花が咲く 四










誘われた理由は他の女の子たちに渡すバレンタインデーのお返し選びだった。
もちろん私へのお返しを買う理由もあったのだけど、
どっちが大きい比重を占めてるのか分からず気持ちが拗ねてしまう。


プレゼントを買って貰った後に貞治の頼みを聞かないわけにもいかず、
私は多少不機嫌になりつつも真面目に品物を選んだ。



「ありがとう。やっぱりこういう物は女のコに選んでもらうのが間違いないだろう?」



何気なく貞治は口にしたけど、今までは誰か他のコに選んでもらっていたのかと勘ぐってしまう。


貞治の買ったお返しは六個。
多い、少ないの基準は良く分らないけれど、それが全て本命だったらモテモテだ。



「貞治って、モテるんだ。そりゃ人気のテニス部だもんね。」



なんか刺のある言い方になってしまって、自己嫌悪に陥った。
それでも何一つ気にしていないフリだけは忘れない。



「ほとんどは断ったんだけど、女テニのコたちから渡されたものは断りにくくてね。
 あの手塚も女テニからの分は受け取ってるし、お付き合いってとこかな。」
「付き合いも大変なんだね。」



言い訳のような解説に心のこもってない相槌を打てば、紙袋を持ち直した貞治が私の顔を覗き込んだ。



だって俺以外の奴にチョコを配っていただろう?」
「あれは・・・向こうから欲しいって言われたり、色々と付き合いがあって」


「ほら、俺と一緒じゃないか。」
「そうだけど、一緒じゃない。」


「なにが?」
「なんでも!」



段々と腹が立ってきて、貞治を置いていくかのように歩き出す。
私が他の男子にあげたのは、全部が思いっきり義理。
恋愛感情の欠片もないことをお互いが知っていて渡したチョコだった。


でも貞治が貰ったチョコは違うかもしれないじゃない。
そんなことも分からずに一緒にされるのは嫌だ。


直ぐに追いついてきて隣に並んだ貞治は、おかしそうに笑ってメガネを押し上げた。



「まるでヤキモチ焼いてるように見えるんだけど?」
「な、なんで?貞治にヤキモチなんて焼かないよ!」



思いっきり指摘された焦りで、強く否定してしまった。
ここで可愛らしく「実は・・・」なんて告れる素直さがあれば苦しくもないだろう。
だけど長く友達として接してきた私が、突然に素直で可愛いコになれるはずもなかった。



「ああ、ハイハイ。そんなに強く否定しなくても分かってるよ。には冗談も通じないね。」



冗談・・・なんだ。



私は鼻の奥がツンとするのを感じながら、ビルの間に沈んでいく夕日を追うようにして歩いた。
それから後は会話も弾まず、帰宅する人で満員に近くなった電車に乗る。
入口から奥には進めなくて、扉が開けば押し出されそうな状態だ。
貞治は私をドアの脇にある僅かな空間に寄せ、庇うようにして立った。



「時間が不味かったな。どこかでお茶でも飲んでくれば良かった。」
「これからの時間、繁華街に近い方はずっと混むって。」



見上げるのも辛い状態で返事をしたが、目の前にある学生服が近くて困ってしまう。
できるだけ貞治と距離を取ろうと背中側に引っ付いてはみるものの、電車が揺れるたびに貞治の胸にぶつかってしまった。



「ゴ、ゴメンね。頭突きを食らわして。」
の頭突きなら耐えるよ。」



冗談めかして笑っては、電車が激しく揺れるたびに私の脇に手をついて庇ってくれる貞治。
その度に抱きしめられているような感覚に陥って、私は震えるようにして貞治の胸に埋もれていた。


温もりや吐息さえ感じられる距離。
もしも愛情を持って抱きしめられたなら、どんなに幸せだろう。


近すぎる私たちは、近いからこそ越えられない大きな壁があるみたい。
貞治が幼馴染でなかったなら、もっと楽に想いを打ち明けられたかもしれないのに。


こうやって何も告げられないまま、また貞治が誰かを好きになる姿を見ているしかないのだろうか。
私ではない誰かをこうやって胸に抱くのを遠くから見ているしか。







名前を呼ばれて顔を上げれば、ものすごく近くに貞治の顎があった。


こういう時、貞治は大きいなと思う。
いつの間にか私を追いぬいて、ひとりで大人になっていった。



「なに?」
「さっき、店で」


「店?」
「ああ、いや・・・思い違いだ。」



貞治は私を見下ろし、窮屈そうな手で私の頭を撫でた。
少しだけ笑うと瞳を細め「もう少しの我慢だから」と優しく言う。



私は僅かに首を横に振った。
だって我慢なんかしていない。


もう少し、あと少しだけ、こうやって貞治の腕の中に居たい。
私たちが降りる駅まで、あと三駅。



それまでお願い。
どうぞ私を抱きしめて。




















花が咲く 四 

2008/02/13




















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