最後の告白2










部活の後も更に後輩の練習に付き合っていた真田が部室に戻ってきた。
俺の隣で汗を拭い、机に広げた練習メニューを覗き込んでくる。



「お疲れ。」
「疲れてはおらん。」



この堅物め、と思うけれど長い付き合い。
誰より信頼している真田だ。



「なら疲れ知らずのお前に質問がある。」
「なんだ?」



ゴツゴツした指でノートの上にある俺の手を退けると、内容をチェックし始める真田に俺は切り出した。



「お前、付き合ってるコはいるか?」



真田は視線だけを俺に流し、直ぐにノートへ戻す。
俺は端正な真田の顔を下から見上げる。



「・・・そんな暇はない。」
「なら、好きなコはいるか?いるなら誰かも教えてくれると助かる。」


「何かの罰ゲームか?」
「似たようなものだけど、俺にとっては真面目な質問なんだ。」



鼓動が騒がしくなってきた。
真田を前にして、こんなにも緊張したことがあっただろうか。



「教える気はない。」


「いるんだ・・・」
「何故、そうなる?いても、いなくても教える気がないと言っているんだ。」


「いや。真田の性格なら、いない時は『そんなものおらん』と言うはずだ。」
「そんなものおらん。」


「今の棒読みだった。アヤシイ。」
「なら、どう言えばいいんだ?いないものは、いない!これで満足だろう?」


「満足じゃない。」



そう言って俯けば、ポンと軽く頭を叩かれた。
思わず顔を上げれば、いつもの俺を気遣う目をした真田がいる。



「今日は体が重そうだったな。体調が充分ではないのだろう?あまり無理をするな。」


「無理などしていない。」
「嘘をつけ。お前は立海の柱だ。今、倒れられては困る。」



俺は何も言い返せず、黙して立ち上がると帰り支度を始めた。
後ろで柳が「さすが弦一郎、騙されてやらないのだな。」と憎らしいことをいう。


他の部員達は気づいていないのに、真田と柳は騙せない。
続く微熱と倦怠感に精神的疲労も重なって、更に体が重くなった。



「先に帰る。」
「待て、俺が送ろう。」


「いいよ、真田。俺は女のコじゃないんだから。」
「途中で倒れられると困る。」


「そうそう倒れない。」
「この前、貧血を起こして倒れそうになっていたのは誰だ?」


「あれは立ちくらみだ。」
「幸村。俺が送ると言ったら、送るんだ。」



強く言われて、過保護な真田に逆らえなかった。
真田が着替えるのを待ち、後の事は柳に任せて部室を出る。
藍色の空に星が瞬くのを見て、自分の不甲斐なさに溜息が出た。



「そう溜息をつくな。お前は強い。」
「だが、脆い。」



慰めに切り返せば、真田が言葉に詰まる。
何か言わなくてはと言葉を捜している真田の困惑した表情が可笑しい。
俺が耐え切れず笑い出すと、真田も肩の力を抜いて苦笑した。



真田がライバル心の塊で、俺を目の仇にするような男だったら良かった。
こんなに脆い体を抱え、尚も自分の上に立とうとする俺を大事にするとは、人が好いにも程がある。



に好かれて当然の男だ。
俺だって真田のことが好きなんだから。



「俺が女だったら、絶対に真田のカノジョになる。」


「相変わらず唐突な奴だな。熱でも上がったか?」
「お前が嫌になるぐらいイイ男だからさ。」


「立海のプリンスに言われてもな。」



言いながら本気で俺の熱を測ろうとする真田の手を避けた。


仕方ないじゃないか。
こんなに好い男なんだから、俺なんか敵うはずがない。


俺は足を止めて、大きく息を吸った。
まるで高いところから飛び降りるような気持ちだ。
胃が喉にせり上がるようで苦しいったらない。早く・・・吐き出したい。



「真田、を・・・どう思う?」


?どうと言われても」
「あいつは真田が好きみたいなんだ。で、真田はどう?」



いつもより早口で、一気に言い切った。
前から近付いてくる車のライトに目を細める。
真田の顔が見られなかった。



俺たちの隣を車が通り過ぎる。
真田が俺を庇うように寄ってきて、俺は壁に引っ付いて顔を上げた。
覚悟して見上げた真田の顔は困った顔ではなかった。
あえていうなら、どう答えようか考えている顔だ。



「俺は、」
「ちょっ・・と、」待て。



こんな近くで答えを口にするな。
もし真田の気持ちもと同じだった時、笑顔で騙しきれる自信がない。
視線を逸らそうとした俺に真田が通る声で言った。



に対して特別な感情はない。」



ハッと顔を上げれば、今度は眉を歪めた真田がいた。
俺の顔をジッと見てから距離をとり、一度視線を外してから思い切った様に口を開く。



「好きな女の橋渡しを引き受けるなど、馬鹿のすることだ。」
「真田、」


「お前達は近すぎて、大事なものに気付いてないだけだ。
 だが、こんなことで心を乱されては困るぞ。これから全国なんだ。まずはテニスに集中してくれ。」



それと、体も大事にな。



真田はそう付け加えて、何もなかったように歩き始めた。
数歩先に行って俺を振り返ると「ほら、行くぞ」と手招きする。
暗闇に立ち尽くす俺は、目の奥が熱くなるような気持ちで真田の後を追った。



に頼まれた訳じゃない。
俺の意志で答えを求めた。
真田が『イエス』なら、俺は何が何でも自分の想いを殺して笑うつもりだった。


手を抜いて俺が戦うことを真田が許さないのと同じで、真田も俺に下手な情けはかけない。
お互いがお互いを気遣う事はあっても、自尊心を傷つけるようなことは絶対にしてこなかった。



俺は真田の横に並び、再び空を見上げた。
僅かの間に闇は深くなり、星の輝きが増している。



「ホッとした。もう暫くは片想いができそうだ。」
「片想いだと?たるんどるぞ、どんどん行け。ただし全国大会が終わってからだ。」


「真田の好きな人、教えてよ。俺だけ知られているのは癪に障る。」
「いないといったら、いない。今はテニスだ。」


「つまらなすぎるよ。」
「お前の作り笑いを見ていたら、恋などする気が失せるというものだ。」



憎らしい奴。
に好かれてるうえに、俺に説教か。
思いはしたが、口にしなかった。



真田が楽しそうに笑って、とにかく全国だと繰り返すから。



ウン。分かっている。
一緒に全国へ行こう、真田。



そのために俺は答えを求めようとしたのだから。
どんな結果であっても、お前と共に頂点を目指すためだったんだ。




















最後の告白 2 

2007/10/21          




















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