ふたり 4
が、初恋をした。
それも、景吾にでは、ない。
こともあろうに・・・景吾がライバルになると目をつけていた。
青学の手塚国光に、恋をしたのだった。
「ちょっ・・・跡部。勘弁しろって。も・・・走れねぇって。」
「はぁ?お前は、持久力が足りねぇんだよっ!空ばっか、飛んでんじゃねぇっ」
コートに座り込んだ岳人に、景吾の怒声が浴びせられる。
「うへぇーっ。跡部、超機嫌、悪いな。」
「宍戸。近づかん方がええで。噛まれる。猛犬注意ゆうところやな。」
「何があったんだ?」
「まっ、ちゃんがらみと見て、間違いないな。面白うなってきたわ。」
くくくく・・・と笑う忍足に、宍戸は『コイツも敵にまわすまい』と、心に誓った。
景吾は、イライラをテニスにぶつける。
自分には、もともと厳しい人間だ。
それでなければ、トップは目指せない。
それを、他の部員達にも求める。着いて来れない奴は『氷帝にはいらねぇっ』と。
は、手塚のことを思うだけで、ドキドキする毎日。
青学がどこにある学校か、一応調べてみた。
地図の上、青春学園と書かれている文字を見ただけで・・・
手塚の涼しい瞳を思い出して、ときめいた。
もう一度・・・会いたいな。テニス部だって言ってた。どんな、テニスをするんだろう。
毎日、手塚のことを思って過ごす。
しかし・・・
「おい。、今夜・・・そっちへ行くからな。飯、準備しておけよ。」
「。今日は、俺のところで待ってろ。飯、先に食うなよ。」
「。俺の代わりに、散歩に行っといてくれ。ブラッシング、忘れるなよっ」
「今晩。パイ焼いて来い。お前が得意なやつだよ。あれ、食いたくなった」
頻繁にかかってくる景吾からの電話。
跡部家には、使用人がたくさんいるのに・・・何故か雑用を言いつけられる、。
景吾の愛犬にブラシをかけながら・・・は、ため息をつく。
私・・・このまま跡部家の使用人になったりして。
使用人ではなく、妻にと・・・望まれているのだが。だけが、気づいていなかった。
そんなある日のこと。
は、忍足に声をかけられた。一瞬、身構える。
景吾から、散々『変な関西弁を喋る男がいるが、アレには気をつけろ。』と
言って聞かされていたからだ。
「あははは。そんなに、警戒せんでも。跡部に、なんか吹き込まれたんやろ。
大丈夫。なんも、せぇへんよ。 あのな、青学って知っとる?」
が、反応する。
その表情に、忍足がニヤッと笑ったことなど気がつかない。
「今週末、俺ら青学に練習試合しに行くねん。
いうても、試合に出るのは2年生のレギュラーばっかりやけど。
ちゃんも、応援しに来たらどうや?跡部は1年でも、レギュラーにくいこんどるから出るし。」
「景ちゃん、出るの?」
「ああ。たぶんな。」
青学。行けば、手塚に会えるだろう。声はかけられなくても、姿を見るぐらいは・・・。
揺れるに、忍足は試合の時間を告げて去っていった。
青学との練習試合。
景吾は、に教えなかった。諦めさせるためには、会わせないのが一番だ。
青学は、1年を出してこないと聞いて・・・イライラはピークだった。
手塚のテニスが見たかった。試合だってしたい。
帰りにとっ捕まえて、試合するか。その計画で、なんとかイライラを抑えた。
どこで聞きつけたのか、相変わらずギャラリーが多い。
青学はもちろんだが、氷帝の制服も多かった。
日曜日なのに、生徒が多いのは・・・文化祭が近いからだと誰かが言っていた。
文化祭準備の生徒たちまで、面白そうだと・・・テニスコートに集まってきたらしい。
もともと人が多いのは、平気な景吾だが。
その中に、の姿を見つけて・・・心底腹が立った。
のもとへ行こうとしたら、後ろから忍足に腕を掴まれる。
「こらこら、跡部。もう、始まるから。勝手な行動したら、あかん。」
「うるさいっ。離せっ」
「あっ。ちゃん、来てるやん。ほら、手を振ってやらな。おーい、ちゃーん。」
「忍足っ!てめぇ」
忍足の手を振り払った。
「ちゃん。手塚に惚れてるんやろう。」
景吾の目が見開かれる。
「やっぱり。当たりか。跡部。大事なもんは、ちゃーんと手の内にしとかんと。
トンビに油揚げになるで。あっ、俺もトンビやけど。」
「お前・・・。」
「おお。こわっ」
くそっ。
景吾は、少し乱れたジャージを直す。
忍足があまりにも腹立たしかったせいで、かえって冷静になった。
みっともない自分を人に見せるのは、景吾の美意識から外れる。
今さら、のもとに行って、騒ぐのはみっともない。
の心。攫えるものなら、攫えばいい。相手が誰であろうと、取り返すまでだ。
そう心に言い聞かせて、試合に臨んだ。
忍足は、横から景吾を見ていて・・・ちょっと感心した。
結構、強い精神力持ってるんやな。
冷静さを取り戻し、怖いまでの集中力を見せる景吾。
人とは違うものを、確かに持っているようだった。
試合。景吾は勝った。
フェンスの向こう。手塚の姿を見た。
普通のジャージを着ている。
何ぐずぐずしてるんだ?さっさとレギュラージャージを着て来いよ。
視線で手塚に話す。手塚も、じっと景吾を見ていた。
試合に集中している間は、のことなど、忘れていた。
練習試合が終わって、ハッすると・・・の姿が見えない。
?
