あのね、俺。
夢っていうか・・・憧れてたんだよねぇ。
あれあれ、二人乗り。
好きな子を自転車の後ろに乗せて土手を走る。
よく、ひと昔前の学園マンガとかにあったんだ。
いつか・・・好きな子が出来たら、俺も絶対に自転車の後ろに乗せて土手を走るんだ!って思ってた。
幸い学校の近くには土手がある。
そう。物好きな乾と海堂が川に浸かって練習してるトコ。
あとは好きな子が出来るのを待つだけだったんだ。
SA.KU.RA.N.BO 〜憧れの二人乗り〜
好きな子が・・・できた。
大石のクラスにいる、ちゃん。
とにかく、めちゃ可愛い。
栗色のサラサラ髪しててさ。
大きな瞳がキラキラしてて、睫毛も長い。
笑うとエクボが出来てね、柔らかい笑顔になる。
一目惚れ、だった。
そんな可愛い彼女と両想いなんてのになれて、もう1週間。
毎日が楽しくて、楽しくて、たまんない。
「よかった。胃薬の量が減らせるよ。」と、協力してくれた大石も喜んでくれた。
でね、今日。
俺の夢を果たすため、自転車で登校したんだ。
それも、ボロイ荷台のついた自転車を親から借りた。
おチビと桃みたいに、後ろに立つ二人乗りとは違うんだ。
彼女には後ろの荷台に横ずわりで乗ってもらって。腰に手をまわしてもらって。
うっ。考えただけでも頬が勝手に緩んでくる。
ニヤニヤしていたら、不二に「エージ、顔。鏡で見てきたら?」と笑われた。
んにゃ?そんなに怪しい顔してる?気をつけようっと。
今日は中間試験の初日。
本当は、笑っている場合ではないけれど・・・この胸のときめきは抑えられないっ。
英語の長文を目にしたときの冷や汗も抑えられなかったけどね。
今日から試験期間中は部活が無い。
だから、ちゃんと一緒に帰ることが出来る!
英語の長文の意味はサッパリでも、彼女との幸せな時間を考えたら耐えられるもんね。
落ち着かない気持ちのまま試験初日終了。
急いで荷物を片付けて、ちゃんの待つ教室に直行する。
勢い込んで行きなれている教室に飛び込むと、大石とちゃんが話していた。
「英二君!」
俺に気づいたちゃんの第一声。ふにゃあ〜って、なっちゃうよ。
「お待たせ♪」
「エージ。こっちも、さっき終わったんだよ。英語は、どうだった?」
「俺、大石に話してないもんねぇ。俺のいないところで、とあんまり仲良くしないでくれる?」
「あのねぇ。仲良くって・・・困った奴だな。ね、さん?」
大石にふられたちゃんが、困ったみたいにクスクス笑う。
はにかんだ笑い方が可愛くて、なんか大石に見られるのヤダ。
「とにかく帰ろ!大石は、手塚と帰ってね」
「はいはい、帰ればいいんだろ。じゃあ、また明日ね。さん、エージのお守り・・・お願いします。」
「なんだよっ、お守りって。デートなの、デート!」
苦笑しながら大石は教室を出て行く。
むぅと頬を膨らませる俺を見て、やっぱりちゃんは可愛らしく笑ってた。
そして、念願の二人乗りをお願いする瞬間が。
「ジャジャジャジャーン!今日は自転車で帰ろう!」
ちゃんの目が丸くなってる。
「いや、あの、ちょっと錆びてて年代モノの自転車だけどさ。ちゃんと動くから平気だよ。」
「英二君、これって・・・まさか私、」
ちゃんが恐る恐るって感じで後ろの荷台を指差す。
もちろんっと元気良く頷けば、とっても複雑そうな顔をして俯く彼女。
「ひょっとして・・・嫌?」
「嫌じゃ、ないけど。あの・・・私、重いし」
「へ?重いって。まさか、体重のこと?そんなこと気にするんだ、カッワイイ!」
「ほ、本当に重いの。英二君、こげないかも。」
「平気だって。あのねぇ、俺だって鍛えてるし。第一、ちゃんなんか軽いっしょ?」
「軽くない、と思う。」
少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
女の子の中では背が高いほうだろうけど、その華奢な体が重いとは、とても考えられない。
とっておきの菊丸スマイルをかまし、さっさと自転車にまたがると「ほらっ、乗って」と躊躇う彼女を誘った。
「本当に重いからね。辛かったら、すぐ降りるから。ねっ。」
念押しする彼女が可笑しくて。
とにもかくにもルール違反だから、さっさと人目につかないよう逃げなくちゃ。
鬼の部長にでも見つかったら何週走らされるか分かったもんじゃない。
他のメンバーには見せびらかしたい気持ちもあったけど、今日のところは逃げちゃおう。
「ちゃん。はじめは飛ばすからさ、俺の腰のあたり・・・つかまっててね。」
「え・・・」
「え、じゃなくて、危ないからさっ。気づいたらが落っこちてたら嫌だし。」
「う・・ん、分かった。」
小さな声が聞こえてきて、おずおずと回されてきた細い指が俺のシャツを少しつまむ。
うわぁ。前を向いててヨカッタ。今、一瞬で血液が顔に集まってきちゃったよ。
ドキドキがにまで聞こえそう。ヤバッ。
とにかく、早くスタートしよう。
風が吹けば、俺のドキドキなんて聞こえないよね?
