SA.KU.RA.N.BO 〜大好き!〜










私の大好きな人は、学校の有名人。
ルックスも目立つし、人懐っこくて誰にでも好かれる。


加えて彼は全国区のテニスプレイヤーだ。
大石君とふたり。青学のゴールデンペアと呼ばれている。


青学は、全国でも有名なテニスの強豪校だ。
その中にあってレギュラーを維持していく実力は凄いのだと、誰もが口にした。


そんなに凄い人を好きになって。
目立たず何のとりえもない私は告白する勇気も無くて、ただ見つめていただけ。


友達みたいに声をかけてもらえるだけで泣きそうなほど嬉しかったのに。


まさか、彼が私を見ていたなんて。
彼と両想いになるなんて。



なんだか夢を見てるみたいなの。





今日もテニスコート脇のフェンスは人だかり。
お目当ての人を応援に来た女の子達の声が響いている。



『ねっ、。一緒に帰りたいから待ってて。
 今日はさ、校内ランキング戦だからさっ。勝てば帰れるんだっ!
 速攻で勝つからさ。終わったら、アイスクリーム食べて帰ろ?』



大石君を誘いに来た英二君がニコニコしながら誘ってくれた。
まだ慣れなくて、ドギマギしながら頷く私の髪をくしゃっと英二君が撫でてくれる。
あっという間に顔が赤くなってきて、英二君が見れなくなっちゃった。


そんな私に『って。めっちゃ、可愛い♪』って屈託なく笑う英二君。


ね?これって、やっぱり夢じゃないかなって。思わず考えてしまうほど幸せ。



『コラッ、エージ。舐めてかかると足元をすくわれるぞ。
 俺のパートナーはエージだけなんだから、レギュラー落ちはするなよ。』


『分かってるって。心配しなくても大石を一人にはしないにゃあ♪』


『頼むぞ?さっ、行こう。またね、さん。』



爽やかな笑顔を浮かべて、大石君が英二君を引っ張っていく。



〜!待ってて〜!あと、応援ヨロシクねぇ!』



英二君は楽しそうに手を振りながら教室を出て行った。
私も笑顔で手を振って・・・。


なのに、ふたりの姿が教室から消えると溜息が出た。
テニスコートに行くのって・・・苦手。


頭の中に浮かんだ気持ちは、ぐっと飲み込んで。
借りていた本を返しに図書室に向かった。





今日じゃなくても良かったのに、だらだらと図書室で時間を潰して。
それでも『応援ヨロシクねぇ!』と言った英二君の言葉を無視できずに足はコートに向かう。



「きゃああああ!エージく〜ん!」



黄色い声援が飛びかう中で、英二君がスマッシュをコーナーに決めた。
試合終了。
一段と大きくなる声援の中、相手選手と握手した英二君がギャラリーに向かって手を上げる。
わっと女の子達の声が上がって、私は圧倒されていた。



とてもじゃないけど近づけない。
英二君は、輝いてて眩しいほど。



いつしか私の足はコートから離れていき、
いつも待ち合わせする昇降口に辿り着いた後は、ずるずると壁に背を預けて座り込んでしまった。



自信なんてないの。
なんで私なんだろう?綺麗な人も、可愛い人も、他に沢山いるのに。
なぜ私みたいな平凡な女の子を『好き』だと言えるの?


自分が惨めで涙が滲んできた。
こんな顔、英二君には見せられないし、今は会いたくない。
用事が出来たことにして先に帰ってしまおう。
英二君にメールを打って、昇降口を後にする。



臆病な私は、今の状況から逃げ出すことを選んだ。





夕日を背中にして、自分の影を踏みながら歩く。
歩きながら浮かんでくるのは後悔。


本当に逃げてきてよかったの?
英二君が好きなのに。
もしも英二君が他の人を好きになったら、胸の痛みはこんなものじゃないはず。



好きだよ!


大好きだよ!






英二君の笑顔が浮かんできた。


いくつも、いくつも。
あの優しい、私だけに見せてくれる笑顔が浮かんでくる。



ダメ。逃げちゃダメ。
だって、私だって英二君が大好きだもの!



