俺様の恋 3 『ありえねぇ』










練習をサボっている向日の腰を後ろから蹴っているを見た。
あんな女に恋人がいた?ありえねぇ。



「忍足」
「なんやぁ?」


が付き合ってたヤツって知ってるか?」
「へ?なに、にホレたんか?」


「馬鹿か、てめぇは。天地がひっくり返っても、んなことねぇ。
 が、あんな女でも恋人が作れるのか知りたかっただけだ。」


「へぇ。ふーん。なるほど。」



意味ありげに俺を見る忍足の足が気にいらず、思いっきり踏んでやった。



「イタッ、なにすんねんやジブン!」
「意味ありげに俺を見るからだ。」


「やって、跡部が女のコの元カレとか気にすんの初めて見たんやから、意味ありげにもなるやろ。」
「そうだったか?」


「そうや。気にいった女が出来たら、男がいようがいまいが気にも留めず手に入れるやろ?」
「人でなしだな。お前みたいだ。」


「お前に言われとうないわ!けど・・・の元カレいうんは聞いたことないな。
 、ああ見えてモテるんやで?綺麗な顔してるし、サッパリしてて男共とも気軽に話すやろ?
 ジローも懐いてるし、宍戸は結構マジみたいやで?鳳あたりも怪しいよな。」


「マジか?アイツら、オンナ見る目がねぇな。」


「なに言うてるんや。オンナを見る目があるから、なんやろ?
 勘違いしてた。跡部がに惚れるはずなかったわ。あのコの良さなんか跡部に分かるはずがない。」


「はぁ?馬鹿じゃねぇの?」
「言っとくけど、俺はが好きやで。まったく相手にされてないのがツライとこやけどなぁ。」



ふふん、と鼻で笑って忍足が歩き出す。
開脚させられた上にが背中に乗って苦しんでいる向日を救出してやるらしい。
いくら体が柔らかくてもコートに押しつぶされたら痛いだろう。


ゲラゲラと笑うの声を聞きながら、あの女のどこがいいんだ?と真剣に考えてしまった。





翌日はバスで練習試合に行くことになっていた。
小さな学園のバスは性に合わないが、
部長の個人行動は許さないとウルサイ女のせいで俺は此処にいる。



「で、なんでテメェが俺の隣なんだ?」
「仕方ないでしょう?跡部が一番前で悠々と一人座ってるんだもの。ここしか空いてません。」


「補助席があるだろう?」
「嫌よ、狭いし酔うんだもん。悪いけど、窓際に座らせて。」



言うが早いか、は図々しく俺の前に体を捻じ込んでくる。
肩にかけた大きなカバンで顔を殴られそうになり、避けてる間に窓際を強引にとられてしまった。
尻で俺を跳ねのけサッサと窓際に座ると、
肩のカバンを外して「これ、上において」と事もあろうに俺様に命令しやがった。
それじゃなくても学園のバスに押し込められて不機嫌なのに、なんで隣がなんだ。



「それぐらい自分でしろ。」
「ケチ!」



は狭い座席で立ち上がり、ヨッコラショとカバンを持ち上げる。
また俺の頭を殴りそうな勢いに、コイツはわざとやっているんじゃないかと疑い始めた。
そこでバスが発進した。
俺に尻を向けて網棚に荷物を乗せようとするがバランスを崩し、
あれぇ〜だか、ひぃ〜だかの声をあげながらカバンごと俺の膝に尻餅をついた。
反射的に伸びた人好しの腕がを支えたが・・・痛ぇ。



「あ、ゴメン!跡部、大丈夫?」
「・・・いいから、サッサと退け!」


「ハイハイ」



青筋を立てながらを退けて、カバンを網棚に放り投げてやった。
これで文句はないだろう?と目でモノを言い、ドカッと座ると目を閉じた。
もう寝るしかない。昨夜も遅くまで生徒会の書類をまとめてたし眠いんだ。
目覚めた頃には目的地に着くだろう。
そう思って睡魔に身を任せた。



