俺様の恋5 『気になるのは』










昼休みに頬杖をつきながら本を読んでいたら、ページに影が落ちてきた。



「なんや憂いを帯びた姿が女子生徒のハートを掴んでるようやで?」


「くだらねぇことを言ってないで用件を言え。用件がないなら、とっとと失せろ。」
「冷たいなぁ」



言葉だけで全く堪えてない忍足が俺の前に腰をおろした。
俺は活字から目を離さないが、忍足が俺の表情を窺っていることぐらいは分かる。



「なんだ?言いたいことがあるならハッキリ言えよ。」


「そうやなぁ。跡部、ここ最近は女遊びやめたんやな、とか?」
「俺はお前ほど暇じゃないからな。つまんねぇ女に使う時間が勿体無いだけだ。」


「まぁ・・確かに忙しそうやけど、それだけか?」
「それだけだ。」


な、」



突然にの名前が出てページをめくる手が止まる。
が、直ぐに平静を装って再び活字を追い始めた。



「やっぱり元カレは山吹の亜久津やった。」
「・・・から聞いたのか?」


「まぁな。訊いたら、あっさりと教えてくれて拍子抜けしたわ。
 亜久津と青学の河村、三人は幼馴染やったらしい。
 なんせ相手はアノ亜久津やろ?幼馴染から恋人にはなってみたものの上手くいかんかったらしいな。
 付き合ってる間も次々と他のコと浮気して、見切りをつけたのはからやったらしいで?」



活字なんざ、もうとっくに追っていなかった。
同じ行ばかりの文字を繰り返し追いながら、俺は数日前の事を思い出す。





それは偶然だった。
俺と忍足、それとマネージャーのとで青学に練習試合の打ち合わせをしにいった帰り、
俺たちは駅前で見知った人物に会った。
それが亜久津だったのだが、俺は既にテニスを辞めた奴になど興味がないし無視して通り過ぎようとした。
その時だ。が「あ、」と小さく声を漏らし足を止めてしまった。


目つきの悪い長身の男が俺たちを見る。
その時に俺は何かが違うと感じた。



「久しぶり、元気?」
「ああ」


「お母さんも?」
「ああ」



亜久津は制服のポケットに手をつっこみ、の後ろに立つ俺たちを値踏みするような視線を向けてきた。
喧嘩でも売る気かと身構えてしまうほどの鋭い視線に、忍足が小さな声で「怖っ」と呟いたほどだ。



「よかった、もう随分と会ってないから。」
「フン、相変わらずだ。」



それだけ言うと強い視線を逸らしに向けた。
その途端に亜久津の目が変わった。



「元気そうだな」
「うん。」


「なら、いい。」



言葉と同時にポケットに入っていた亜久津の手が出てきて、
俺はに危害が加えられるんじゃないかと一歩踏み出していた。
だが亜久津の手はポンと軽くの頭の上で跳ね、そのまま『じゃあな』と別れの仕草に変わった。


は驚くでもなく黙って遠ざかる亜久津の背を見送っていたが、
クルッと振り返ると『お腹が空いたねぇ』といつもの笑顔を見せた。



今のは何だ?



俺の頭の中に一つの問いが浮かんで消えない。
それは勘のいい忍足も同じだったようで、後になって色々とから聞き出したのだろう。





忍足の話を聞いて思ったことは『やっぱり、な』だった。
もともと挑戦的な男だが、あんな視線を向けられる理由が俺たちにはない。
その男がに視線を移した途端、瞳に柔らかな光りを灯したように見えた。
頭を軽く叩いた仕草も普通の知り合いにするには、あまりに優しく情ある仕草だった。


普段が普段なだけに、に向けた感情があからさまに見えたのだ。





「と、言うことで、跡部の感想は?」


「既に犯人が誰か予想がついちまうところが駄作だな。」


「珍しいな、跡部が推理小説を読むの。
 けど・・・本当は早く犯人を知りたかったんやないか?そんな顔してたで?」


「別に興味はない。近くにあったから手にとって読んでみただけだ。時間潰しぐらいにはなるだろうと思って。」


「近くにいるから気になるんやろう?」


「何のことだか分からねぇな。」



探ってくる忍足との際どい会話だ。
コイツが曲者だと思うのは、こういう時。本当に嫌なヤツだ。


そこへ予鈴が鳴って忍足が重い腰を上げた。
ホッとしたところで頭元から例の女心をくすぐるとかいう低い声が落ちてくる。



「とうとう跡部も参戦するみたいやけど、負けへんでぇ。」



バーカ。



俺の悪態を軽く流して忍足は教室を出ていった。


心底、頭にくる。
まだ自分の感情に答えを出していないのに、脇から答えを教えられるものほど腹が立つものはねぇんだよ。



気になる。
気になるから視線が追ってしまう。



「跡部!」
「ああん?」


「コレさ、ついでに監督に出しといて。」
「はぁ?てめぇ、部長の俺にパシリをさせるつもりか?」


「だって監督に呼ばれてるんでしょう?ついでじゃない。」
「断わる。てめぇの仕事はてめぇでしろ。」


「何よ!この前は何でも相談しろとか、ひとりで背負いすぎるなとか言ったくせに!」
「それとこれとは別だ。それぐらいはお前がしろ。」


「言ってることと、やってることが違うよ。あの時、私・・・すご〜く感動したのに。」
「感動?」


「そうよ。跡部って優しいなって。とっても嬉しかったのに。」



胸の奥から広がってくる、むず痒いような感覚。
言葉が出ない俺を見上げてくるは屈託ない。



「人でなしだと思ってた跡部にも優しいところがあったんだなって思って。」


「てめぇ・・・俺は絶対にもって行かないからな。出すなら俺と一緒に来い!」


「ええ〜、なんでよ。ケチ!」


「僅かな労力惜しむお前の方が、よっぽどケチだ。」



フンと鼻を鳴らして背を向けた。
文句を言いながらが小走りで俺の隣に並ぶ。



むず痒さが甘ったるい感覚に変わるのが分かるから。
俺は・・・気になって仕方ないんだ。




















俺様の恋『気になるのは』 

2007.02.09



















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