見初められたら諦めましょう 4
お好み焼きを食べに行った夜、跡部は酷く疲れていた。
付き合ってくれと誘ってきた直後に、『やっぱり、いい』と帰ってしまったのだから相当だと思う。
それとも店でスーツにしみついたお好み焼きの匂いが気になったのか・・・
どちらにしても顔をしかめつつ、仕切りなおすと呟いて帰っていったのだった。
それから三日もしないうちに、また跡部からお誘いがあった。
急だがと前置きして誘われたのは、都内の一等地にあるホテルのリニューアルパーティーだ。
グループ企業が関わっているホテルということで、跡部も出席すると。
『女性に人気のあるホテルなんだろ?お前の仕事に役立ちそうだと思ってな』
なんて気の利く男なんだろう、跡部景吾。
そこで繋ぎをつければ、後にホテルの取材もできそうだ。
エステやリラクゼーション施設も充実してるとくれば、ぜひぜひ自分の目で見てみたいと思う。
邪魔にならないのなら連れて行って欲しいが、関係者じゃない私が紛れてもいいものだろうか。
着ていく服とか、どうしよう。
出版社のパーティーと同じ感覚で行っては浮いちゃうかも。
悩んでいたら、追加のメールがきた。
『仕事帰りに来るだろ?そのままの格好でいいからな』
あら、そう。ゴージャスなパーティーを想像してたけど、そうでもないんだ。
ならば、取材に行く程度の格好でいいか。
「さん、なにニヤニヤしてるんです?」
休憩室のソファーでメールをしてたら、後輩が隣に座ってきた。
昼を他の同僚と外で食べて戻ってきたところらしい。
彼女の肩あたりに鼻を近づけクンクンすると油の匂いがした。
「あ、天丼たべてきたでしょう」
「当たりです。っていうか、そんなに匂います?」
職場近くの有名な天ぷら屋では、ランチの天丼が安くて美味しい。
当たったことが嬉しくて喜んでいると、彼女が嫌そうに自分の服を引っ張って匂いを嗅いだ。
「短い時間でも匂いがつくよね。私もこの前、跡部にお好み焼きくさいって言われた」
「は?それって、例の御曹司ですよね」
「そう。あの人にお好み焼きって似合ってなかった」
「はぁ・・そうですか。まだ会ってたんですね」
店を出た時、跡部も私の肩あたりに顔を近づけて小さく笑った。
『お前、お好み焼きくせぇぞ』って。
すぐ近くにあった跡部の体からはお好み焼きの匂いなんかしなくて、彼の好みらしい香水の匂いがした。
あ、そうだ。
今度のパーティー、一緒に彼女も誘っていいかな。
そうそう行けるホテルじゃないし、喜ぶかも。
思って口を開いたが、後輩の顔を見たら上手く言葉が出てこない。
勝手に誘っては跡部に迷惑をかけるかもと思ってしまったのと、なんとなく。
「なんだかんだ言って、付き合うことにしたんですね」
「え?つきあう?付き合うって食事ぐらいだけど」
口ごもっているうちに後輩が話を先に進め、彼女に言われた言葉に慌てて返した。
そういえば、初めて食事以外で誘われたのが今回のパーティーだ。
「またまた。何かアプローチされてるでしょ?」
「ううん、そんなこと」
俺と、つきあえよ
あの夜の言葉が不意によみがえった。
あれ、まさか。
・・・違うよね。
勘違いも甚だしいと恥ずかしくなり、ちょっと熱くなった頬を押さえる。
跡部ほどの人が、そういう意味で私を見るはずがないじゃない。
氷帝の制服を着た跡部が、背筋を伸ばして立つ姿を思い出す。
映画かテレビの世界みたいなところで生きている人。
それが私にとっての跡部だったから。
「そんなこと言ってたら玉の輿を逃しますよぅ」
ふざけたように言う後輩に愛想笑いを見せたものの、何故か気持ちの落ち着かない私だった。
見初められたら諦めましょう 4
2012/12/30
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