2年生たちが青学と話をしているのに、景吾は堂々と抜け出す。
の姿を探していたら・・・大きなポプラの木の下に、その姿をみつけた。
「おい・・・」
近付いて声をかけたら、がゆっくりと振り返った。
「景ちゃん・・・・」
景吾は、の顔を見て、次の言葉が出ない。
の瞳には、今にも溢れそうなほど涙が溜まっていた。
近付くと、が手を伸ばしてきた。
その手を取ると、ポスンとの小さな体が自分の胸に飛び込んできた。
「景ちゃん・・・」
の声が泣いている。何がどうなっているのか、全く分からないが・・・とにかく、抱きしめた。
ぎゅっと抱きしめて「どうした?」と聞いてやる。
「んっ・・あのねっ・・・手塚くんっ・・彼女・・いるっ」
途切れながら搾り出された、の声。
を抱く腕の力が強くなる。
あの・・・野郎。まじめくさった顔をしやがって、なに女なんか作ってんだっ!
先に、レギュラー取れよっ!
自分に有利になったことなど忘れて、心の中で手塚を罵る。
「そうか。しかたねぇだろ。諦めろ、。」
「うん・・・。凄く・・・綺麗な・・・人・・だったもん。だめだ・・・ね。」
綺麗だと?ますます気にくわねぇ!
「バカ。お前だって、綺麗だ。負けてねぇよ。」
の髪を撫でながら、囁いてやった。が顔を上げる。
涙に濡れた瞳で、少し微笑んだ。
「景ちゃん。こんな時は・・・いつも優しいよね。昔から・・・。ゴメンね。甘えちゃって。」
「いいさ。」
の頭を自分の胸に押し付ける。その髪に、キスを落としながら、景吾は目を閉じた。
泣きながも、は不思議な感覚だった。
耳に響く、景吾の鼓動。
とても、穏やかな気持ちになる。
いつのまにか涙は止まっていた。
も、目を閉じて。景吾に身を任せた。
遠くから聞こえてきた人の話し声に、が、さっと体を離す。
景吾は、あまりにいい抱き心地に、場所を忘れていた。
「おい。なんだ?」
勝手に、離れるなよ。もう少し、抱かせろっと、心の声。
の温もりが消えて、いきなり不機嫌な景吾だった。
「人が・・・来るから。もう・・・帰る。」
「お前。今日は、うちに来い。一緒に、帰るぞ。」
「景ちゃん・・・うん。ありがと。」
が微笑んだ。景吾が、手を差し出すと、が小さな手を載せた。
子供のころのように。景吾は、の手を引いて氷帝が集まる場所まで連れて行く。
「ありゃ。雨降って、地が固まってもうたかな。」
手をつないで歩いてきたふたりを見て、忍足の悔しそうな、つぶやきが落ちた。
校門を出たところで解散となる。景吾は、自分の車を呼ぶと、を先に押し込んだ。
「ちょっと、待ってろ。忘れ物をした。」
そう告げると、テニスコートに向けて急いだ。
青学のレギュラーは、そのままミーティングに入ったようだ。
一年生が、コート整備をしている。
手塚の姿を見つけた。
手塚も1年生のリーダー役をしていた。次期部長は、手塚だろう。
コート整備をしている一年生に指示を出している。
近付いて行こうとすると、私服姿の小柄な人間が手塚に近付いていった。
薄茶の肩までの髪。
華奢な体。ベージュのニットに、チェック柄のパンツをはいている。
女か?
親しげに話しているふたりに、後ろから近付いていった。
手塚が、先に気がついた。
「よお。」
景吾の声に、私服姿の女が振り返る。・・・が。
「お前・・・不二?」
ああ・・・という感じで、不二が微笑んだ。
天才 不二周助。
小学校テニストーナメントで見かけた顔だった。
にしても、どっから見ても女だ。うっすら、化粧までされている。
「どうしたんだ。んな格好。お前の趣味か?」
「酷いな。テニス部の出し物だよ。文化祭の。僕が、1年の生贄にされたんだよ。ねぇ、手塚。」
「女装・・というから。適任を選出しただけだ。跡部は、なんだ?」
「いや。不二。ずっと、その格好でいたのか?」
「試合中は、ちゃんと応援してたよ。終わった途端、衣装合わせがあったから。」
「ふーん。」
景吾には、だいたいの話が見えてきた。だが、念のため。
「手塚。お前、女がいるか?」
手塚の眉間にしわが寄る。口を結んだまま、じっと景吾を見た。
何を言い出したんだ・・・この男?の顔だ。
「へえ。手塚って、彼女いたんだ。初耳だな。」
不二が、嬉しそうに笑った。
「そんなものは、いない。跡部。何の用事だ?」
自分の推理が正しかったことに、景吾は満足した。
「いや。もうすんだ。あっと、いい忘れてたぜ。お前、早く出て来いよ。試合しようぜ。」
「・・・・青学は2年からだ。」
「けっ。んな決まり・・・お前の実力なら関係ねぇだろう。」
「決まりは、決まりだ。用事は、それだけか?」
「ふん。早くしろよ。俺様は、そうそう待てないぜ。じゃあな。」
立ち去りかけて、景吾は振り返る。
「不二、最高にイカシテルゼ。」
クスッと笑った不二が、手塚を見上げた。
「だってさ。手塚。」
「・・・・・・。」
車に戻るまで、笑いが止まらなかった。
が、綺麗な人・・・といったのは不二だ。間違いない。
確かに綺麗だったが・・・不二は男だ。それも、なかなかの実力者。
を乗せた車が見えてきた。笑いを無理に引っ込めた。
いいさ。手塚には女がいる。それでいい。
後は、を落とすだけ。自分の物にすればいい。
また、笑いがこぼれそうになり・・・気を引き締めた。
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