君を探してた 3










俺はいつも君を探してた。


どこにいても、すぐに君を見つけられる自分に感動すら覚える。
君が誰のものでもあっても、この気持ちはどうしようもなかった。





食堂に並ぶ彼女に気がつく。


随分離れていると思ったのだけど、彼女ときたら遠くからでも俺の視線に気がつき笑顔イッパイで手を振ってくる。
その笑顔に俺への信頼と友愛を見るたびに胸が痛むんだ。


俺が軽く手を振り返してやると、嬉しそうに『今日はカレー』と大きな口の動きで教えてくれた。
隣で不二が「カレーもいいな」なんて呟くのを聞きながら、俺は日替わり定食の列に並んだ。



「なんだ不二、カレーはやめたのか?」
「日替わりのエビチリに惹かれたからね。」


「不二が期待するほど辛くないと思うよ?」



そんな他愛もないことを話していたら、早くに並んでいたらしい彼女が
カレーの乗ったトレイを手にテーブルについていた。
視界の隅でそれを確認していたら、不二が突然に話題を変えてきた。



「手塚、多分・・渡米するよ。」
「・・そうか。」


「一年とか二年とか言うレベルじゃない。あっちを拠点にトップを目指すつもりだと思う。」
「ああ、」


「彼女、どうするのかな?」
「さあ。」


「乾、」



不二は近づいてくる順番にポケットから財布を出しながら、さらっと言った。



「手塚は鈍いから、なんにも気づいてないよ。乾はどうするつもり?」


「・・・なんのことだ?」



ああ不二は勘が鋭いんだ。とぼけても許しては貰えないだろう。



「僕さ、思うんだけど。誰かを好きだって思う気持ちは自分だけのものだろ。
 だからさ、乾がそんな顔する必要はないと思う。」


「俺はそんなに酷い顔をしているのか?」
「ちょっとね、辛そうだよ。」


「そうか。まだまだ、だな。」


「言う言わないは別にしても心の中で想うのは自由だよ。堂々としてて、いいんじゃない?
 えっと。日替わりって、いくらだっけ?」


「520円だよ」
「その半端な20円は何?」


「さぁ、漬物代かな」



不二がクスクス笑って俺の肩を叩いた。
温かい手に救われる思いがした。



答えが見つかった訳じゃない。
近づく卒業を前に俺は迷ってばかりだ。


だけど彼女を好きだと思う気持ちを胸のうちに持つことだけは、誰にも遠慮はいらない。


不二がくれた言葉で随分と気持ちが楽になった。





そして二学期の終業式。


明日がクリスマスイブだという日に、俺は手塚に告げられたんだ。



「乾。俺はアメリカに行く。」
「そうか。どれぐらい行くんだ?は?」 



一番気になることを訊ねれば、手塚が僅かに眉根を寄せ表情を曇らせた。



「期間は未定だ。それはにも話して・・・応援すると言ってくれた。」



     『乾。俺は、世界の頂点を目指す。』



強い瞳で手塚が言った。敵わないと思った。
俺が手塚に勝つことに必死になっている間も、手塚は世界を目標に戦っていたんだ。
こんな強い男に敵うはずがない。



「がんばれよ」
「ああ、ありがとう。」





手塚に告げられた後、
俺は図書室のすみでぼんやりと窓の外を眺めているを見つけた。




「乾クン、」



泣きそうな顔に無理矢理笑顔を浮かべた彼女が痛々しい。


ああ、どうしよう。
そんな顔を見てしまったら・・・



「手塚を行かせていいのかい?」
「それが・・・国クンの夢・・だもの」


「えらいよ、。」



うん、と頷く彼女の瞳に涙の膜が張っていく。



「俺の胸で良かったら、いつでも貸すけど?」



おどけて肩をすくめれば、瞳いっぱいに涙を溜めたが微笑んだ。
ポロポロと真っ白い頬に涙が零れていくのと一緒に、みるみる歪む彼女の笑顔。



コツンと、俺の胸につけられた彼女の額。



その肩を、背中を、思いっきり抱き寄せようとしてやめた。
開いた手を強く握りしめ、自分の体の脇に落とす。


棒のようにタダ突っ立って、が泣きやむまで胸を貸した。





そして、イブの前日の夕方を二人で帰ったんだ。


明らかに泣きはらした顔の彼女は手塚に会えないと言って俺を選んだ。
いつまでも鼻をグズグズいわせているの隣で、俺は彼女のつむじを見ながら歩いた。


駅前まできたら駆け足で暮れていく冬の薄闇に鮮やかな光りが浮かび上がっていた。
彼女と恋人っぽくクリスマスツリーが見たいとか、そんな甘い感情じゃない。
とにかく彼女を元気にしたくて、美しいものを見せてやりたかった。



