」


景吾と同じテニス部の亮。
彼は、まだレギュラーじゃないから、みんなと同じジャージを着ていた。
しかし、準レギュラー入りをしている実力者だ。
中学に入ってから、随分と髪が伸びてきていた。



「ちょっと、景ちゃんの様子を見てた。」
「相変わらずだぜ。先輩に反感買ってるし。」

「あっ、じゃん!ひっさしぶりぃー!」



後ろから顔を出したのは、ジロー。くしゃくしゃっと、の頭を撫でる。



「やめて、ジロちゃんっ」 とか、言いながら、もジローのくせ毛をひっぱる。
まるで子犬がじゃれているようで、亮はため息をつく。



「ふーん。なあ。あの子、誰や?」
「ああ。あれは、。跡部の幼馴染らしいぜ。」



この学園では珍しい関西弁を喋る忍足に、岳人が簡単に答えた。


近いうちに氷帝学園テニス部を背負う準レギュラーたちだ。





は少し立ち話をして、手を振って別れた。



ーっ。またねぇー!!」



ジローが別れを惜しんでいる。



「おい。って、呼び捨てにすると、また睨まれるぜ。」
「へーき。へーき。跡部は、俺には甘いもんね。」

「お前。お子様キャラだからな。跡部も、お前にはガードが甘いか。」



亮やジローは、跡部がどんなに、に対する独占欲を見せるか、幼い頃から知っていた。


だから、ふたりはもう付き合っているんだと思い込んでいた。





その日、1年だけのミーティングがあった。
まとめるのは、一人レギュラーの景吾。


ミーティングが終わった時・・・突然、忍足が言った言葉に、亮は息が止まるかと思った。



「なあ、跡部。ちゃんって、可愛いな。
 俺、彼女にしたいから、紹介してくれへん?」



怖い物知らずの爆弾が落ちた。


亮は、身動きひとつ出来ずに、景吾と忍足の顔を交互に見つめた。


ジローは楽しそうに、笑っている。


岳人が、ヒューと口笛を吹いた。


滝は、綺麗な笑顔を浮かべながらも、目は輝いている。





そして、景吾は・・・静かに燃えていた。



















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