俺様の恋4 『無理しない』










「忍足、この日誌を書いて出してこい。」


「え〜、また俺かい。他にも暇なヤツがおるやん。」
「お前以外のヤツは字が汚すぎて判読できないだよ。おらっ」


「ああ・・・小学校の時に硬筆を習ってしまったのが悔やまれる。」
「ついでに監督からの連絡事項も聞いてきてくれ。」



部の日誌を投げれば、嫌そうに忍足が受け取って机に向かった。
そこへ汗を拭いながら宍戸と滝が部室に入ってくる。



「一年の居残り練習終了っと。あ〜、疲れた。冷たいもん飲みてぇ。」
「そういうことはに言いなよ。直ぐに冷たいタオルとドリンクが出てくるよ?」


「おーい、!」
「部室の中で呼んでもねぇ。」



宍戸は舌打ちしながら、ドカッとソファに沈み込んだ。
滝が俺の近くに来て、めぼしい一年の様子を報告してくれる。
俺は明日の練習メニューをジローと一緒に考えながら話を聞いた。



日誌も、一年の居残りも、練習メニューの組み立ても、全ては自分一人でやっていた。
そう、今までは。


今でも時間のあるときは俺がする。
それでも前とは違って、俺のそばには必ず誰かがいてフォローしてくれるようになった。



『ホントはさ、皆も手伝いたいって思ってたんだよ。
  けど、跡部が許さないっていうか・・・自分ひとりで背負っちゃうからさ。手が出せなかったんだよ。』



そうジローに言われた。
俺は少し肩の力を抜いた。
他のヤツに任せても大丈夫そうなことからふれば、口では文句を言いながらも皆は快く力を貸してくれた。
そしたら、ものすごく楽になった。



なんだ、こんなに簡単なことだったのか。
人に頼るのは負けなんだと・・・勝手に思い込んでいた。



コンコンとノックがされると同時に「入っていい?」との声がする。
ドア近くにいた鳳がドアを開けると真っ赤な顔をしたが大きなカゴを手に入ってきた。



「ハイ、宍戸君!タオルとドリンクね。」



カゴから出してきたボトルとタオルをソファーに投げる。
慌てて受け取った宍戸は目を丸くして「さんきゅ」と応えた。



「えっと、忍足君にはご所望のグリップテープ。
 ガックンはテーピングね、幅の狭い方。幅の広いのはカバちゃんね。」



言いながら行商人のようにホイホイと其々に必要なものを渡していく。
俺の前まで来るとカゴの中から書類を出してきて「ハイ、サインお願いします!」と机に並べた。
書類に目を通していると頭元でがポロシャツの胸元を引っ張りパタパタとやり始める。



「ここは涼しくていいわぁ、外は暑くって。」


「用事が終わったらサッサと出て行けよ。これから着替えるんだ。
 てめぇみたいに俺たちはジャージ姿のままじゃ帰らねぇからな。」


「ケチ。」


「おら、書類はOKだ。」



書類を押し付けシッシッと手で追い払う仕草をすれば、は渋々と「お疲れ様」を残して部室を出ていった。



「ビックリしたぁ。ホント、って気が利くよな?」
「ああいう人がイイ奥さんになるんでしょうね。」


「てめぇら尻に敷かれたいんだな。」


ちゃん・・・居場所が無いから着替えが出来ひんのやろな。」



宍戸と鳳の馬鹿馬鹿しい会話に入れば、忍足がグリップテープを確かめながらボソッと言った。



「居場所?アイツは女テニの部室を使わせてもらってるんだろう?」


「はじめは、な。
 けど女子のマネージャーは一人になってしもうたし、
 俺らのマネージャーしてると色々と他から妬まれたりして大変なんやろ。
 今はトイレでジャージに着替えてるみたいやし、荷物は倉庫の隅に置かれてる。」


