勘違いも甚だしい 2
サラリーマンやOLで賑わうカフェを眺めながら、公園でお弁当を食べる。
独り暮らしの貧しいOL節約術だ。
「よくそれですんだね。今時は不景気で気がたってる人も多いから、堅気相手でも怖いんだよ」
「カタギって・・・」
「ほら、酔っ払って駅員殴るのなんてサラリーマンが多いじゃない?
暴力団とかも上のほうの人は礼儀正しくて、簡単に暴力とか振るわないらしいよ」
分かったふうに解説してくれる同僚の言葉を聞きながら、昨夜の男を思い出す。
よくよく考えるとホストならお仕事中の時間。
そうするとヤのつく職業に決定だ。
確かにチンピラというよりは、上のほうにいそうな威厳があった。
「そっか。えらい人で良かった」
ひとり納得した、昼休みの他愛ないお喋り。
もう二度と会うことのない人の話だった。
いつものコンビニでアイスを買うついでに雑誌を立ち読みしていた。
快晴の休日に朝から洗濯や掃除をして、ちょっと休憩。そんなところ。
そう面白い雑誌もなく、そろそろ帰ろうかなと思ったところで『沖縄』の文字が目に入った。
ごちゃごちゃとした写真と文字が散らばる派手な雑誌は旅行の本。
エメラルドグリーンの海と真っ赤なハイビスカスに誘われて、行くあてもないのに手が伸びる。
わぁ、綺麗。こんな海で泳いでみたいな。
地元が東京の私には田舎がない。
東京といっても自然の残る外れのほうだから、まぁ・・・田舎か。
だけど憧れる。海や空、その地に行かないと食べられない郷土料理。
沖縄、行きたい。
ぱらぱらと雑誌をめくり夢中で見ていたら、隣に男の人が立った。
その気配に何とはなしに顔をあげる。
はたして視線の先には、見たことのある髪型。
ひっと息をのんだのが聞こえてしまったのか、なにかの雑誌を引き抜こうとしていた男が私を見た。
そして僅かに片眉をあげると、ああ・・・と呟く。
今日はシャツとスラックス姿だったが、そのシャツが光沢のある黒のストライプって・・・怖い。
大きめに開いた衿元の下は素肌で、服の上からも鍛えられた胸板が想像できそうだった。
これに金のネックレスでもしてたら完璧だ。
バクバクと打ちだす鼓動は驚愕のせいか、恐怖のためか。
一瞬で体が硬直した私を見下ろした男は、たいして興味もなさそうに再び雑誌を手に取った。
何事もなかったように経済誌を開いて視線を落とす横顔は、恐怖の拍子抜けだ。
どうしよう、何か言ったほうがいいの?
先日はすみませんでしたとか、まずは挨拶?
自分も雑誌に目を戻すが、もうおススメ沖縄料理も頭に入ってこない。
雑誌なんか見ないで帰っときゃよかったと後悔テンコ盛りだ。
直ぐに立ち去るのも逃げ出すようだし、だからといって立ち読みし続ける根性もない。
気力で数ページをめくった私は雑誌を閉じ、自然を装いつつ棚に戻した。
そこで男の視線が動く。私が戻した雑誌を見て、口を開いた。
「近所なんですか?」
「へ?あ、はい」
答えてから、シマッタと思う。
こんな怖い人に家が近くだと教えてしまった。
引きつる私をよそに、男は雑誌のページをめくる。
「俺も近くですよ」
「そ・・そうですか」
引っ越さなきゃ!!心の叫びは冷や汗と共にだ。
「お茶でも飲みますか。付き合いなさいよ」
「はい?」
男は無駄のない動きで雑誌を棚に戻すと私を見下ろし薄く微笑んだ。
勘違いも甚だしい 2
2011/05/29
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