キスして良いのは貴方だけ 4












街を歩けば色鮮やかなイルミネーションが人々を照らしている。
駅前の大きなツリーを見上げて溜息をつけば、周りからは感嘆の声が聞こえてくる。
クリスマス当日には、もっと多くの人間がきらめくツリーの元へ集うのだろう。


肩を寄せ合う恋人たちを見るともなしに視界に納め、手にした鮮やかな包みを胸に抱いた。
いつ渡せるとも分からない観月クンへのプレゼント。


昨夜のうちに『クリスマスも仕事』と電話があった。
観月クンの仕事が忙しい事は、付き合い始めて直ぐに分かった。
はじめは避けられているのではと疑うほど『仕事、仕事』と口にした観月クン。





   自分のしたことに対する責任は持ちます。





そう言って、付き合うことを提案してきた観月クンの言葉にショックを受けた私。
『責任』という言葉で付き合うのは違うと思う。


なのに私は拒めなかった。
だって観月クンは優しかったから。



昔、学園の裏門に捨てられていた子猫を自分の懐に抱き頭を撫でる観月クンを見た。
小さな子猫は寒さに震えながらも彼を見上げ、ミーミーと甘えた鳴き声をあげる。



『ヨシ、ヨシ。かわいそうに、寒かったでしょう?』



その当時の観月クンは寮生だった。
だけど躊躇いも見せず懐に子猫を包んだまま歩きだそうとした。



『ああ・・さん。今、帰りですか?』
『観月クン、猫・・・』


『そこに捨てられてたんですよ。この寒さでは誰かに拾われる前に弱ってしまいますからね。』
『寮に連れて帰って大丈夫?』


『規則違反ですけど、このまま見捨てて死なれるのも嫌ですしね。
 まあ、何とかなるでしょう。なんとかしますよ。』


『わ、私が預かってもいいよ?その・・自宅だし。』



あの頃の私にとっては精一杯の勇気だった。
観月クンとの間にできるだろう繋がりが欲しくて、深く考えるより先に言葉を発していた。


ふっと観月クンが瞳を細めた。
そして穏やかに微笑んで頭を振ったの。



『あなた、喘息なんでしょう?猫の毛は良くないですよ。』
『どうして知って・・・』


『先月、休んでいたでしょう?季節の変わり目は体調がすぐれないようだし分かりますよ。』



彼の観察力に驚くとともに、目立ちもしない私のことまで知っていてくれるのがとても嬉しかった。



『ありがとう。大丈夫ですよ、僕にはアテがあるんです。』



観月クンの髪に一つ、二つと小雪が舞い落ちる。
重く沈んだネズミ色の空の下、観月クンの赤いマフラーが綺麗だった。


数日後、子猫は赤澤君の家に貰われたのだと観月クンがわざわざ私に教えてくれた。
それは大切な観月クンとの思い出だ。





あの夜も、観月クンは拾った子猫を抱くように私を懐に入れてくれた。
震える私を宥めるように何度もキスをくれた。


観月クンが優しすぎるから切なくて。
それでいて観月クンに満たされて、また切なくなった。



ここで観月クンの手を取らなければ、もう二度とあの優しさに触れることはできない。
一度でも手にしてしまった温もりは私の心を離さない。


だから観月クンのいう『責任』に縋ってしまった。


せめて観月クンの邪魔になりませんように。
一日でも長く彼の傍にいられますように。


嫌われないように。できることなら・・・少しでも愛されますように。



突然の電話に呼び出されてマンションに向かえば、
いつも山のような資料を前に疲れた顔をしてる観月クンがいる。



「すみません、いつも突然。」
「いいの。あの・・忙しいのね。大丈夫?」


「大丈夫じゃないですけど、あなたの顔が見たくなったんです。」



ああ、嬉しい。
手を伸ばしてくる観月クンに心は喜びで溢れる。



あなたが好きなんですよ。
居酒屋で聞いた、掠れた観月クンの声を思い出す。
酔ったうえでの言葉だったとしても、今も求めてくれるのなら。


私は求められるままに全てを捧げる。





、お待たせ!」



後ろから肩を叩かれて振り向けば、待ち人の友達が微笑んでいた。
以前と変わらず友達と食事に出かけられる私の生活。



心には観月クンがいるけれど。





















キスして良いのは貴方だけ 4  

2007/12/08

フェードインする恋心
コは相手にしないプライド
リードする時は、いつもさりげなく
スして良いのは貴方だけ
ルーされた告白の行方

お題 キミにうたう「すき」のうた 様より




















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