花が咲く 参











、今日は一緒に帰らないか?ちょっと頼みたい事があって。」


「私への頼み事は高くつくけど、いい?」
「怖いな。けど、にも悪くない話だと思うから。」



食堂で貞治に声を掛けられ、その日の午後は機嫌よく過ごした。
だけど待ち合わせした玄関で、気分は急降下してしまう。


下校する上級生の中に、あの人の横顔を見つけてしまった。





『乾クン、待った?』
『いえ。大丈夫です。じゃあね、。』



貞治の隣に立つ人が私を見て微笑む。
私は喉にせり上がってくるような想いを飲み込んで、慌てて頭を下げた。





そうして・・・遠ざかっていく二人を滲む視界で見送った日が蘇る。
高校生になって益々綺麗になった人は、私に気付くこともなく友人たちと笑っていた。


私は周囲を見渡し、貞治の姿を探す。


もう終わった二人だ。
分かっていても貞治に彼女の姿を見つけさせたくなかった。
そんな私の肩を後ろから大きな手が叩いてきた。


遅かった・・・と絶望にも似た気持ちで振り返れば、貞治はいつもと変わらない表情で私を見下ろしていた。



「どうしたんだ?情けない顔をして。」


「・・・貞治が遅いから待ち合わせの場所を間違えたかと思って。」
「ああ、ゴメン。上で手塚に捕まっていたんだ。じゃあ、行こうか。」


「待って、貞治」
「なに?」



きっと、まだ彼女は後ろにいる。
本当は貞治の制服に縋りついてでも、あっちを見ないでと言いたい。
そんな権利もないうえに、しつこい嫉妬だと思うけれど、どうしようもないの。


貞治が足を止め、私の言葉を待ってくれる。
どうしていいのかも分らず言葉を探す私の後ろで、大きな笑い声があがった。



貞治の視線が動くのを私は直視できなかった。





初めて貞治が作った年上のカノジョは直ぐに卒業していった。
その後の二人が、どんな付き合いを続けていたかは知らない。


だが、私たちが揃って高等部に入学した時には既に終わっていた。





、そんなに下ばかり見て何を探してるんだい?」
「・・・小銭」



頭の上で貞治の笑う気配がする。
ローファーのつま先ばかりを見て歩く私に、貞治が何度も話しかけてくれるけど顔が上げられない。


玄関先で元カノと出会った貞治は軽く会釈だけして何事もなかったように通り過ぎた。
それでも私は勝手に傷つき、落ち込んでいる。


バス停に来て、ポンと頭に大きな手が乗った。
びっくりして顔をあげたら貞治が悪戯っぽく笑って、ぐしゃぐしゃっと私の髪をまぜてきた。



「ちょっ、貞治!」


「そんな不貞腐れた顔した奴にはホワイトデーをあげないよ。」
「え?なに?」


「これからのホワイトデーを買いに行くんだから。」
「本当!?」


「やっと笑った。」



貞治は力を抜いて、仕上げのように軽く頭を撫でた。
その仕草に、私の鼓動がどんなに騒いでいるかも知らないで。





長い付き合いだからと贈り続けているバレンタインチョコは、貞治がカノジョと別れてからは本命チョコになっている。
そんなことを知るはずもない貞治だけれど、律儀に毎年お返しをしてくれた。
今年は何の気まぐれか、私と共にホワイトデーを探すことにしたらしい。



「ねぇ、。これが可愛らしくないかい?」



ファンシーな雑貨が並ぶ店内で恥ずかしげもなく品定めをしている貞治だ。
くたっとしたカメの縫いぐるみを指差され、思わず笑ってしまう。


貞治の可愛いはカメらしい。
そういえば小学生の頃はカメを飼ってたよね。



「貞治ほどカメに愛を感じない。」
「なぜ?カメは慣れると可愛いんだよ。」


「あ、貞治。ラケットのついたストラップがあるよ。これいいんじゃない?」
「そういえばエージたちが似たようなやつをジャラジャラとつけていたな。それよりの欲しいものは?」



興味がないのか、貞治は別の棚を物色し始めた。
私は貞治が熱中しているテニスのストラップが気になって、咄嗟に二つを手に取ってしまった。



赤と青。
青学カラーのラケットがついたストラップは安いものだったけれど、貞治とお揃いで持てたらいいなと密かに思ったから。


貞治が他を選んでいるうちにレジに並び、ストラップを包んで貰った。
あとで渡せたらいいなとワクワクしてカバンに仕舞えば、執念深くカメのマグカップを握った貞治が私を探していた。



「使いこめば愛着がわくよ、絶対にね。」
「今夜から使いこむね。ありがとう、貞治。」


「どういたしまして。」



貞治の押しに屈して、微妙なカメのマグカップとキャンディを買って貰った。
どんなものでも貞治がくれるものは私の宝物。


きっと今夜からは私のパートナーになってくれるだろう。



綺麗に包んで貰ったプレゼントを抱えて店を出ようとしたら、すまなそうな顔をした貞治に肘をひかれた。



「なに?まだ買うものがあるの?」


「そうなんだ。その・・・他の子にあげるお返し、が適当に選んでくれないかな?」



また落ち込んだ。
私の気持ちをどうにでもできる。



そんな貞治が嫌いで・・・、大好きだ。




















花が咲く 参 

2008/02/12




















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