「そうだったのか?」


「あ、いや。は何も言わへんから勝手な俺の想像やけどな。
 けど・・・さっきの跡部がジャージのまま帰るって言うのを聞いて、ふと思うたんや。」


「考えすぎだろうよ。単に着替えるのが面倒なんだろ。」



忍足は何か考えているふうだったが、そこへ監督から催促の電話が入って、会話は途切れた。











部員達が帰った後で俺はコートに立っていた。
既にボールはよく見えないほどの闇が迫っていたが、サービス練習は出来る。


気づけば脇に置いたカゴが空っぽになっていた。
全てを打ちつくしたところでお終いだとボールを片付け倉庫へ運ぶ。


そこで倉庫の扉が半分開いているのに気がついた。
閉め忘れたかと中を覗けば、薄暗い蛍光灯の下で壁にもたれて蹲っているがいた。



「おい、何をしてるんだ?」



俺の声に顔を上げたの表情を見て眉間の皺が深くなる。
いつもなら『ビックリさせるな』と文句を言うくせに、口を開くのも億劫な様子だ。



「跡部・・・遅いね。居残り練習?」



俺は答えずにズカズカとに近づくと手のひらを頬から首筋に差し入れる。
ビクッとの肩が跳ねたが、無視して体温を確かめた。



「やっぱり熱いじゃねぇか。」


「今日は暑いよねぇ・・・」
「バカ!その暑いじゃねぇ。熱のせいで熱いんだろ?」


「熱か・・・夏なのにねぇ。」
「なにを呑気に、っていうか。なんで具合が悪いのに倉庫なんぞで寛いでいやがるんだ?」


「寛いじゃいないわよ・・・ダルイなぁって座ったら、そのまま動くのが億劫になって。」
「で?俺が見つけなきゃ倉庫で夜を明かすつもりだったのかよ。」


「いや・・・それはヤダな、ネズミが出そうだし。」



相変わらずズレた会話、だが体調はかなり悪そうだ。
俺はこんな薄汚い倉庫で蹲っていたにジワジワと腹が立ってきた。



「立て!俺が連れて帰ってやる。」
「あ・・いいよ。休んでたからマシになったし。」


「うるさい!立てと言ったら、立て!」



強引に肘を掴んでを立たせる。
立った途端にふらつくを支えれば、細い肩と熱い体に一瞬動きが止ってしまった。
直ぐに何事も感じなかったふりで脇の荷物を手にすると、引きずるようにの腕を引いて倉庫を出る。



「あ!跡部・・・ボールのカゴは奥に・・」
「明日片付ければいいだろう?ボールより、てめぇの心配してろ。」



を引っ張りながら携帯を取り出し運転手を呼び出す。
いいのにと遠慮するを睨んで黙らせ、車の手配をした。


ここで待っていろと部室の前にを立たせ自分の荷物をまとめる。
今日は制服もラケットバッグに押し込み、直ぐに部室を出た。



「着替えないの?」
「いちいち細かい女だな。5分で車が来る、行くぞ。」



部室の鍵を締めて、再びの肘を掴んだ。



「自分で歩けるって・・・」
「フラフラしてたのは、どこのどいつだ?」


「さっきは座ってて立ったから・・・」
「倒れられたら迷惑なんだよ。」



暗い通路をを引っぱって歩く。
いつもはお喋りなの言葉が少なくて、俺は益々不機嫌になる。



「人には無理をするなとかなんだとか、散々エラソーな事を言っといてコレかよ。
 お前こそ、ひとりで何でもかんでも背負いすぎなんだろ。
 何で俺様に相談しないんだ?人が足りなけりゃ増やしてやる。
 あんな小汚ねぇ倉庫なんかを居場所にするな。着替える所ぐらい俺が準備してやる。」


「跡部・・・」


「お前ひとりが頑張ってるなんざ、なんか腹が立つんだよ!」



グッとを掴む手に力がこもる。
とにかく理由も分からず腹立たしくて仕方なかった。
が影で大きな力となっているのを知っているからこそ歯がゆかった。


俺には無理をするな、人を頼れと何でも分かってるような事を言うくせに自分には無頓着なのか。
それを今まで気づかずにいた自分に腹がたっているのかもしれない。


校門前に車が見えた。
俺は二つのカバンとラケットバッグを片手にの腕を引く。


その手がツンと引っ張られた。
が足を止めたからだ。


この期に及んでまだ遠慮するのかと怒鳴ろうとして言葉が引っ込んだ。


は俺を見上げて小さく笑った。
ちょっと困ったみたいに、バツの悪そうな顔で笑った。



「心配かけて、ゴメン。それと・・・ありがと。」



月に照らされたは赤い顔をしていた。
熱のせいだろう。


それでも俺の鼓動は俺の意志なんか無視して走り出していた。




















俺様の恋『無理しない』  2007.02.08



















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