花が咲く 五










昼休みに委員会の打ち合わせが入り、友達と一緒に食べられなかった。
今から食堂に行けば空いてはいるだろうが、寂しい食事になる。


売店で残り物のパンでも買って教室に戻って食べようか。
そんな思いを巡らせていたら不二君に誘われた。



ピークが過ぎた食堂は予想通りに空いていて、私たちは並んで座る。


学園内でも手塚君と人気を二分する不二君と並んでいたら目立つのだろう。
通りすがりの生徒がチラチラと見てくるから居たたまれないのだけど、不二君は平気な顔だ。



「いただきます。」
「い・・いただきます。」



不二君と一緒に食べると思うだけで、食事が喉を通るか分からないほど緊張してきた。
行儀よく挨拶した不二君は、笑顔でお蕎麦に七味をかけ始める。
私もウドンに七味をかけたくて、不二君が終わるのを待っていた。


だが・・・不二君の七味かけは一向に終わる気配を見せない。
七味が蕎麦の上に山を築きはじめて、さすがの私も眉をひそめた。



「不二君、そんなにかけて大丈夫?」
「ん?ああ、ゴメンね。さんもいるよね。かけてあげようか?」


「い、いいから!自分でかける。」



差し出された七味を受け取ると、もう残り僅かになっていた。
辛いものが好物だとは聞いていたけれど、これほどとは。
青学の貴公子と呼ばれたイメージが崩れていく。


もう少しかけた方がいいかなと悩んでいる横顔に思わず笑ってしまった。



「なに笑ってるの?」
「なんか凄くて・・・あまりに不二君のイメージと違うから。」


「そう?」
「不二君って優雅にスコーンにジャムでも塗って食べてそうなイメージだったんだけどな。」


「ああ、それも食べるよ。ただジャムじゃなくて、辛子味噌とか唐辛子ペーストを塗ってだけど。」
「絶対に変だよ、それ。」


「酷いなぁ。わりといけるんだよ?」



次々と今まで食べた激辛食品について語りだす不二君に、私は緊張も忘れて笑う。
外見は貴公子でも、中身は壮絶な嗜好を持つ不二君は面白い。


思いのほか話が弾んでいたら、後ろから丼の載ったトレーがテーブルに置かれた。



「楽しそうだね。俺がお邪魔してもいいかな?」


「乾も今から?遅いね。」
「まぁ、いろいろとあってね。」


「見てよ、貞治。不二君たら、お蕎麦に七味を山盛りにして食べてるんだよ。」



話しながら隣の椅子を引いた不二君に促され、貞治が腰を下ろした。
思いがけず貞治とも一緒に食事ができるのが嬉しくて、つい私は弾んだ気持ちのままで話をふる。
すると貞治は無表情のままで、「そう」と答えて箸を進め始めた。


不二君の激辛好きなど貞治には慣れたものなのかもしれなかった。
だけれど、あまりに感情がなく冷たい反応に私は戸惑った。



貞治、機嫌が悪い?



なんとなく感じた違和感とよそよそしさ。
ひょっとして不二君の前で親しげに名前を呼んだのが気に障ったのかと思う。
他に思いあたることもなくて、考え始めたら物が喉を通らなくなってしまった。


黙り込んだ私を気遣うように不二君が間になって、色々と話をしてくれる。
貞治は不二君の問いに淡々と答え会話が成り立っているけれど、ずっと笑顔一つ見せずに食べていた。


ああ、そうかと気付く。
ここに来て、一度も貞治が私を見てくれない。


それだけのことなのに酷く堪えた。



「不二君、私・・・先に行くね。」
「え?だってまだ食べ終わってないよね。」


「もう、お腹イッパイになっちゃって。」
「そうなの?」



私を見てくれない貞治の傍に居るのが耐えられなくて席を立てば、トレーを目にした不二君が心配げに私を見上げる。
無理に笑顔を浮かべて頷けば、そこで初めて貞治と目が合った。
貞治は私の顔を見ると眉根を寄せ、少し項垂れると大きく溜息をついた。
その仕草が更に辛くて、私は逃げるように背を向けた。



、待てよ!」



声に振り返れば、立ち上がった貞治がいた。
私は多分すごく情けない顔をしているんだろうなと思いながら貞治の言葉を待つ。



「ちょっと教室で嫌なことがあって機嫌が悪かったんだ。八つ当たりして、ゴメン。」



それだけのこと。
なのに私はホッとして、同時に目の奥が熱くなってしまった。


ヨカッタ、私が怒らせたんじゃなかった。
それに私の怯えるような気持ちに気付いてくれたのが嬉しかった。



私は自然と微笑み首を横に振る。
勝手に潤んでくる瞳が恥ずかしくて、やっぱり逃げるようにして食堂を後にした。










暫くして教室に戻ってきた不二君は、人好きするいつもの笑顔を浮かべて私に近づいてきた。
委員会の資料に目を通している私に目を細め、そのまま空いている前の席に座る。



さんは、真面目だね。」
「そんなことないよ。不二君の足を引っ張らないようにと思ってるだけ。」


「助けてもらった覚えはあっても、足を引っ張られたことはないよ。
 ところでさ、さんは二度目の挑戦ってどう思う?」



笑って私が広げた資料を手に取った不二君が突然に話題を変えた。


二度目の挑戦って、なに?
明らかに意味の分かっていない私を見て不二君が可笑しそうな表情を見せる。



「一度ね、立ち直れないくらいの失敗をしたんだ。
 また挑戦しても同じ失敗をするかもしれない。それでもやるべき?」


「挑戦する物事にもよると思うけど。」


「そうだね、そうなんだけど・・・
 何事も傷つくのを恐れて諦めるよりはさ、やってみるのも一つだよね。
 どっちにしろ後悔するんだ。なら、挑戦して後悔した方がマシだなぁって。」



さんは、どう思う?
そう訊かれて「それはそうだと思うけど・・・」と言葉を濁した。
だって傷つくのは怖いし、挑戦することで全てを失うとしたら代償は大きい。


それは幼馴染という居心地のいい場所を手放す勇気がない私と同じ。



予鈴が鳴って、不二君が席を立つ。
資料を返されて手に取れば、不二君が私を見下ろして微笑んだ。



「乾にも似たようなことを訊いたんだよ。
 そしたら今のさんと同じように困った顔をして同じことを言ったよ。

 それはそうだと思うけど、現実には難しいものだって。

 面白いね。二人は似ているのかな?」



謎かけみたいな言葉を残して、不二君は自分の席に戻っていった。





















花が咲く 五 

2008/02/14




















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