心地よい揺れに身を任せている。
あたたかい陽射しに包まれている感じ。
うつらうつらしつつ、徐々に意識が覚醒していく。



「跡部、もうすぐ着くよ」



穏やかな声が耳元で囁かれ、ハッと目が覚めた。
頭を起こせば、俺の体は思いっきり隣のに寄りかかっていた。
状況から判断して、俺はの肩にもたれて寝てしまったらしい。
シマッタという言葉が頭の中をかけめぐる。


だがは閉めてあったカーテンを開くと眩しそうに瞳を細めて呟いた。



「頑張りすぎだよ、跡部。少しは自分を甘やかさないと。」
「・・・知ったような事、言ってんじゃねぇよ。」


「みんな、力になりたいって思ってる。もっと頼ればいい。」
「言ってる意味が分からねぇ。たかが居眠りしたぐらいで大げさなんだよ。」



が窓から俺に視線を戻した。
いつもの目じゃない。本当に心配そうに瞳を揺らし、俺を真っ直ぐ見て言った。



「無理はしないでね?」



フン、と俺は目を逸らした。
なんかに心配してもらわなくても、自分のことは自分が一番分かっている。
大丈夫だ。俺は、まだまだやれる。
全て俺がいないと動かねぇんだ。俺がやらなきゃ。それも完璧に。
でないと、跡部景吾じゃねぇ。


もの言いたげなとは、それきり言葉も交わさずにバスがついた。
その後はマネージャーとして走り回っているがいて、俺もいつも通り部長として炎天下のもと立っていた。


去年は近畿大会でベスト4の学校だか、俺たちの敵じゃない。
ただダブルスには良いペアがいて、宍戸や鳳には勉強になっただろう。
次に忍足と向日のダブルスが出るという時になって、
忍足が『自分がシングルス1になろうか』と言ってきた。



「はぁ?何、とちくるったこと言ってんだ?」
「いや、跡部・・・体調が悪いんやろ。が心配してる。」


「ふん、バカバカしい。何でもない、俺が出る。お前はお前の仕事をしてこい。」
「けど、」


立ち去ろうとした俺の腕を忍足が掴む。
その手を振り払おうとした時、急に地面が揺れた気がした。



「跡部!おい、大丈夫か?」
「・・・大丈夫だ。」


「大丈夫やないやろ?ちょっ、カバジ!、呼んでこい!」



眩暈と吐き気がした。
くそ。ここ最近、ずっと2-3時間しか寝てなかったからか?
それぐらいで・・・ありえねぇ。


木陰のフェンスにもたれていたら、直ぐにがやってきた。



「跡部、バスに戻ろう?シートを倒せば横になれるから。」
「部長が途中で抜けるなんて・・・んなこと出来るか。」


「忍足君。跡部を休ませるから、ちょっと時間を稼いでて。シングルス1は跡部のままで。」


「やって跡部は、」
「言って聞く人じゃないよ。
 それに跡部は人並みはずれた精神力と体力があるから、少し休めば・・・ね?」


「・・・分かった。ちょっと遊んで長引かせてくるわ。次の奴らにも言うとく。」
「お願い。」


、勝手に仕切ってんじゃねぇぞ。」



睨んでみたけれど、は何も答えず俺の腕を引く。
忍足は笑顔を浮かべ「俺らの大将がコートでぶっ倒れられたら恥ずかしいからな」と去っていった。
ついてこようとしたカバジをが制し「向こうに気づかれないようにして」と話す。
俺が顔をあげれば、がニコッと笑った。



「我らが大将だもの。強いところだけ相手に見せたらいい。」
「・・・当たり前だ。」


「ハイハイ、そのためにも今は元気をチャージしましょう。」
「ふん。」



眩暈を感じながらに付き添われバスに戻った俺はシートを倒して横になった。
が冷たいタオルとドリンクをまめに換えてくれて、いつの間にかまた眠っていた。
ふっと目覚めると、通路を挟んで隣の席にが軽く腰をかけて団扇の風を俺に送っていた。



