幸せな時間は長く続かないだろう。
だからこそ。
一分一秒を大切にしよう。
Secret of my heart 〜優しい時間〜
呼び出し音が部屋に響く。
予感を感じながらインターフォンに出れば・・・当たった。
笑いをかみ殺しながら玄関に出て行く。
鍵を開けた途端、外側から無遠慮に開くドア。
「腹へった。何か食わせてくれ。」
開口一番。そのまま、自分の家にでも帰ってきたみたいに靴を脱ぎあがってくる。
「家の方は?」
「使用人以外誰もいやしねぇよ。俺が帰らねぇのなんか、いつものこった。」
淡々と語りながらリビングに入ると、ドッかとソファに腰を下ろした。
さっさと制服のネクタイを緩め、ブレザーをそこら辺に放り投げる。
寂しい子。だから・・・私に惹かれたのだろうか?
そんなことを思いながら、彼のブレザーが皺にならないようにハンガーにかけていた。
後ろに気配を感じて振り向こうとしたら、背中から抱きしめられた。
ふんわりと抱きしめて。
髪に、耳元に、首筋に唇を押し当ててくる。
甘えてるのが、可愛い。
私の想いも・・・母性に近いのかしらね?
微笑みながら体を反転させて、彼の柔らかな髪を撫でてあげた。
抱き合って。
お互いを愛情込めて撫でて。
唇を寄せて。
なんて・・・優しい。
「オムライスかよっ。小学生じゃねぇぞ。」
「だって。一人暮らしの家に、そんな余分な食材があるわけないでしょ? いいのよ。嫌なら食べなくたって。」
「・・・食えばいいんだろ。」
クスクス笑って、高校生らしい食べっぷりの彼を見つめる。
口のききかたはなってないけど、食べ方とか、ちょっとした仕草から。きちんと躾された彼の家庭環境がうかがえる。
日本でも有数のグループ企業の家に生まれたのだ。彼には華々しい未来が待っている。
だが、忙しい両親の元で育ち、寂しい思いもしていきたのだろう。
彼が甘えてくるたび。その胸の孤独を思うと切なくなる。
食事が終わって一息ついても、帰る気配がない彼。
ソファに座る私の膝に頭を載せ、呑気に小説を読んでいる。
彼の髪を指で梳きながら時計ばかり気にしている私。
「ねぇ、そろそろ帰らないと。」
「まだ、いい。」
「良くないでしょ?」
本から私に視線を寄こすと、嫌そうに起き上がった。
いい子ね。と、私も立ち上がろうとしたら。本をリビングテーブルに放り投げた彼の手が、私の肩を掴む。
あ・・・と思ったときには、体が倒されて天井と彼の顔しか見えなくなっていた。
「・・・駄目よ。」
「嫌だ。」
「困らせないで。」
「困らなければいい。黙って俺を受け入れろよ。」
「駄目。」
「駄目・・・って言葉。俺は嫌いだ。」
それ以上の言葉は塞がれて言えなかった。
自分の優柔不断さが情けない。
大人のつもりが何の自制も出来ない・・・ひとりの女。
それでもね、心のどこか。恋をする女の自分を愛しくも思うの。
恋をする真っ直ぐなあなたと同じぐらい愛しく思う。
あなたと過ごす時間は。
残酷なほどに、優しくて。
とどめたい・・・と思うほど。手の中の幸せは零れ落ちていく。
優しい時間を愛す。
あなたの短い青春のひとコマに。
この時間が美しく残りますように。
心から願って。
戻る テニプリ連載TOPへ 次へ