見初められたら諦めましょう 3










それからあと、どういうわけか定期的に跡部から誘われるようになった。
だいたい二週間に一度の割合で食事をしている。
跡部が連れて行ってくれるのは普段なら行けないような高級店ばかりで、
美味しいうえに私の仕事にもプラスになってありがたい。
さっそく二店ほど取材の申し込みをさせてもらった。


疑問なのは、どうして私を誘うのかってこと。



さん。それ、わざとですか?どう考えても御曹司はさんに気があるんですよ」



跡部とのことを聞きたがる後輩は、呆れたように言う。
一般的に男性が繰り返し女性を食事に誘うとなると、そう考えられなくもない。


でも、相手が跡部では考えにくい。



「そんな雰囲気ないし」
さんはボケですから、気づかないんですよ」



会議室に資料を広げたままの休憩時間。
連日の企画会議に疲労を滲ませた後輩は口まで悪くなっている。



「話すことっていったら、料理とかワインの話だし」
「そこから甘い雰囲気にならないんですか?」


「全然。この前は金融緩和について解説してもらって、わかりやすかったなぁ」
「そうですか・・・御曹司も苦労してるんですね」



脱力したように呟き、彼女は椅子に背中を預けた。





学生時代から跡部の周辺には多くの女のコたちが存在していた。
それも大病院の娘だとか、政治家の娘など、上流階級の人達ばかりだ。


私は中流家庭で育ち、高校は特待制度を使って卒業し、その後は国立大学に進んだ。
今も大学の奨学金返済を続けている庶民中の庶民に、跡部がどうこうということはないと思う。



「きっと毎日大変なのよ。で、ちょっと気を抜きたいんだと思う」
「その相手がさんって?やっぱり、気があるってことじゃないですかぁ」



なんで、そこに戻ってくるかね。
反論しようとしたところで編集長が部屋に入ってきたので、そこで話は終わった。






今日は私がおススメのお好み焼き屋。
笑っちゃうぐらい店の雰囲気と合っていない跡部が黒のロングコートを脱いで眉間にしわを寄せている。



「おい。コートをかけるところは?」
「ないない。隣の椅子に置いとけば」



さっさと椅子に腰を下ろした私だけど、跡部は難しい顔で座席を見ては考えている。
椅子が油っぽいとか埃があるとか思ってるんだろうなと口にしなくても分かった。



「別の場所にする?」
「いや、いい」


「コート、こっちにちょうだい」



嫌そうながらも気を遣ってか帰らない跡部に手を差し出した。
怪訝な顔で渡されたコートを綺麗にたたみ、置いた私のカバンとコートの間に挟む。
そうすれば跡部のコートは座席に触れないし、匂いもつかないからね。


跡部の顔を見て笑ったら、「悪いな」と跡部も微笑んだ。


自分で焼くのは初めてだという跡部に一つ一つ教える。
はじめは澄ました顔で話を聞いていた跡部だけど、途中からは上着を脱いでワイシャツの袖を捲っての作業になった。
ネクタイが汚れるからと捲って肩にかけ、両手にヘラを持つ姿は勇ましい。



「ちょっと跡部、まだだってば」
「ああ?そうか?焦げちまうぞ」



気が短いのか、なんども焼き加減を見る跡部は子どもみたいだ。
そろそろか、まだじゃない?そんな会話を何度か繰り返し、やっとお好み焼きが完成した。
出来あがったお好み焼きを前に、どや顔の跡部。


跡部がお好み焼きを焼く姿は格好よく、ほほえましくもあった。



「どう?自分で焼いたお好み焼きは」
「まぁまぁだな」


「ふふ。美味しいよね」
「まぁな」



アツアツをふーふー言いながら食べるのが美味しい。
ふりかけた鰹節が踊っているのも美味しそうで、楽しい食事になった。


いつものように他愛ない話をして、仕事の愚痴なんかを聞いてもらう。
跡部は自分からは愚痴っぽいことなど言わないけれど、私の話に相槌うちながら少しだけ日々の苦労話をする。


なんでも出来て当たり前のような人だけれど、見えないところで人の何倍も努力をしているんじゃないだろうか。
それは学生時代も感じていたことで、跡部が完璧であればあるほど『大変なんだろうなぁ』なんて思っていた。


薄汚れた店で自分が焼いた熱々のお好み焼きを食べる。
こんな時間が跡部にとって息抜きになっていればいいなと思う。



あ、そういえば・・・



「どうした?」



変化した私の表情に気付いて、跡部が訊いてきた。



「今ね、気づいた」



隙のないスーツ姿だった彼が、ネクタイを肩にかけたままで首をかしげている。
氷帝の王様だった跡部とは違う一面が見られて嬉しいかも。



「跡部って、初めて出来た男友達だなぁって」



ビールを片手に機嫌よく教えてあげたら、途端に跡部が眉間にしわを寄せた。
まじまじと私の顔を見て、それから深々と溜息をつく。



「そうだよな。お前はそういう奴だった」



変わってねぇかと独り言をつぶやいて、つまんなそうに残ったお好み焼きを口に放りこむ。
機嫌を降下させた跡部に私は焦った。



「ごめん。なんていうか、ほら。仕事以外で男の人と話すのは楽しいっていうか新鮮っていうか、
 それでちょっと調子にのりました。ええっと、友達気どりになっちゃって・・すみません」



謝ったら、ますます跡部は嫌な顔をして大げさな溜息をついた。
どうも相手の気持ちを上手に読めないのが私らしく、よく『疲れる』と言われる。



「あの・・」



おそるおそる上目づかいに跡部を見たら、おもっいきり目が合う。
これは不味いと視線を逸らせば、前から跡部の笑い声が聞こえてきた。
ちらりとうかがうと口元を押さえ肩を揺らしている。



「呆れてはいるが、べつに怒っちゃいない」
「そう?よかった」



ほっと肩の力を抜いたが、「良くはねぇ」と跡部に叱られた。
お前にはハッキリ言わないと分からないようだからと前置きし、跡部は腕を組むと何だかムッとして続けた。



「俺と、つきあえよ」



なんだ、そんなことかと思う。
やっぱり庶民の味では物足りなかったのね。



「いいよ。どこの店に行く?」



彼のおススメを楽しみに嬉々として答えたら、跡部がテーブルに片肘をついて額を押さえていた。



















見初められたら諦めましょう 3

2012/12/29




















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