キミとボクの距離 5












なんでこんなことになったのか。


嬉しいのか悲しいのかも分からずに、涙ばかりが止めどなく零れてくる。
頬は熱くて、肩に、唇に痛いほどの感触が残っていた。


確かに羨望と嫉妬があった。
どんなふうにあのコは触れてもらえるんだろう。
優しく抱きしめてくれるんだろうか。キスとか・・・するのかな。


現実に触れたブン太は荒々しく憤っていて、優しさや愛しさなど微塵も感じられなかった。
まるで罰を与えられたような現実に思い至れば、尚更遣る瀬無くて涙が出る。


帰っていく生徒たちを避け、自然と人の居ない所へと逃げていく。
体育館へ続く通路の角を曲がろうとした時、視界の隅にジャカルが歩いてくるのが見えた。
無意識に足が止まり、つい名前を呼びたくなった。


呼べば、きっと底抜けに優しい彼は駆けつけてくれるだろう。
どうしたんだと困ったように顔を覗き込み、あの温かな手で慰めてくれるはず。



でも、駄目だよ。
またブン太に嫌われちゃう。
ジャッカルはブン太の大事な人だから。私が頼っちゃ駄目な人なんだ。



呼びたい名前を飲み込み、来た道を戻って反対側から体育館を目指した。


だから気付かなかった。
私の背中を心配げに見送ったジャッカルがいたことに。



体育館の裏。
この場所を教えてくれたのはジャッカルだ。



『風通しが良いし、小鳥もピーチク鳴くんだ。夏は蚊が多いのが難だけどな
 バスケ部のボールの音も響いてくるんだが、それも何だか心地いい』



とっておきの隠れ場所なんだと、うまく笑えずにいた私に話してくれた。



『つらい時、独りになるにはいい場所だ』



何がつらい時だとは言わない。
ただ穏やかな、慰めるような声色だった。


ほんと。
私、なんでジャッカルを好きにならなかったかな。


思い通りにならない気持ちと現実が虚しく、悲しい。



体育館の裏を抜ける風が髪を撫でていく。
確かに此処は「とっておきの隠れ場所」だ。


甲高い鳴き声は何の鳥だろうね。
今日もバスケ部は頑張ってるな。


抱えた膝に湿った頬を寄せ、少しだけ笑うことができた。



「もう・・友だちも無理なのかな?」










体育館の裏は俺らが反省する場所だ。
試合に負けたり俺ららしくない戦いをするたびに、行っては落ち込んだもんだった。
ここ最近は負け知らずだし、俺がカノジョと帰るようになってからは全く足を向けていない場所。


そこにがいるとジャッカルは教えてくれた。


少しだけ胸が嫌な気持ちになったんだ。
ジャッカルが知っていたの行方もそうだけど、アイツのことを俺より知っているような口ぶりに。


俺って、大真面目にバカだろい。
バカすぎて、自分で自分が嫌になる。



 『なら聞くが。お前さんのカノジョが他の男と親しくしてたら、どう思う?』
 『男って・・・友達か?』


 『そう。お前にとってのみたいな存在じゃ』
 『友達だろ?別に何とも思わないけどな』



仁王との会話が浮かぶ。


誰のものにもなって欲しくない。誰にも触れさせたくない。
誰かが俺より理解しているのだって腹立たしい。


そんなん相手にとっちゃ自由もなくて、窮屈で、しんどいだろ。
頭じゃ分かっているのに、気持ちが納得しねぇなんて。



 『相手をがんじがらめに縛りたくなるのが恋じゃろ?』



息を切らせる俺の前に体育館が見えてきた。
ここまで全力で走ってきたのに足が止まっちまう。


何を言えばいいんだ?
まずはゴメンだ。でもゴメンって、キスしてゴメンか?ちがうだろ。


ああ。なんつーことをしでかしたんだ、俺。


っていうか、は俺のコトをどう思ってんだ?
ジャッカルは何もないって言ってたけど、は違うかもしれないじゃないか。
だとしたら俺のキスなんて、それこそブン殴りたいくらい嫌な事だったかもしんない。


体育館を前に突っ立って、爪を噛む。


すでにバスケ部は練習を始めている。
聞き慣れたテニスボールの音とは違うけれど、やっぱりボールの音は好きだ。



好きか、嫌いか。
が好きか? そりゃ、好きだ。
カノジョが好きか? もちろん、好きだ。じゃないと付き合おうなんて思えなかったはずだ。


好きと好き。
トモダチの好きとコイビトの好き。
違うはずだった。


違う『好き』なのに誰にも譲りたくないの存在って何なんだって考えて、
さっき俺が出した答えは仁王が教えてくれた。



だけど俺にはカノジョがいる。
の俺に対する気持ちだって分からない。



晴れていた空に雲がかかる。


急に叩かれた頬が痛んできた気がした。




















キミとボクの距離 5

2010/04/05




















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