Secret of my heart 〜真実〜
「先生は、この後どうされるんですか?」
「アメリカの方に発ちます。」
「え?留学ですか?」
「いえ・・・実は」
臨時教員の契約が切れる頃。校長と交わした会話。
私は校長にも嘘をついた。
それは、彼についた嘘を真実にするために。
私の中には秘密の真実があった。
これこそ、誰にも言えない真実。
気づいたのは10日ほど前。
当たり前といえば当たり前のこと。自然の理だ。
どこかで解っていたような気もする。
こうなるかもしれない・・・ということ。
途惑いはあった。迷わなかったといえば嘘になる。
だけど・・・嬉しかったのだ。
嬉しくて。私は答えをひとつしか出せなかった。
アメリカに発つ。それは嘘ではない。しかし、結婚相手などいない。
私は・・・誰も知らない所で。
愛した人の命を産むのだ。
全校集会。
壇上に立ち、可愛い生徒達を見下ろす。
女子テニの部員達が目元をハンカチで押さえているのを見て、私も胸がいっぱいになる。
半年前。私は緊張しながら同じ壇上に立っていた。
興味津々の生徒達を見下ろしながら、短い期間でも頑張ろう・・・と心を奮い立たせていた。
その短い半年に。
私の一生を左右するような出会いがあるとも知らずに。
校長が挨拶をし始めた。
目は自然と彼のクラスにいく。
後ろの方・・・彼らしき姿を見つけ、また泣きたくなった。
「えー、聞くところによると。先生は、この後アメリカに発って、ご結婚の予定だそうです。」
一瞬でホール内にざわめきが広がった。
涙が滲む。私は俯いた。
「まあまあ、先生。恥ずかしがらなくても・・・おめでたいことですから。」
校長は、俯いた私が照れていると取ったらしい。
違う。私は悲しくて・・・泣いてしまいそうだった。
彼は、どんな思いで聞いているだろう。
どんな顔をしているだろう。
それでも、事は計画通りに進んだのだ。
これで。
『嘘』は『真実』として伝えられた。
この後、私も挨拶したのだけど、なにを話したのかよく覚えていない。
すべてが終わって生徒達がホールを出て行くとき、ほんの少し見えた彼の横顔。
それが、彼を見た最後だった。
送別会をという誘いも断わって、すぐにアメリカに発つ準備を始めた。
一分でも早く彼から離れないと・・・という強迫観念にも似た思いで片付けた。
幸いアメリカには国際結婚した友人がいる。
彼女を頼って、ロスに行く予定だ。
両親には、勉強のための留学だと嘘をついた。
いずれは知れることだが、私の我儘を通すには時間が必要だった。
どれもこれも、私の勝手。
ねぇ、ゴメンナサイ。
こんなママだけど。絶対、絶対・・・守ってあげる。
あなたは私が愛した人の命だから。
いっぱいいっぱい愛してあげる。
パパはあげられないけれど。
幸せを・・・たくさんあげるね。
携帯を解約し、成田に向かう。
それは、学校で挨拶した翌日だった。
あのホテルで別れを告げてから・・・一度も声を聞かなかった。
でも、大丈夫。
心の中。再生すれば、何時でも声が聞けるから。
空港に降り立ち、空を見上げた。
真っ青な空。
いい天気。旅立ちに相応しい美しさだ。
景吾。さようなら。
景吾。愛してる。
これだけは、本当の真実。
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