君がいれば楽園 3
ベッドの上に寝転がり、から洗濯して返されたウェアを広げてみる。
いいからと断ったが、どうしてもとが家に持ち帰って洗ってきてくれた。
持つ手を離せば、ウェアはパサッと顔に落ちてくる。
あ・・の香りだ。
くんくんと匂いをかいでみてから、急に自分が恥ずかしくなって飛び起きた。
ダメだ、これは。
かなり重症化してきた感情に溜息も出たけれど、悪い気はしない。
俺はを抱くような気持ちで自分のウェアを抱きしめた。
俺の気も知らず、は相変わらず可愛くて人懐っこい。
とうとう折れた永四郎がマネージャーとしての入部も許可し、の周りには誰かしら部員たちがいるようになった。
それでもは何でも先ずは俺に質問してくる。
内心は嬉しいけれど、アイツらの前で甘い顔をしたら、からかわれるのは分かりきってる。
で、いつもわざわざ努力して面倒臭そうに答えることにしていた。
あーあ、また他の男に微笑んでいる。
なんか本気で腹が立つさぁ。
「凛、これ調理実習で作ったクッキー。食べたい?」
「貰ってやってもいいぜ。」
「そういうと思ったさ。」
俺が甘いもの好きなのを知っている同じクラスの女子から焼き立てのクッキーを貰った。
なかなかにウマいクッキーを頬張りながら席で話をしていたら、息を切らせたが教室に戻ってきた。
「あい、ちゃん間に合ったね。」
俺にクッキーをくれたコがに声をかけた。
ゴメン、ゴメンと笑いながら近づいてきたが
俺の机の上に広がってるクッキーを見て、一瞬だが「あ、」という顔をした。
でも直ぐに笑顔で「もう救いようのない不器用さでさ。なんか疲れたぁ」と頭をかいた。
胸に抱いた家庭科の教科書の上には紙ナプキンの包みが載せてある。
上を赤いリボンで結んであるのが酷く気になった。
「でも無事に出来たんだぁ。良かったさぁ。
さ、可愛い顔して料理は駄目なんて親近感感じたね、ワタシ。」
「そういう親近感はツライなぁ。」
情けなく眉を下げたは椅子に座ると、そそくさとリボンの包みをカバンの中に仕舞い始めた。
アレは多分、が作ったクッキーだ。
「待てよ。ソレ、やぁの作ったクッキーだろ?俺が味見をしてやろうか?」
「だ、駄目よ!形が悪いし・・人に食べてもらうなんて、とんでもないの。」
手の動きを一瞬止めただったが、慌てたようにカバンのファスナーを閉めてしまう。
「凛、やながちまやーひゃー!」
「やながち・・って、なに?」
「凛は何でも欲しがる。食いしん坊ってことさぁ。」
そっかぁとが笑った。
そこでチャイムが鳴り、結局俺はの手作りクッキーを見ることさえできなかった。
その数日後、俺は意外なことを裕次郎から聞くことになる。
「木手さ、から手作りのクッキーを貰ったらしいぜ。」
「へぇ〜」
答えた声のトーンが低くなる。
裕次郎が俺の顔色を窺うように話すからムカムカしてきた。
「俺が見たわけじゃないぜ?うちのクラスの女子が見たって。
二人は付き合ってるんかぁって訊かれたけど・・・違うよな?」
「そんなん俺が知るかよ。」
「凛、怒りのオーラが背中に立ち昇ってるぞ。」
無言のまま睨みつけたら、裕次郎はキャップを深く被りなおして肩をすくめた。
バンバンと音をたててロッカーを閉めると部室を飛び出す。
すると追い打ちをかけるように何事か話している永四郎とがいた。
ぐっと息をのみ、二人から視線を逸らす。
「裕次郎、相手しろよ!」
「凛・・・待てって、」
追いかけてきた裕次郎を引っ張って、俺はコートに入る。
苛立ちは全てボールにぶつけた。
「凛、やー何わじってる〜?」
部活中、何度も『何を怒っているのか』と訊かれたが言えるはずもない。
永四郎に嫉妬してるなんて、カッコ悪すぎだろ。
荒れる俺を心配そうに見ていたが隙を見て近づいてきた。
俺は他所を向いて汗を拭う。
今はと話したくなかった。
「平古場クン、どうかしたの?何かあった?」
「別に。」
「でも何か、いつもと違うし。」
「ほっとけよ。」
「でも・・」
「かしまさい!」
俺の大きな声にがビクッと体をすくませた。
シマッタと頭をよぎったが、気持ちが追いついていかない。
「か・・しまさいって・・・、何?」
が怯えたような瞳で訊いてくる。
その後ろでは永四郎が後輩たちに指示を出している。
俺の視線を感じたのか、永四郎と目があった。
「うるさいって、ことさ。ほっとけよ。」
の琥珀色の瞳が大きく見開かれる。
ああ、俺ってサイテーだ。
好きなのに・・・お前にそんな顔をさせてしまうなんて。
君がいれば楽園 3
2007.07.02
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