ふたり 5






。」



いつの間にか、声変わりをした景吾。
大人の声で、の名前を呼ぶ。



「おら。プレゼントだ。ありがたく受け取りやがれ。」



とんでもなく横柄に、差し出されたのは・・・子犬だった。


ミニチュアダックスフンド。景吾は全くもって興味のない犬種だが。
以前から、が飼いたがっていた。


それを思い出して。
景吾が手配し、わざわざ顔も見て選んだ子犬だった。



「きゃぁぁぁぁ!かわいいっっっ!」



は飛び上がらんばかりに喜んだ。そして、子犬を抱きしめると頬摺りをし始める。
その姿を見て。



お前のほうが、よっぽと可愛いんだよっ。などと、思う・・・景吾だった。



「ねぇ。でも、どうして?誕生日でも、クリスマスでもないよ?」



子犬に顔をなめられながら、が聞く。



「犬の世話でもしてりゃあ、忙しくて、ぐだぐだ考えずにすむだろうよ。」



景吾はチラッと視線を寄こして言うと、なんでもないように本を読み始めた。
は、目を大きくして、景吾を見つめる。


それは、失恋した自分への慰めなのだと。は気がついた。
知らんふりで本を読んでいる景吾の横顔を見つめながら、その優しさが心に沁みる。
こみ上げてくる涙を飲み込んで。


は、わざと明るい声を出した



「景ちゃん。名前、何にしよう?やっぱり、景吾?」


「俺様の名前を犬につけようってのか?あーん?」


「じゃあ・・・太郎?」


「それは・・・やめとけ。監督の名前だ。」


「えーっ、何にしよう?為吉?」


「日本名はやめろっ!日本っぽい顔、してねぇだろうがっ」


「だってぇ」


「っていうか、そいつ。オスだったか?」


「ええーっ」



いつものボケとツッコミ。景吾は口元を緩めて、目を細める。


こうやって過ごす、なんでもない時間。
それが。何よりも安らげる・・・大事な時間。





何があっても、コイツは離さない。と、心に誓う。





も、心が癒されていくのを感じていていた。
景吾の近くにいるだけで、気持ちが落ち着いた。初めての恋は失ったけれど。
一日泣いたら、すっきりしてしまった。


それも。景吾のおかげだと思う。



「景ちゃん。ありがとうね。」



ポツ・・・と言った、に。景吾は、何も言わず。頭を撫でてやった。


微笑みあう、二人。


は、一段。大人への階段を昇った。










「へぇー。子犬っ!いいなぁ。なぁ、。今度、俺にも見して!」



人懐っこいジローが、に纏わりついている。
その横で、宍戸は呆れていた。



中学生が・・・血統書つきの子犬をプレゼントするか?
自分ちの犬が産んだ子犬でも、ないんだぜ?誰か、つっこめよっっっ



が。お嬢様育ちのは、嬉しそうに笑っているし。天然のジローも気づいてない。
後ろにいた忍足だけが。



「金にもの言わせてからに。あーあ。いやや、いやや。」などと、文句をたれていた。





は子犬を可愛がった。
忙しい日々。懐いてくる子犬。
そうこうしているうちに、手塚への想いは・・・淡くなっていった。


その隙間に入り込んできたのは・・・景吾。
景吾は忙しい時間をやりくりして、との時間を作りだしていた。


子犬をダシに。遅くなっても、の家に寄って、顔を見ていく。
以前よりも、もっと頻繁に、を呼び出す。


学校では、かまえないぶん。家で、を独占する。


家にいるときは、自分が用事をしていても、彼女を近くに置いた。
もおとなしく、自分の課題をしたりして、景吾の近くで過ごす。


二人だけの空間は、心地よく過ぎていった。





景吾たちは二年生になった。景吾の俺様は変わらない。
部活内では先輩に嫌われていたが、実力は光っていた。
先輩であろうが、容赦なく打ち負かし。上に昇っていった。


だから、誰も何も言わない。


宍戸、ジロー、忍足、滝も力をつけてきていたが。跡部は飛びぬけていた。


目立てば目立つほど、周囲は跡部を放って置かない。
彼がコートに立つだけで、黄色い声が飛び。いつの間にか、
跡部コールなるものまで生まれた。


そして。いつの間にか、学園内で『跡部景吾』の名前を知らないものなどいないほどの
有名人になっていた。





外では華々しく活躍し。女の子たちとも、適当に遊んだ。
女の子は、次から次へと現れて『好き』とか『付き合って』と、同じよなことを言った。
顔も名前も覚えはしない。外へのアピールとして、ちょっと付き合う。


テニスがあるから。昼休みに、ちょっと付き合ってやるだけだ。
大事な休日を使ったりはしない。


跡部は、とっかえひっかえ女と遊んでいる。


そんな噂は、瞬く間に広がっていった。
遊ばれてもいい・・・と。それでも、女の子たちは寄ってくる。



バカじゃねぇの?



