君をください 2
床頭台の上、君が置いていったヒマワリが咲いている。
お日様のようなヒマワリは全てを見ていた。
あの時、どれぐらい君を抱きしめていただろう。
離れたくないと嫌がる腕を無理矢理ほどけば、濡れた瞳の君が俺を見上げた。
言葉もなく見つめ合って、お互いがぎこちなく目を伏せる。
「ゴメン」
俺の掠れた声に、僅かに首を横に振った君。
もう・・帰るねと席を立つ君に俺は掛ける言葉もなかった。
君が俺のもとに来ることは、もうないだろう。
触れてしまったことで失った信頼に、後悔と安堵が半々だったはず。
コンコンと、いつものノックが病室に響く。
「どうぞ。」
そっと怯えるように開いたドア。
隙間から覗くのは、君の顔だ。
あの日から後も君は毎日のように俺の元へやってくる。
だから試してみたくなる。
君はどこまで俺を受け入れてくれるつもり?
「これ、柳君から・・・」
ノートを差し出す君の手を掴んだ。
瞳を見開くだけで抵抗しない君の手を引けば、あっけないほど簡単に俺の腕の中に抱くことができる。
好きだよと、喉の奥まで出ている言葉を堰き止めて目を閉じた。
君の考えが分からない。
だけど怖くて聞けもしない。
真田のために俺を受け入れるの?
それとも同情?
君を抱きしめたら息もできないほど苦しいよ。
「退院が決まったんだ。」
「本当・・に?」
「明日、退院する。」
「よかった・・・」
心から安心したような君の声に喜んでいいのか、悲しんでいいのか分からなくなる。
優しく髪を撫でることもできず、ただ不器用に抱きしめるしかできない俺。
病室という白い箱から出てしまったら、君の瞳に映るのは俺じゃない。
それでも俺は心に決めていた。
「戻るよ、コートに。」
腕の中の君が僅かに震えた気がした。
これで最後だからと自分に言い訳して、ぎゅっと強く抱きしめた。
このまま君と溶けてしまえばいいのに。
決して一つにはなれない俺達。
だからこそ惹かれるのかもしれない。
退院した翌日、俺は朝練の時間より随分と早くに部室の前に立っていた。
まだ鍵は空いていないかなと思いつつ、ノブを回せば簡単にドアが開く。
ゆっくりと開いたドアの向こう、まっすぐに俺を捉える強い眼差しがあった。
「真田・・・」
「やる気満々だな。」
既にユニフォーム姿の真田が俺の姿を見て言う。
俺はカラシ色のジャージを見下ろし苦笑するしかない。
制服は背負ったラケットバッグに丸めてきてしまったんだ。
「ああ、これ?迷ったんだが、レギュラージャージで来てしまった。」
「走ってきたんだろう?」
フッと可笑しさを抑えきれないように真田が笑う。
その通り。俺は家からトレーニングを兼ねて走ってきたんだ。
「退院早々、無理をするな。」
「無理をしないと間に合わないだろ。」
「ふむ。なら、無理のない程度に急いでくれ。」
「無茶を言うなよ。」
「お前なら出来るだろう?」
「やるだけのことはやる。」
「それでこそ、お前だ。おかえり、幸村。待っていたぞ。」
真田が眩しそうに瞳を細めて笑った。
途端、罪悪感が腹の底から湧き上がってくる。
走ってきたのはトレーニングのためだけじゃない。
真田に俺の気持ちを話すべきか答えを出すために走ってきた。
なのに、そんな顔で迎えられてしまっては脆弱な決心など直ぐにねじ伏せられてしまう。
「皆が来るまで打とう。」
「久しぶりで空振りするかもな。その時は笑うなよ。」
「馬鹿を言うな。お前の体がテニスを忘れるはずがない。」
テニスシューズに履き替えるのも待てない真田に急かされ、俺は数か月ぶりにコートに立った。
そう。君が望んだコートに俺は戻ってきたんだ。
君をください 2
2007/09/07
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