君を下さい 4












遠くに居ても、すぐに見つけてしまう。
君だけが光でも放っているかのように、俺は君の姿を見つけてしまうんだ。
例えそれが見たくない君だったとしても。



昇降口を出たところで真田と君が話している姿があった。
靴を履きかえるクラスメイト達の合間から見つけてしまう、大好きな横顔。
背の高い真田を見上げる君は小さくて可愛らしい。


キスする時は段差があった方がいいな。
ちょうどある昇降口の階段を思ってから、気分が悪くなった。


自虐的だな、ちょっと。
溜息をついて、いつも以上に時間をかけて靴を履く。


筋肉の疲労がピークを迎えているらしく、微熱が引かない。
身体がダルいのも動きが鈍い原因だと自分に言い訳して苦笑する。



正直、待つのもいいと思った。
君には申し訳ないが、テニス馬鹿の真田が君を自ら手放さないだろうかと考えた時期もある。
そうすれば慰めるような顔をして君を手に入れるのにと。



だが、目の前の真田は穏やかな眼差しで君を見つめている。
その瞳を見ただけで、待つのは容易なことじゃないと知れるんだ。


嫌なんだけど横を通って行くしかないな。
気合を入れて笑顔を張り付けると昇降口に出る。



「真田、先に行ってるよ。」
「待ってくれ、幸村。」



さりげなさを装って通り過ぎようとしてるのに呼びとめるなよ。
なに?と視線を向ければ、やっぱり心配そうに俺を見ている君がいた。



「顔色が悪いな。まだ熱があるんじゃないか?」
「顔色のいい時がないんだから気にしないでくれ。」


「馬鹿、冗談を言ってる場合か。病院には行ったのか?」
「下手に病院へ行くと入院させられるのがオチだからな、行ってない。」


「お前・・・」
「平気だよ。前の時もそうだった。体が慣れれば何とかなる。」



肩をすくめて笑えば、真田が強く眉を寄せる。
その後ろで君は今にも泣きそうな目をして俺を見ていた。



「行くぞ!」



言葉と一緒に近づいてきた真田が俺の腕をつかむ。
痛いほどの力に顔が歪むけど、真田はお構いなしだ。



「痛いって、真田」
、柳に遅れると伝えておいてくれ。俺は幸村を病院に放りこんでくる。」


「ちょっと、真田ってば。大丈夫だから、」
「何が大丈夫だ。もう三日も微熱が続いているんだろう?たるんどるぞ、幸村!」


「たるんでるとか、そういう問題じゃないんだって。」



真田は言い出したら聞かない。
そりゃもう泣く子も黙る我儘っぷりで意思を通す。



俺の言葉になど耳も貸さず、さっさと校門に向かっていく背中に諦めた。



「行くよ。ちゃんと病院に行くから手を離せ。」
「本当か?」


「なんなら診断書を貰ってこようか?
 とにかくお前に手を引いてもらわなくても病院くらい一人で行ける。
 だから真田は部活に行け。これは部長命令だ。」



黙り込んだ真田が真実を見定めるかのように俺を見下ろす。
仕方ないから俺は部長の特権を使う。



「部長、副部長共に留守するわけにはいかないだろう?
 今日のメニューは予定通り。赤也にはダブルスのフォーメーションを徹底的に覚えさせてくれ。
 時間が余ったらミニゲームを。仁王と柳を組ませてテストしておいてくれ。以上。」


「わかった。」
「わかったなら、この手を離せよ。」


「うむ。」



渋々と手を離した真田が物言いだけに俺を見るから訊いてやる。
こういう時は俺が誘ってやらないと大事なことを言えない奴だから。



「なんだ?そんな顔するなよ。」


「すまない。」
「大丈夫だって。お前に掴まれたぐらいで、どうにかなる腕じゃない。」


「違う。お前に・・・無理を強いていることを詫びている。」



思いもしない真田の言葉に『大丈夫』と言うはずだった唇が止まる。
真田は瞳を細め、苦しげに言葉を続けた。



「お前の身体の事を思えば、もう諦めた方が楽なのは分かっているんだ。
 だがな・・・俺たちがお前を諦められない。
 幸村精市という頂点に立つ男を諦めきれずに・・・無理を強いている。」


「真田・・・」


「すまない。」



真田が俺に頭を下げた。


「馬鹿だな、真田」と声にしたけど、小さくて聞こえなかったかもしれない。


お前がもっと鼻もちならない奴だったならと、何度思ったことだろう。
どんなに俺が打ち負かしても、お前はクサったり卑屈になったりしなかった。
いつも凛として潔く負けを認め、それでいて更に上を目指して努力する。
俺は尊敬にも似た思いで、お前の背中を見つめてきたんだ。



テニスには勝っても、真田と言う人間に勝ったと思ったことなど一度だってない。



いつまでも上がらない真田の頭を拳骨で殴った。
殴られるとは思っていなかっただろう。
真田が間抜けな顔を上げるから笑ってやる。



「お前に謝られると雨か、雷か、槍だって降ってきそうだから止めてくれ。」



「俺は心から、」
「分かってる。分かってるから、止めてくれ。」


「幸村・・・」
「俺だって自分を諦めたくない。そして、お前にも・・・諦められたくないから頑張ってるんだ。」



そうか、と真田が口元をゆるめた。
本当は自分に諦めていたんだけど、それは内緒だ。
そんなことを言ったら真田は烈火のごとく怒りだすだろうし、何より酷く傷つく気がする。


君もこんな想いなんだろうか。
俺にとっても唯一無二の人間である真田。
この真っ直ぐな男を悲しませたり、傷つけたくはない。


だからこそ君は俺に『戻ってきてほしい』『諦めないで』と言ったのだろうか。
例え代償に真田には言えない俺との秘密を抱えても構わないほどの強い意思を持って。



「じゃ、行って来る。予約して行くわけじゃないから、部活の間には帰れないと思う。」
「分かっている。何かあったら、必ず俺に知らせてくれ。」


「何もないよ。ないけど、真田が眠れないといけないから連絡しようか。」
「助かる。」



俺は真田に約束して、努めて明るく手を振ると一人で歩きだした。
黙々と歩いて、校門を出る時に少しだけ後ろを振り返ってしまう。


昇降口の前、真田と君が並んで俺を見送っていた。



俺は目を閉じ、風の匂いを吸い込んでから校門を出た。




















君をください 4

2007/09/10




















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