「おい、誰か俺のロッカーに入れておいた帽子を知らないか?」
「し・・・知らないですね。何処にいったんでしょう。」
「俺も知らんぜよ。お先に。行くぜ、柳生。」
ゴソゴソとロッカー内を探す真田の背中を気の毒そうに見つめる柳生を促して仁王は部室から出た。
真田の帽子は既に、大魔王幸村の提案によって葬られていたのだ。
真田弦一郎改造計画その3 〜ミッション.1・容姿改造〜
「おい、蓮二。俺の帽子を知らないか?」
「知らないな。」
柳は表情一つ、脈拍さえ乱れずに嘘をついた。
「幸村は?」
「さあ、知らない。それより真田、打とうか。」
幸村も惚れ惚れするような笑顔を浮かべて、サラッと嘘をついた。
その後も「帽子、帽子」と愛犬が失踪した飼い主の如く帽子を探す真田に幸村が舌打ちする。
「真田、いい加減にしたらどうだ?帽子なんか、どうでもいいだろ?」
「よくない。あれは俺のお気に入りなのだ。」
「お前にはお気に入りかも知れないが、ハッキリ言ってテニス少年に帽子は似合わないだろ?
帽子が似合うのは野球部とソフトボール部だ!」
「野球部とソフトボール部以外の人間は帽子を被ってはいけないなどという校則はない。俺の勝手だ。」
「真田、若い頃から帽子を被って頭皮を蒸すとハゲルんだぞ。今に見ていろ、青学の越前も10年すれば薄くなる。」
「うっ・・・いや、どちらにしても帽子は見つけたい。色々と思い出もある品だからな。」
「過去を振り向く男はモテないぞ。とにかく帽子を探すのも被るのも禁止。この俺が決めた。」
「幸村っ、」
「俺が部長だもん!」
プイッと幸村は背を向けてしまった。
天下の宝刀『俺が部長だもん』攻撃に真田は茫然と立ち尽くすしかなかった。
帽子がないせいか、いつもの迫力に欠ける真田に第2の刺客が差し向けられた。
「真田副部長、」
「なんだ、赤也か。すまないが、今日はお前の特訓をする気はないぞ。」
そんなものは一生なくていいんすよ。危うく口にしそうになったが我慢して言葉を続けた。
赤也に託された指令、それは。
「髪、カラーリングするの・・・どうっすか?なんなら、俺も一緒にしますから。」
「カラーリング?何の事だ、新しい技か?」
「ちがうっす。髪の毛を明るい色に染めるんすよ。
ほら、仁王先輩とか、丸井先輩みたいに。こう、明るい感じでお洒落に変身って、」
「たるんどるっ!」
ゴツッ
「つぅーっ」
「親に貰った体を勝手に変化させるなど、言語道断の親不孝だっ馬鹿者っ!」
声にならない痛みに赤也は蹲ったまま動かなくなった。
自分の頭を思いっきりゲンコツした真田が説教を始めたのを遠くなる意識の中で聞いたのだった。
「あーあ、やっぱり赤也じゃ無理だったよね。」
「失敗する確率は88パーセントだといっただろう?
なのに、新しいゲームソフトを貸してやるとか言いくるめて、お前が行かせたんだろう。」
「まず真田が、どんな反応を見せるか知ろうと思ってね。」
「では赤也は捨て駒か?」
「ふふふ、赤也にはナイショね。俺、いい先輩でいたいから。」
恐ろしい男だ、幸村精市。少し幸村から遠ざかった柳に次なる作戦が言い渡される。
「あれじゃ説得しても洒落た美容院なんか行きっこないね。こうなったら力づくで改造するしかないな。」
「力づく・・・とは?」
「柳は真田と仲良しだから出来るよ。柳なら真田の隙を狙って睡眠薬を飲ませる事が出来るだろ?
でね、寝ている間にジャッカルに美容院へ運ばせてカットとカラーリングしとくんだ。
睡眠薬はさ、入院中に看護婦さんを騙くらかして沢山もらったんだ。いつか役に立つかなぁ〜なんて。」
「幸村・・・それは犯罪だ。それに、目が覚めた時が恐ろしすぎる。」
「ダイジョーブだって。目が覚める場所を真田の布団の中にしとくんだ。
そうすれば、真田はバカだから寝ているうちに体が突然変異したとでも思うよ。
長く深く眠ってもらわないといけないから、致死量のちょい手前ぐらい飲ませとけば成功する気がする。」
あまりの恐怖に柳が更に幸村から一歩遠ざかった時、
眠った真田を運ぶ仕事を押し付けられるであろうジャッカルが遅れてコートに入ってきた。
「あ、ジャッカル!いいとこに来た。お前にやって欲しい仕事があるんだ。」
「待て、幸村。いくらなんでも、それはいかんぞ!」
「仕事?それより、ターゲットの新たな情報を入手したぞ。『X』にも関る情報かもしれない。」
「なに、なに?早く聞かせて!」
「幸村、声が大きい!」
背後で赤也に説教している真田の声を聞きながら、三人は額をつき合わせた。
「彼女と同じ華道部の子から聞いたんだが・・・」
「ジャッカル、前置きはいいから早く言ってよ。」
「幸村・・・前置きぐらいさせてやってくれ。」
「あ、いや。じゃ本題。の好みはコテコテの日本男児だそうだ。
好きなテレビは時代劇。NHKの大河は見逃さないらしい。でだな、理想の恋人は・・・マツケンらしいぞ。」
「では、弦一郎は結構いい線なのではないか?カラーリングなど必要ないだろう、幸村。」
「えーっ、つまんない。なんか、真田の金髪を見たかったのにぃ〜!」
「金髪?」
「ジャッカル、今のは聞かなかった事にしたほうが身のためだ。他に何かあるか?」
「ああ。とにかく強い男が好きなんだとよ。
『ケン様みたいに刀とか槍を振り回せるような人がいないかしら』とが話していたという証言がある。」
「うむ。それも弦一郎なら大丈夫だぞ。あれは真剣でも扱えるからな。
槍までは知らんが練習すれば扱えるだろう、刀なら問題ない。」
柳とジャッカルが話している間、興味をなくした幸村はベンチに座って溜息をついていた。
遠目に未だ赤也を叱っている真田を見つめながら考える。
あーあ。真田をジャニーズ系にしたら面白いなぁって思ったのに。つまんないの。
あ、でも。マツケンと言えば・・・サンバを踊れるようにはしとかないと。
唄いながら彼女の前でサンバを踊る。ウン、笑える!さて、誰に指導させようかなぁ。
ミッション.1 帽子だけは奪う事ができた。負傷者一名 切原赤也。 以上
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