真田家の嫁 『嫁の楽しみ』











真田は小学校の教師だ。
彼がこの職業を選択した時、周囲の反応はそれはもう凄かった。



その一・幸村


『何を血迷ったんだ!?さては、お前ロリコンだったんだな?
 駄目だ。それは犯罪だから諦めろ。俺は友が犯罪を犯すと分かっていて止めないような人間じゃないぞ』


そう言って、真田の肩を掴み激しく揺さぶった。





その二・丸井


『え〜、マジで?ありえねぇだろい、それ
 せめてお堅い高校教師だな。日本史とか教えてさ。それで生徒指導担当だろ
 生意気な生徒にさ「たるんどるが来た〜」とかって呼ばれて逃げられるの。ケッサクじゃね?』


そう言って、丸井はげらげらと笑った。





その三・柳生


『ああ、教師ですか。ええ、真田君にぴったりだと思いますよ?
 え・・・小学校?中学でも高校でもなく、小学校ですか?
 ああ・・・そうですか。いや、別に不向きとかそんなことは思っていませんよ
 なんていうか、意外だったので。そうですか。真田君が小学校の先生に・・・』


そう言って、感慨深げに何度も頷いた。





その四・仁王


まずは、ひとしきり笑う。


『真田せんせい、まずは笑顔の練習じゃな』


そう言って、また暫く笑った。             





その五・ジャッカル


『え・・・(暫し言葉が探せず視線をさまよわせる)
 いや、ウン。よく考えると真田に合っている気がしないでもないような気がしてきた
 そ、そうだよな。小学校の先生だ。ウン。小学校にはウサギがいるよな』


もはや自分が何を言っているのかも分かっていない状態のジャッカル。
頭からは滝のような汗が流れていた。





その六・赤也


『ええっ!!マジっスか?それ、無理っしょ?子供が怯えて登校拒否になりますよ?
 だいたい何を思って小学校なんスか?ひょっとして、アレっスか?
 こう・・わざわざ自分を追い込むっていうか、修行?人生に対する挑戦っスか?
 にしても未来を担う子供への悪影響は計り知れないっていうか、考え直した方が』


そう言った途端、真田に鉄拳を食らった。





その七・柳


『・・・・・・・・・・』


何も言わず、静かに笑っていた(しかし暫く瞬きをしていたなかったらしい)。





そんなこんなであったが、真田は小学校の先生になった。
幸い彼が受け持ったクラスで不登校になった子供はいないし、真田の夢を見て夜泣きをしたという報告も受けていない。
保護者からはベテランの先生だと誤解されるほど老けていたし、堂々としているので心配もされない。
それどころか真田は子供たちにも人気があった。


真田の教育方針は、いたってシンプル。
良いことをすれば褒めるし、悪いことをすれば叱る。


良いことをした時、真田はあの大きな手で子供の頭を撫でる。
褒める真田は力加減をしないので、小さな子供たちの頭は取れてしまいそうなほど前後左右に揺れる。
それが子供たちは面白くて、競って真田に褒められようとした。
なので真田のクラスの子供たちは、どの子も放課後には頭が鳥の巣になっていると有名だ。


悪いことをした時、真田はあの大きな声で真剣に怒る。
真田が南校舎で怒鳴ると北校舎の生徒までが飛び上ると伝説があるほどだ。
校庭なんぞで悪ふざけをしていると、突然に職員室の窓から真田が現れて怒鳴られる。
その怒鳴り声は校庭のみならず、一キロ先の中学にまで聞こえたと卒業生の証言があるほどだ。


だが真田はいつも真面目で、どの子も平等に扱った。
成績のいい子も悪い子も、おとなしい子も元気過ぎる子も、
すべてに同じだけの愛情を持って子供を褒め、叱った。


子供は嘘に敏感だ。
そうは笑顔を見せない真田。
だからこそ真田が微笑んで頭を撫でてくれる時は、とても嬉しい。
褒める時も叱る時も、常に嘘のない真田を子供たちは慕った。





