片恋 10










『あの子、誰?見たこともない子だけど、同じ学年にいたっけ?』


自分の存在のなさを思い知らされる言葉。
そんなこと。今に始まったことではなかったのに・・・酷く悲しかった。


並川のことは知っている。
ハッキリした目鼻立ちと、すらっとしたスタイルで男子にも人気がある。
頭も良くて、手塚と共に生徒会を切り盛りしている有名な女の子だ。


もやもやとする感情を持て余し、は教室に戻ると机に突っ伏した。





「ねぇ、手塚君。さっきの子、手塚君の彼女?」


本鈴がなるまで、あと少し。
ファイルを抱いた並川と手塚は共に教室へと歩いていた。
廊下はまだ騒がしく多くの生徒が教室に向かっている中、並川が窺う様に聞いてきた。



「いや・・・友人だ。」


「そう。手塚君でも女友達がいたんだ。知らなかった。」
「・・・・・。」


「じゃあ、私も手塚君の女友達にしてよ。」
「並川?」



何を言い出したのかと、今度は手塚が彼女の表情を見た。
並川は微笑んだ。ニッコリと笑いながらも、視線を真っ直ぐ向けて手塚に告げた。



「本当は、手塚君の彼女のほうが希望なんだけど。どう?」



立ち止まった手塚と彼女の脇を、生徒達がチラッと見ながら通り過ぎていく。
そんなものに無頓着な手塚は、今後も共に生徒会を運営していかなくはならない並川に、
どう断われば角が立たないかを考えていた。


だが結局は、ストレートに告げるしか術が無い。
変な期待を持たせるのは、かえって彼女に失礼だと手塚は決めた。



「並川。悪いが・・・それは無理だ。すまない。」
「どうして?誰か、好きな人がいるの?」


「・・・そうだ。」
「そう。・・・ん、分かった。でも、友達ぐらいには、なってくれるでしょ?」


「それは」
「なら、いいわ。友達からということで。」


「並川、」
「ああ、ごめん。チャイムが鳴るわ。私、次は視聴覚室なの。じゃあ、放課後、生徒会室で!」



手塚の言葉を遮るように、彼女は背を向けると走っていった。
自然と出た手塚の溜息と本鈴が、重なって廊下に響いた。



だが。
手塚と並川が廊下で何やらいい雰囲気だった・・・という噂は、あっという間に
広がっていく。



翌日の全校集会。
マイクの前に立って説明を始める手塚の斜め後ろには、副会長の並川が立っていた。
身長の高い手塚にはマイクの位置が低いとみると、スス・・・っと近付いて彼の脇に立ってマイクを直す。
目で『すまない』と告げる手塚に、微笑み返す並川。



ホールに並ぶ生徒達の間からは、コソコソと噂話が囁かれていた。



「並川さんさ、手塚君に告ったらしいよ?」


「それで、付き合うの?」


「いいよねぇ。あんなに美人で頭もいいんだもん。並川さんなら、堂々と告れるよねぇ。」


「お似合いだよ。羨ましい、私もあれぐらい綺麗だったら、手塚君にアタックするけどなぁ」


「あはははは、無理無理。頭も良くないとねぇ。」



あっちこっちで、二人を噂する会話。
の耳にも入らないわけが無い。



は黙って、壇上の手塚を見ていた。
自然と視界に入る並川も共に。



確かに・・・お似合いだと思う。
自分となんて比べるのも申し訳ないぐらい綺麗な人。


彼女なら彼の隣にいても堂々と立っていられる。


さっきから、ズキズキと胸が痛くてたまらない。
いつもは心地よく響く手塚の声が、痛む胸に沁みて・・・ズキズキが増して苦しい。


もうホールから退席したい。
見たくない。聞きたくない。


そう思うのに。前に立つ手塚から目が離せない。



は偶然を悔やんでいた。


本屋で出会わなければ。ずっと、彼にとって存在を知られない自分であったなら。
遠くから見つめる切なさを感じることはあっても、こんなにも激しい痛みを知ることはなかっただろう。


彼の瞳を見つめてしまった。

彼の優しさに触れてしまった。

彼が呼ぶ自分の名前を聞いてしまった。


すべてが今。の心を痛めつける。
知らなければ、こんなにも傷つくことはなかったのに。


涙は零れなかった。
でも、心の中で涙を流す。


ポケットの中に入れた赤い定期入れをギュッと握り締めて、は集会が終わるまで手塚を見つめていた。





『すまない。文化祭の件で、しばらく昼休みが潰れそうだ。
 また、時間が合えば本屋の方に顔を出す。』


「気にしないで。本屋のバイトは、暗くなってきたから6時までにしたの。
 手塚君が部活を終える頃には帰ってると思う。ごめんなさい。」


『そうか。そうだな、帰り道が心配だったから短くしてよかった。土日は続けるのか?』


「土日は9時半から5時まで」


『分かった。なら、土日に行こう』


「無理しないで。本は・・・誰かに渡してもらえればいいの。」


『いや。と話したい。本の感想も聞きたいしな。』


「・・・・・」


?』



は口元を手で覆い、溢れてくる涙を止められずに天井を見上げた。



「うん・・・わかった・・・」


『じゃあ、今週末にでも顔を出す。』


「・・・はい」


『また。・・・おやすみ。』


「おやすみなさい。」



プツ・・・という音に続いて流れてくる、電話の切れた音。
は大きく息を吸った。と、一緒に嗚咽が洩れる。



初めてかかってきた手塚からの電話。
嬉しいのに、悲しくて。


その残酷な甘さに泣いてしまった。



私の心配なんてしないで欲しかった。
私と話がしたいなんて。柔らかな声で言わないで欲しかった。



あなたの目に映る私は・・・いったいどんな私なのだろう?



こんなちっぽけな私に。どうして、そんなに優しいの?



我儘な私。
本当は、話しかけてもらえるだけで感謝しなくちゃいけないのに。
どこかで、酷いことを思っているの。


好きになってくれないのなら優しくしないで。


私なんかに気づかないで欲しかったのに。
私なんか、ただ通り過ぎてくれればよかったのに。



は泣いた。



もうどうしたいのか、どうしていいのかも分からず。




















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