「試合は?」
「今ね、シングルス2が始まったとこ。皆、楽しんじゃって。
 嫌味な強さでフルセットまで持ちこんでるわ。どう?起きられる?」


「随分・・寝たのか?」
「うん。跡部のために皆が時間稼ぎしてくれてる。さっき、忍足君が様子を見に来てくれてた。」


「そうか・・」



窮屈なところで寝ていたせいか、体を起こすとあちこちが軋んだが眩暈はしなかった。
横から差し出された冷たいタオルで顔を拭うと、頭の中もクリアになってくる。



「顔色・・・よくなったね。」



の言葉に返事をする気が起きなかった。
情けない。こんな日に、何をやってるんだと思う。



「生徒会に、定期試験の準備に、部活に、おまけに家の事もあるんでしょう?
 ジロちゃんも心配してたよ。いつか倒れるんじゃないかって。」


「・・・俺は出来るからやってるんだ。」


「出来るのは分かってるけど、無理してる。自分に負担をかけすぎだと思う。
 跡部が頑張りすぎなぐらい頑張ってるの知ってるから、みんなが跡部を信頼して付いていってる。
 でも心配だってしてるの。そのことを忘れないで?」


「俺に説教する気か?」
「まさか。ハイハイ、もう言いません。どうぞ、水分補給してくださいませ。」



クーラーボックスから出してきたドリンクは冷たくて、
朝には入ってなかったメーカーのペットボトルが並んでいるのが目に入った。


裏方に徹し、気のまわる
部員達の信頼を得ている理由がわかった気がした。



「お前・・・きっと嫌な主婦になるな。」


「なにそれ、突然。」
「亭主は頭が上がらねぇだろうって事だよ。俺は、ごめんだ。」


「ええっ、それって可愛げがないってこと?
 君は僕がいなくても一人で生きていけるとかって、夫に捨てられるタイプって言いたいわけ?」


「そこまで言ってないだろ。」
「どうしよう、捨てられたら。」


「そこで悩むかよ、ふつう・・」



コンコンとバスの扉を叩く音がして、鳳が顔を出した。



「跡部部長、そろそろウォーミングアップをって忍足先輩が。」
「ああ、分かった。」


「大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。」


「あれ、先輩。どうしたんです?」
「鳳君、私って可愛げがない?夫に捨てられるような女?」


「え?あ、いえ。な、何の話ですか?」


「鳳、相手にするな。バカがうつるぞ。」



困惑する鳳を置いて、俺はラケットを手に外へ出た。


空が青い。
どこまでも青く広い。


俺の存在なんか、この空の下じゃ小さいものなんだろう。
それでも、精一杯やるさ。
仲間もいるし、な。



屈伸運動をしていたら、バスから鳳とが降りてきた。



「いや、俺は先輩は充分に可愛いと思いますよ?本当です。あの・・俺だったら絶対に先輩を捨てたりしません!」
「鳳君・・ありがとう。本当に好い人!」


「はぁ、いや。どうも。」



鳳の淡い恋心が見事に打ち砕かれるのを目の前で見た。
落胆する鳳を横目に思う。ありえねぇって。





シングルス1の試合。
相手も部長だ。
お世辞にも体調が良いとは言えない。
なら、さっさと済ませちまうしかない。


俺はワンポイントも与えず、速攻で試合を終わらせた。
ベストコンディションだったら、もう少し遊んでやったんだが・・・悪いな。





帰りのバスはカバジを隣に座らせ、枕にして思いっきり寝た。
いつもは観光バス状態で騒ぐ奴らが俺に気を遣ってか静かだ。


心地よい揺れの中、俺は久々にぐっすりと眠った。




















俺様の恋『ありえねぇ』 

2006.09.25




















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