そんなことを思いながらも、練習台代わりに遊んでいた。





大切な、は。そっと、自分の部屋に閉じ込めて。





景吾も、幼かった。


ただ、は大切で。大切すぎて、には手も出せず。
自分の近くにおいて、独占するのが精一杯だった。


を囲い込みながら。


を守るため。外に向けては、になど、まるで関心がないように装い。
女の子と遊んで、に嫉妬の目が向かないようにしているつもりだった。


だが、言葉の足りない景吾だ。


には、景吾の気持ちが・・・届いていなかった。










学校では雲の上の人みたいになってしまった幼馴染。
廊下で見かけても、自分のことなど視界の隅にも入っていない。


次々と耳に入ってくる女の子との噂。
実際に、綺麗な女の子と渡り廊下を歩いている景吾を教室から見たことがある。


この前は・・・


『跡部君。キスが上手なんだって。』


女の子達が騒いでいた噂話に。は、言葉を失った。
さりげなく席を外し、廊下に飛び出す。


胸がドキドキして。苦しくて。切なくて。
その感情がなんなのか分からずに、泣きたくなった。



なのに。



『俺だ。お前、今日は俺のとこ来いよ。この前の英語。教えてやるから。』


「いいよ。景ちゃん・・・疲れてるでしょ?」


『疲れてねぇよ。余計な気まわしてねぇで、来いっ!分かったなっ』





ブッ。と、切られる電話。


こうやって、3日にあけず呼び出してくる景吾。
二人でいるときの景吾は優しくて。昔のままだ。





は、溜息をついた。


何故だろう。最近、景吾といると胸が苦しくて。居心地が悪くて。
傍にいても、落ち着けなくなってきた。


どうして?


その答えを、今のには・・・見つけられなくて。










自室のドアを開けて。景吾は内心で舌打ちをした。
今夜も、は起きている。


いつも、うたた寝しているソファーにちょこんと座って。





「おかえり」と、笑顔を見せる。





今日も触れられねぇ。キス・・・何日してないだろう。





の唇をじっと見つめて。それから、ふい・・・と視線をそらす。
そらさないと、無理矢理にでも奪ってしまいそうだった。


その仕草を見ただけで、の心臓が冷たくなる。


自分は、迷惑をかけているんじゃないだろうか?
幼馴染だから・・・無理して付き合ってくれてるんじゃないだろうか?


も、景吾を見ていられなくて視線をそらす。





「アレックスも連れてきたのか?」





景吾は、自分の気持ちを誤魔化すように聞いた。
の膝には、成長したミニチュアダックスフンドが寝ていた。





「アレックスじゃないって。チョビ。チョビが迷うから、景ちゃんもチョビって呼んでよ。」


「いい加減にしろよ。その名前は、やめろって言ってるだろ?
 俺様に『ちょび』みたいな情けない名前を呼ばすなっ」


「なんで?可愛いのに。ねぇ、チョビ。」


「不憫だな・・・。飼い主を選べないのが不幸だ。」





の足元には、景吾の飼い犬までもが、気持ち良さそうに眠っている。
ご主人様が戻ってきたのも気付かないほど爆睡している愛犬を腹立たしく思いながらも。
犬まで、に懐いて安心しきっているのに、苦笑した。





の目の前でシャツを脱いで行く。
広い肩幅に。思わず赤面してしまったは、慌てて視線をそらした。





「景ちゃん!着替えは、向こうでしてよっっ」


「はぁ?」





初めて気付いたように、景吾が顔を上げる。





「女の子の前で、服脱がないでっっ。あっち!」


「今さら何いってんだ?風呂にも一緒に入った仲だろ?」




ニヤ・・・っと笑って、景吾がいう。
それだけで、かあぁぁ・・・と顔が赤くなるのを感じて。は、焦った。





「とにかく、見えないとこで着替えてっっっ」





怒鳴るに、犬たちも顔を上げる。





「はいはい。見えないとこで着がえりゃいいんだろ?
 ちなみに俺は、お前がここで着替えても平気だぜ。」





笑いながら、景吾は寝室に消えていった。
の反応に。少しは自分を男として意識し始めたか・・・と、気を良くして。





だが。は、傷ついていた。
目の前で着替えても平気でいられるくらい。自分は、女の子として・・・見られていないのだと
思い知らされた。


幼馴染なのだから、そんなものなのかもしれない。
けれど・・・。
それが、悲しくて。胸が痛かった。


そして。は自分の気持ちに気付いたのだった。





ひとりの女の子として見てもらえないのが悲しいのだと。


ただの幼馴染でしかないのが悲しいのだと。


景吾に・・・恋愛対象として見てもらえないから、胸が痛むのだと。


は、気付いてしまった。





物音がして。景吾は着替えたシャツのボタンを締めながらドアを開けた。


自分の愛犬が、ドアの前で寂しそうに座っている。


そして、の姿は消えていた。





「アレン、は?」





景吾の問いかけに。


きゅーん・・・と、愛犬の鳴き声だけが響いた。




















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