それっと、踏み込んだペダル。
はじめの1メートルぐらいフラッとしただけで、すぐに小気味良く走り出す自転車。
の重みは心地よくて、確かに彼女を乗せて走っているんだと嬉しくなった。
おっ。桃とおチビだ!自慢してやろっと。
「どいて〜!」
「うわっ、エージ先輩!」
「うぃーす。」
わざわざ二人の間を走り抜けてやった。
が後ろで「ゴメンナサイ!」と二人に謝っているのも嬉しい。
ああ、嬉しい。嬉しい。
好きな彼女と二人乗り!
俺たちは風に乗って、土手に向かった。
前を向いたままでの顔を見られないのが残念だけど。
後ろから聞こえてくる彼女の声が耳をくすぐる。
「英二君、ほら。黄色い花が沢山咲いてるの。何かなぁ?」
「水面が鏡みたいに輝いてるね。」
「空が高い。気持ちいい。」
流れる景色を見ながら、は目についたことを口にしているらしい。
ウン。そうだね、って。俺もが見つけた景色を目で追っていく。
の目を通して見る世界は、とっても綺麗だった。
土手は真っ直ぐ続く。
風は穏やか。
草も流れて、柔らかく揺れて俺たちを見送ってくれる。
お日様は二人を包んで。
空を飛ぶ小鳥が、からかうように頭上を掠めていく。
は笑って。俺も笑って。
二人の笑い声が重なって、風に溶けていく。
「ねぇ、。」
「なぁに?」
「俺、大好きだから!」
耳元で唸る風に負けない声で告げた。
の小さな「うん」
その後に・・・背中に感じた柔らかな温もり。
「ちょっ、ちゃん?」俺の背中に凭れかかってる?それ、嬉しすぎるんだけど!
あまりの感激に思わずハンドル操作を誤って、ぐらぐらとバランスが崩れてしまった。
一瞬のうちに自転車は制御不能の事態に。
「うわっ」
「きゃっ」
俺らの声が重なって、派手な音と一緒に自転車はひっくり返る。
「!大丈夫っ?」
「英二君!怪我は?」
芝だらけの体を起こし、真っ先に相手を呼んだ自分達がいた。
「ダイジョーブ。左の手のひらを擦っただけ。」
「良かった。英二君が怪我したら・・・テニスが出来なくなるから。ゴメンね・・・あの・・驚かせちゃって。」
「ぜーんぜん、いいって。こっちこそ、メンゴ。あんま嬉しくって、こけちった。ちゃんは、痛くない?」
「うん。ちょっと、膝を打っただけ。」
ひっくり返った自転車は俺らを置いて、土手の真ん中まで滑り落ちている。
ちょっとカゴがひしゃげている様だけど、もともとボロイから親も気づかないだろう。
二人で顔を見合わせて徐々に湧いてくる笑い。
「あれ引き上げるの大変だし、もちょっと座ってよっか。そのうち、桃たちが通るだろうから手伝わせよう。」
「いいの?そんな、」
「いいの、いいの。いつも、可愛がってやってるもんね。」
それから二人。
予想どうりに通りがかった桃たちを見つけるまで、土手に並んで救援を待ちながら甘い時間を過ごした。
憧れの二人乗りは。
擦り傷打ち身、自転車破損つきの、幸せな思い出になった。
「SA.KU.RA.N.BO〜憧れの二人乗り」
2005.10.18
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