今日も今日とて真田のまわりには元気な子供たちが集まっている。
昼休みは校庭で子供たちと遊ぶことを日課にしている真田には
低学年から高学年まで境なく、子供たちが相手をしてもらおうと群がってくるのだった。





「よし、いくぞ。そ〜れ、一、ニ、三」



せがまれた真田が大縄をまわし始めると、わらわらと集まってきた子供たちが次々と跳び始める。
甲高い声が響き、胸をドキドキさせながら順番を待つ子供たち。
真田は眩しそうに瞳を細め、子供たちの笑顔を見つめる。


ひとりの子が縄に足をひっかけて転んでしまった。
すぐに駆け寄った真田は、土の上に膝をつき子供の怪我を確認する。



「大丈夫か?」
「痛てぇ。けど、へーき」


「そうか。えらいぞ」



笑顔を見せる男の子の頭を真田の大きな手がグリグリと撫でる。
そこへ後ろから隙を窺っていた子供が背中に抱きついてきた。



「むっ」



前のめりになるのを鍛えた腹筋で支えた真田の背に次々と子供たちが乗っかってくる。
あっという間に数人の子供を背中に乗せる羽目になった真田だが表情を変えずに立ちあがった。
本当は首を絞められ呼吸困難になりそうだし、子供とはいえ重くて手足がプルプルしている。


しかし真田は耐える。
子供たちに弱いところは見せらない。なにより子供たちが喜んでいるから。


ひときわ大きな歓声が上がる。
首やら腕に子供をぶらさげて仁王立ちになる真田の姿は、まるで無表情の大魔神か巨大ロボットだ。
子供たちは更に面白がって真田を目指す。木登りよろしく先を競って真田によじ登るのだ。
真田はアッという間に子供たちに揉みくちゃにされてしまった。





校庭を取り囲むフェンスの向こう。
微笑ましい光景を眺めている和服姿の女性がいた。
手にした袋からはネギと大根が覗いている。


買い物帰りのは、夫の姿が見たくて遠回りをしてきた。
お天気さえ良ければ昼休みの校庭には必ず夫の姿がある。



「ふふ。弦一郎様、楽しそう」



は夫に見つからないよう電信柱の陰に隠れて、眺めるのだ。


本当はほんの少し自分に気付いてほしいと思うこともある。
けれど仕事の邪魔になるし、ずっと先生の顔をしている夫を観察していたい気もする。


子供の重さに耐えきれなかった真田が尻もちをついた。



「危ないっ」



思わず声をあげてしまったが自分の口元を押さえた。
パッと散らばった子供たち。真田は自分のことよりも先に子供たちの無事を確かめる。
子供たちは尻もちをついたのさえ面白いらしく、一層大きな声で笑いだした。
最後に真田が立ち上がり、子供たちの頭を撫でてから自分のジャージについた土を払う。


その時、昼休みの終わりを知らせる鐘が鳴った。



「教室に戻るんだ」



通る声で真田が校庭の子供たちに声をかける。
すると可愛い子供たちは元気な靴音をたてながら校舎に向かって駆けていった。
誰にも怪我がなさそうなことにホッと胸をなでおろしたは、子供たちと共に校舎へ戻る夫の背中に小さく呟いた。



「あなた、頑張ってくださいね」



すると真田の足が止まった。
声など聞こえるはずもないし、自分は身を隠している。
それでもは自分の鼓動が速くなるのを感じた。



ゆっくりと真田が振り返る。
そして、の立つ方向を見つめてきた。
思わず身を小さくして更に隠れただったが、それは一瞬のこと。
真田は直ぐに前を向くと駆け足で校舎に戻っていった。



は電信柱に背を預け、青空を見上げると息を吐いた。



「驚いた」



でも、とても嬉しい。
頬が熱い。きっと赤くなっている。


は火照る頬をおさえながら、買い物袋を手に歩き出した。





嫁の秘かな楽しみ。
それは働く夫を遠目から見ることだった。




















真田家の嫁4 『嫁の楽しみ』  

2009/04/17




















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