思って踵を返す。
今から会えるかは分からないけれど、私より先に帰っていることはないだろう。



歩きながら携帯を取り出して、英二君のアドレスを呼び出したところで電話が鳴った。
ディスプレイに浮かぶ『菊丸英二』の文字に慌てて出ると、


「みーつけた」と声が二重に聞こえた。


前の曲がり角を出てきた英二君が携帯を耳に当てた姿で、真っ直ぐ私を見据えていた。



『なんで先に帰ったの?用事・・・って、嘘でショ。』


『どうして?』


が最後の試合に来てるの気づいてたんだよ。なのに俺の目も見ずに行ったじゃん。』



英二君は立ち止まり、視線はそのままに携帯で話しかけてくる。
私と彼の距離は5メートルほど。なのに近づけない。



『どうしてって、俺が聞いてもいい?どうしては泣いてるの?俺、なんかした?』


『違う・・・よ。英二君は悪くないの。私が・・・自信なくて。』


『自信?何の』


『英二君の傍にいていいのか・・・自信がなくて』



携帯を耳に当てたまま、英二君は私から視線を外すと横を向いて目を伏せた。
軽く息を吐いてから、再び私と視線を合わせてきた目は、怒っていた。



『それ、本気で言ってるの?俺、怒るよ。俺の気持ち、いっぱいに伝えたよね。
 まだ、足りない?信じられない?
 俺の傍にいる自信って、なんだよ?そんなことっ、何で考えるんだよっ!』



耳に響く英二君の声は、悲痛な音で私の心を突き刺した。
睨みつけるようにして立っている英二君を見てたら、また涙が滲んでくる。



いっぱい好きって言ってくれたのに。
あんなに優しく触れてくれたのに。
こんなに近くにいるのに。目の前にいるのに。



心が・・・届かないなんて嫌だ。



私は携帯を耳から下ろし、息を吸う。
そして、5メートル先に立つ英二君に向かって頭を下げると、思いっきり声を出した。



「ごめんなさい!英二君の気持ち、分かっててっ。なのに臆病で・・ごめんなさい。
 ごめん・・・ごめんね、英二君。」



涙を拭って顔をあげようとした。
まだ、言わなくてはいけない言葉がある。
好きなの、って。英二君の隣にいても恥ずかしくない私になるからって。



「私、英二君のこと・・・すっ!」



顔をあげれば、目の前は黒一色だった。
光る金ボタンが一瞬で頬に押し付けられ、さらっとした布の感触に力強く包まれていた。



「ごめんね、。俺こそ、そんなの気持ちに気づいてなかった。
 でもね、。自信なら、もう・・・めっちゃくちゃ持っていいんだ。
 だってさ、俺。にぞっこんなんだもん。寝ても覚めても、のことばっか考えてる。

 俺が好きなんだからさ。ね、お願いだから。俺から離れていかないでよ」



言葉なんて出なくって、うんうんと頷いたら、ぎゅっと強く抱きしめられた。



英二君の長い指が頬を撫でてきて顔をあげたら、大きな瞳がすぐ傍にあった。
あまりに真剣で綺麗な瞳だから近付いてくる輝きが眩しくて、自然と私は目を閉じた。



そっと触れて離れていく唇の感触。
私たちのファーストキス。



また、ぎゅっと強く抱きしめられて英二君の胸に縋ったら、
制服越しの鼓動が私と同じくらい速いのが分かった。



大丈夫。もう、迷わないよ。
英二君を信じて。私の気持ちも大事にする。



いつもは恥ずかしくて、なかなか口にできないけど。
ちゃんと伝えることが、どんなに大切なのか分かったから。



「えい・・じくん、大好き」



顔を英二君の胸に埋めたまま、なんとか口にした。



「うん。俺も大好き!」



あっさりと、躊躇いもなく返される言葉。



それと、一緒に。



再び、優しいキスが落ちてきた。




















「SA.KU.RA.N.BO〜大好き!〜」  

2005.06.06  

今回の大石君は安泰でした。




















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