、ツリーを見ていこう。受験生には、ちょうどいい息抜きだろ?」
「え?」


「ほら、あっち。」



もう何も確かなものを瞳に映していなかった彼女の前に指をさしてやる。
ツリーの輝きを認めた彼女が笑顔を浮かべた。



やっと笑ったね。



「近くに行って見てみようか?」
「うん」



仕事帰りのサラリーマンや学生達に混ざって、彼女を庇うようにして辿りついた大きなツリー。
見上げた彼女は唇を少し開いて、感嘆したように白い息を吐いた。
潤んでる瞳に七色の光りを浮かべる君の横顔を俺は馬鹿みたいに見つめていた。



「綺麗ね」
「ああ」


「ふふ。なんでか願い事をしたくなっちゃう。」
「それは七夕だろう?」


「そうだけど。祈れば願いが叶いそうでしょう?」
「ふむ。じゃあ、願い事をかけてみるかい?」



彼女はニコッと微笑むと神に祈るかのように指を組んで目を閉じた。
願いごとは何かなんて、野暮な事は聞かないよ。


きっと手塚のことを願うんだろう。


俺も彼女と同じように手を組んで目を閉じた。
聖なるクリスマスだから純粋な願いだけを神に捧げよう。



『君がいつでも笑顔でいられますように』



俺は君の笑顔が大好きなんだ。
それが俺のものじゃなかったとしても、君には大好きな笑顔でいて欲しい。



がクシュンと可愛いクシャミをした。
俺は彼女をツリーの下に残して自販機へ走る。


眩しいほどの自販機の前で温かいミルクティーのボタンを押してから空を見上げた。


明るい都会の空に星は一つ、二つしか浮かんでいない。
それでも白い星はダイヤモンドみたいに瞬いている。
触れることができない美しさに惹かれる気持ちは俺の恋と同じだ。



ガタン、と音を立てて落ちてきた缶の音に我に返った。



熱いほど温められた缶を拾い出すとコートのポケットに突っ込んで彼女のもとに戻る。


温かい飲み物で彼女を温めてやろうと思う。
彼女を温める腕は、他にあるのだから。



クリスマスは手塚と過ごすのだと言った。
良かったねと、素直に言えた自分を自分で褒めた。










『残された時間、できるだけの傍にいてやりたい』



年明け、手塚は遠くのテニスコートを見つめながら俺に言った。
俺は自分の受験に集中したいからと彼女の先生から降りた。
当然、彼女を帰りに送っていく事もなくなる。



あんな不器用なヤツだけど、手塚は手塚なり精一杯にを大事にしていた。
それが分かっているから、は笑顔を絶やさずに辛い気持ちを隠そうとしている。


傍から見てるとお互いがお互いを大事にする余りに苦しんでて、痛々しいほどに見えた。



あれきり不二は何も言わない。
時々ニコニコしながら参考書片手にやってきて、他愛ない話をして和ませてくれる。



小学生の頃は冬は長くて嫌いだった。
すぐに日が暮れて遊ぶ時間が少なく、夜がやけに長い。


なのに、高校三年の冬は今まで生きてきた中で一番はやく通り過ぎていった。



春間近、俺は第一志望の大学に合格した。
も二番目に希望していた大学に合格を決めたらしいと不二から聞いた。



手塚は卒業式の翌日にはアメリカに発った。



あの手塚が人目も憚らずにの体を抱きしめた姿を俺は見た。



それは俺にとって、彼女にする最後の失恋みたいだった。
けれど悲しくはなかった。清々しい気持ちに近かったかもしれない。



二人なら距離も時間も越えていくんだろう。



俺も卒業するよ。
学校からも。テニスからも。そして、一つの恋からも。



バイバイ。シアワセに。



『乾クン!』


『卒業おめでとう、。』
『乾クンこそ、卒業おめでとう。あ、あの・・』


『なんだい?』
『今まで、たくさん・・ありがとう。こんな言葉じゃ足りないぐらいだけど、』


『いや、俺の方こそ感謝してるよ。ありがとう。』
『え?私、乾クンには何もしてなくて』


『そんなことないよ。君は居てくれるだけで楽しかった。』
『私もよ?乾クンが居てくれるだけで楽しかった。』


『光栄だよ。とにかく、元気で。・・・頑張って。』
『ウン、乾クンも頑張ってね。』


『ああ、』



バイバイ。バイバイ。



全部、バイバイだ。




















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