「勘違いも甚だしい 〜White Day〜
最近、久しく会ってなかった友人からの電話が多い。
だいたいは同じような内容なのだが・・・例えば。
「ねぇ、何か困ったことになってるんじゃないの?」
「困ったこと?あ、あるある。ヒールが側溝の網にはまり込んで傷だらけになっちゃって
直すのに幾らかかると思う?春に買ったばかりだったんだよねぇ」
「違うわよ!そんなくだらないことじゃなくて、もっと大変なこと」
「大変なこと?なんだろ」
「もう。あのね、うちのお姉ちゃんが駅でを見かけたって
あんたヤクザ風の男に腕を掴まれて、どこかに連れていかれたっていうじゃない」
ヤクザ風の男で、思い当たる人物が一人。
どう考えても木手さんしかいない。
「は昔からボケボケしてるから、とうとう犯罪に巻き込まれたのかもって心配して」
「ありがとう。あの・・犯罪には巻き込まれてないから」
「じゃあ、そのヤクザとはどういう関係なの?」
「ヤ、ヤクザじゃないよ」
「じゃあ、チンピラ?」
「ヤクザとチンピラの違いって、何?」
「そんなことは問題じゃないでしょう?とにかく悪い男に騙されてるのが問題なの!」
悪い男と断定されてしまった木手さんと実は付き合っている。
この事態を納得させるのに延々と説明しなくてはならない私だった。
今日も待ち合わせの場所に立つ人は目立ちすぎるほど目立っていた。
細身のピンストライプスーツに身を包み、黒髪をリーゼント風に後ろへ流している。
絶妙に配置された顔のパーツと眼光が鋭さ。洒落たハーフフレームのメガネが光を反射して、正直怖い。
あげればキリがなく思える木手さんの特徴なのだが、私がまとめると『ちょっと怖いオトコマエ』だ。
「木手さ〜ん」
「ああ、そんなに急がなくても」
「あっ、痛っ」
木手さんが注意したのと同時に、急いでいた私は足首を挫いた。
僅かな段差にバランスを崩し、ガクッとヒールが直角に曲がったからだ。
「前々から思っていたのですが、君のような人はヒールを履くべきじゃない」
「はぁ。でも、背が低いですし」
少し腫れてる足首に木手さんが湿布を貼ってくれる。
待ち合わせ場所で負傷した私は、予約したフレンチレストランの扉さえ見ることができずに強制送還。
湿布なら家にあるからと木手さんのマンションに連れてこられていた。
せっかくホワイトデーにと木手さんが予約してくれた店だったのに・・・くぅ〜食べたかった。
せめてコースの一部でもいいからテイクアウトできないだろうかと木手さんに縋ってみたが、諦めなさいの一言で終わった。
木手さんは忙しいし、ホワイトデーは一日しかないし、きっとこのままナシになるんだと悲しい。
「ヒールで数センチを付け足して何が変わるのか理解できませんね」
「木手さんは身長があるから、チビの苦労なんて分からないんです
満員電車に埋もれて窒息しそうになったり、気に入ったスカートが微妙なロングスカートになったり
ジーパンの裾を店員さんが山ほど折ってくれるのだって恥ずかしいんだから」
並べる私の言い分を木手さんは薄らと笑みを浮かべて聞いている。
こうしていると怖さなんか微塵も感じなくて、湿布を貼ってくれる手つきも優しい。
「満員電車は気の毒に思いますが、あとはそう問題ではないですね
つまずいて誰かを転ばせたり、足を挫いたりするほうが問題ですよ」
「木手さんを転ばせたこと、まだ恨んでますね」
「転びかけた、です。恨んでなんかいませんよ。そのおかげで、君はココにいる」
私をソファに座らせて床に跪いていた木手さんが顔を上げた。
そっと伸びてきた手が頬に触れ、木手さんの指先の冷たさに思わず身がすくむ。
それに小さく笑った木手さんの唇が、穏やかに私のものと重なった。
ディナーを逃した私だったが、木手さんの優しいキスと手料理を御馳走になって復活。
食後のコーヒーまで出してもらって和んでいると、ああそうだと木手さんが呟いて席を立った。
戻ってきた時には小さな包みを持っており、これはもしやホワイトデーのプレゼントと期待が高まる。
あまりジロジロみると物欲しそうに思われそうで視線のやり場に困ったが、
木手さんはもったいぶるでもなく簡単に包みを差し出してきた。
「あげますよ、どうぞ」
「あ・・ありがとうございます」
やったぁ♪
手のひらに乗る包みは、もしやジュエリー系?
不格好だが味は普通などと酷いことを言われたチョコレートケーキを作った甲斐があったというもの。
どうしよう。本人の前で開けていいものだろうか。
いや・・開けて『嬉しい』って喜ぶところだよね、ここ。
「開けてもいいですか?」
「いいですよ」
答えた木手さんは椅子に腰を下ろし、期待した様子も見せずに淡々とコーヒーを飲み始める。
無関心ぶっちゃって照れてるのかなぁなんて緩む頬をおさえつつ包みを開くと。
「これは・・・」
上から見ても、下から見ても、これは。
「防犯ベルです」
やっぱり防犯ベルですか。見間違えじゃなかったですね。
さりげなく他は入っていないか包みを確認してみたが、それ以外には何もない。
「君はボンヤリですからね。ひったくりに狙われるタイプですよ。気をつけなさい」
「はい・・・」
防犯ベルがピンク色なのは、せめてもの愛情だろうか。
ベルを鳴らすためのピン先にぶら下がる銀色の輪っかが指輪に見えるよ、クスン。
「カバンの中に放り込んで遭難していたのでは、いざという時に使えませんよ。こういうものはですね」
続く使用上の注意と被害に遭わないためのレクチャーを受け、ホワイトデーの夜は更けていった。
数日後、また別の友人から電話があった。
「あんた、ホストと付き合ってるでしょ。この前、ホストに背負われてたって
ホストと付き合っちゃ駄目だって、は騙されやすいんだから」
いいえ。木手さんは職務に燃えてる、立派な警察官ですって。
勘違いも甚だしい WD編
2012.01.20
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