勘違いも甚だしい 最終回
「だって・・・とても堅気には見えない格好してるから」
しどろもどろに言い訳する私を前にして、木手さんは無表情で箸を動かしていた。
敵ともいえるヤクザ者に間違えられ、相当に機嫌を損ねているらしい。
連れてこられたのは隠れ家みたいな和食の店で、奥の個室に通されれば他の声さえ聞こえない。
それがまた気まずくて居た堪れないというものだ。
「よく考えれば仕事のことを話してないのに、撃たれるとか刺されるとか言ってましたね
あの時に気付くべきでしたよ。まったく・・・」
「すみません」
「で?君はヤクザと付き合う趣味でもあるんですか?」
何をおっしゃる、とんでもないと首を横に振れば、箸を置いた木手さんが意地悪い眼差しを向けてくる。
「じゃあ。なぜ俺の誘いを断らなかったのか、聞かせてもらいましょうか」
ぐっと言葉に詰まる私を木手さんは面白そうに見ている。
唇を噛みしめるようにして俯けば、木手さんがテーブルに頬杖をついて笑った。
「ちゃんと言わないと帰しませんよ」
う・・・この人、堅気だけど意地悪だ。
半泣きになる私を前にしても木手さんは許してくれなかった。
今日も今日とて、存在感のある男は無機質な壁に背を預けて待っていた。
ダークスーツに品の良さそうなネクタイをして、ハーフフレームの眼鏡から鋭い視線を飛ばしている。
思わず避けて通りたいような、それでいてモデルのように格好いいのだから始末が悪い。
遠巻きに見ていく人々の視線も気にせず、私の姿を見つけると瞳を和らげた。
「ごめんなさい、待たせて」
「いいですけど・・またどっかで転んだりしてないでしょうね」
「してません」
よほど私がトロいと思っているのか、会うたび聞かれるのはどうなんだろう。
「君は危なっかしいですから」
言って、壁から背を浮かせた木手さんは私の肩を抱いた。
今も木手さんから『好きだ』とか『付き合おう』などという言葉は聞いたことがない。
聞いたことはないが、たぶん私のことが気にいっているんだろうと思う。
ただ、その理由が分からない。
私と同様、やはり見た目が好みだったのだろうか。
以前から気になっていたので、意を決して聞いてみた。
「私のどこが気にいったんでしょう?」
私の問いに目を瞬かせた木手さんが、次には可笑しそうに眼鏡を押し上げた。
「気が弱くてお人好しなところですよ。ほっとくと誰かに騙されるのが目に見えてますからね」
愕然としている私に更なる追い打ちが。
「言っときますが、俺にとって見た目はそれほど重要じゃないので」
つまりは可愛いとか、スタイルがいいとか、好みだとかは関係なかったということですね。
勘違いも甚だしかったと知った私だった。
勘違いも甚だしい 最終回
2011/06/02
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