君の幸せ、僕の幸せ 〜中編〜












翌月には手塚たちの結婚がスポーツ紙に掲載され、ちょっとした騒ぎになった。
一般人の彼女が記者に追いかけまわされるのを心配した俺だったが、
手塚が誤魔化すことなく正式なコメントを出したので思ったよりは大丈夫だったようだ。


には、あれきり会っていない。
もとから次の約束をするような俺たちではなかったし、忙しい時には二、三か月も連絡を取らない間柄だ。
それでも突然に部屋を訪ねて慰めてもらった身としては心苦しい。


俺が送った謝罪のメールに、風邪をひいてないかと返信してきたのがらしくて安心もしたが、
それから後は何となく連絡がしにくくなっていた。





そんな時だ。
不二に相談があるからと呼び出された。
洒落た居酒屋で相変わらず綺麗な顔をした不二を前にグラスを傾ける。
用件は俺がエージに相談していた手塚たちの結婚祝いに関することだった。



「大石の世話好きは変わらないね、さすが青学のお母さん。」
「懐かしい呼び名だな。まぁ、お祝い事だしね。ここは元副部長の俺だろう?」



俺が肩をすくめれば、頬杖をついた不二が首を傾けて薄く微笑む。



「これで卒業?長かったね。」
「・・・よく分からない。このままだったら、どうしようかと思う気持ちもある。」


「それ、自分に暗示掛けてるよ。ダメだって。
 本当は思い切って手塚たちに爆弾を落としてやればスッキリしたんだよ。」



不二は爽やかな顔をして、とんでもないことを言う。
一番近くにいたエージでさえ気付いていない気持ちを敏感に察したのが不二。
とも仲の良かった不二だから、そこらへんから聞いたのかもしれないが侮れない奴だ。



『胸に秘めてばかりだから前にも後ろにも行けないんだよ』



それが昔から不二の意見だ。
言いながらも、俺の気持ちを黙って見守ってくれた友でもある。



「もう何もかも遅いしなぁ。それにさ、二人には幸せでいて欲しいと思う気持ちは本当なんだ。」


「自分とじゃなくても?綺麗事だね。」
「またそんな」



バッサリと切り捨てられたセリフに苦笑いを浮かべれば、不二がつまらなそうに箸でサラダをつつく。
赤いミニトマトを口に放り込んだ不二は、ひとつ溜息を落とした。



「僕はね、大石にも幸せになって欲しいよ。
 こんなにも長く想い続けられる人に出会えたんだから、幸せといえば幸せなんだろうけど。
 それが手塚の幸せなのが痛くてさ、見てるほうが嫌になる。
 大石は人の幸せばかりを見てて、近くにある自分の幸せを見逃してそうで心配なんだ。」


「あ・・りがとう。」



不二から俺を心配するような言葉が聞けるとは思ってもいなかったから驚いた。
戸惑いながらも礼を言ったのに、不二は「大石、分かってないよね」とサラダにタバスコをかけはじめる。



「人の大切な人を想い続けることに幸せを感じるより、
 自分を想ってくれる人を愛することに幸せを感じた方がいいよって、こと。」



それはそうだろうと頷いてみたが、不二は納得できていないようで再び溜息をついた。
とても食べられそうにはないタバスコ色のサラダの前で、俺は途方に暮れる。



忘れたいと願って忘れられるのなら苦労しない。
消そうとしても消えない恋心だから苦しんできた。
すべてを消してくれるほど俺に愛させてくれると言うのなら、この身を投げ出してもいいだが。



不二は赤く染まったレタスを口に運び、再び溜息をついた。



「失ってから気付いても遅いんだからね。」



とうの昔に失っている恋に、今さら気付くこともない。
意味が分からなくて不二を見返せば、もうこれ以上は教えてやらないという笑顔で話が切られてしまった。





その時の俺は、不二の言葉の意味を知るのが
手塚たちの結婚祝いパーティーの席だとは思ってもいなかった。





こじんまりとしたレストランを借り切ってのパーティーには気心の知れた友人たちだけが集まっている。
純粋に二人の門出を祝う人間に囲まれて、手塚も彼女も心からの笑顔を見せてくれた。
裏方にまわった俺は遠目に幸せな二人を見て、祝福もしたし別れも告げた。


今度こそ、この恋心ともサヨナラだ。


秘かに喪失感を味わっている時に、エージたちの会話に思いがけない名前を聞いた。



「そういえばさ、も結婚するんだって。知ってた?」


?ああ、女テニの副部長してた。彼女、医者になったんだろう?なに、相手も医者?」
「さぁ、そこまでは分かんない。大石なら知ってるんしじゃない?大学も一緒だったし。ねぇ、大石?」



エージに話をふられたけど、咄嗟に言葉が出てこない。
何故か鼓動がドクドクと響く胸に眉を寄せ、それでも無理に笑顔を作る。



「いや、知らない。専門にしている科が違うし、今は勤務している病院も別だから。」
「そうなんだ。、綺麗だったしなぁ。あんな女医さんなら診て欲しいかも。」


は産婦人科医だから。」
「え?そうなの?」



周りにいた友人たちが笑いだす。だけど俺は上手く笑えなかった。
話題は直ぐに他のメンバーの近況へと移っていき、の名前は出なくなる。
なのに俺の頭の中にはの顔ばかりが浮かんで、他の話が耳に入らなかった。





宴もそろそろお開きというところで、俺は後ろからエージの肘を引く。



の結婚の話って、どこから聞いた?」


「へ?ああ、話っていうか、見たの。」
「見た?」


「ホテルのさ、結婚式を打ち合わせするようなところがあるじゃん?
 そこで男の人とお母さんらしい人も一緒になって、係りの人と話してたんだ。
 どう見ても式の打ち合わせって感じだったから、声も掛けられなくてさ。」



それなら本当なのかもしれない。



「大石も知らなかったなんて、意外だよ。とは、けっこう仲良かったじゃん?」
「ん?ああ、まぁね。最近はお互いに忙しくて・・・そうでもないんだ。」


「ま、そのうちに寿マークのハガキが来るんじゃない?」
「・・・そうだな。」



知らぬうちに握りこんでいた拳に汗をかいていた。
僅かにネクタイを緩め、大きく息を吐く。


そろそろパーティーも終わりだ。
頭を切り替えて、最後までやり遂げなくては。



そう思うのに、どこかに心を持っていかれたような俺がいた。




















君の幸せ、僕の幸せ 中編 

2008/05/17




















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