ある時期。燃えるような恋をした。
あれは・・・生涯に一度の恋だったんじゃないかと思う。
子供だった。だが、本気だった。
彼女を失ってから、誰にも本気になれない。
誰といても。何をしていても。心がついていかない。
一度知ってしまった、激しい想い。
彼女と比べては。やっぱり違う・・・と思ってしまう。
もう、すべて過去のことなのに。
Secret of my heart 〜過去の人〜
大学を卒業して一年。
今のところ、仕事は順調だ。
大学生の頃から社内には出入りしていたし、跡部グループの会社だ。
どうということはない。
ただ忙しい。それだけだ。
高校の同窓会案内が来たのは3ヶ月前。
幹事が忍足だったのもあって顔を出した。
すぐに帰るつもりで行ったのに、抜け目のない忍足にがっちりキープされて席が立てない。
ワイワイと騒がしい店内で、それぞれの近況やら噂話で盛り上がる。
馬鹿馬鹿しい・・・と思いながら水割りをあおって、聞くともなしに話を聞いていた。
「そうそう。3年の時に、半年ぐらい来てた先生いたじゃない?先生。」
「ああ。おった、おった。綺麗な先生やったもんっ!忘れるもんかっ」
「先生さ、アメリカ行って結婚するとか言ってたじゃない?」
「ああ、校長が最後に言うてたなぁ。」
「先生、結婚なんてしてないんだって。翌年には日本に帰ってきててさ。
これは・・・本当かどうか分からないけど、赤ちゃん生んで帰ってきたって。」
手に持っていたグラスをテーブルに置いた。
手が・・・震えていたかもしれない。
「おい。その話・・・ちゃんと聞かせてくれ。」
俺の声に。そのテーブルにいた奴らが俺の顔を見た。
聡い忍足だ。
何か感じたのだろう。奴が上手いこと聞きだしてくれた。
彼女の従姉妹はと同級生だった。
高校を卒業後も行き来をする仲だった。
その従姉妹がのことを洩らしたらしい。
彼女は結婚などしていない。
子供を産むためにアメリカに渡り・・・一年後に帰国した。
小さな子供と共に。
「どうして結婚しなかったんだろうね。振られちゃったのかな?」
「相手がさ、産めないような相手だったのかもよ?」
「えー?先生、そんな感じには見えなかったけど・・・」
そのまま噂話になっていく中。俺はジッとしていられなくて席を立った。
ドアを出ようとしたところで、忍足に後ろから腕をつかまれた。
「待てって。」
「なんだ?俺は急いでるんだ。」
「やっぱり・・・あの先生となんかあったんやな。子供は・・・お前の?」
「分からねぇっ。だから、探すんだよっ。」
「アホっ。闇雲に探すより、あの子の従姉妹に聞いたほうが早いんやないか?
ひょっとしたら居場所も知ってるかもしれんで?」
「・・・・・・。」
「任せとき。俺が電話番号を聞きだしてくる。」
忍足は俺の肩をポンポンと叩いて背を向けた。
店の前に出て、煙草に火をつける。
いつの間にか小雨が降っていた。賑やかなネオンが雨にくもっている。
車が通るたび聞こえてくるタイヤが弾く水の音。
白い煙を吐き出しながら、彼女のことを想う。
綺麗な人だった。
あれは一目惚れ。欲しくて、欲しくて。
どんな手を使ってもでも、彼女を自分のものにしたかった。
賭けをして、手加減なしで自分のものにした。
心も体も・・・未来もすべて、貪欲に欲した。
だが、どんなに求めても。
彼女の口から、俺に対する愛情は語られなかった。
でも、俺には伝わっていたんだ。
俺が眠っているとき、そっと触れる彼女の優しい指。
慈しむように髪を撫でて、口づけをしてくれた。
共に過ごした後。
俺がマンションの玄関を出るときは、きまって泣きそうな笑顔を浮かべていた。
愛されているのだと・・・信じていた。
彼女は教師。俺は生徒。彼女が年上。俺が年下。
たったそれだけのことに、彼女がこだわっていることを知っていた。
だから彼女は素直になれない。
あと少しだけ我慢すれば。とりあえず、俺の教師ではなくなる。
そうなれば・・・と考えていた矢先、突然の別れを告げられた。
『跡部君。もう遊びは終わりよ。私、結婚するの。』
彼女の言葉を頭から信じたわけじゃなかったんだ。
ただ、無性に腹立たしくて彼女をホテルに残して帰ってしまった。
その後の校長の挨拶に・・・俺は愕然とした。本当だったのだと、思ってしまったんだ。
でも納得できなくて。
二日後に彼女のマンションに出向いたら、そこはもぬけの殻だった。
携帯も何も・・・通じはしない。
実家まで調べたが、アメリカに発った事しか教えてもらえなかった。
彼女が俺の前から消えて・・・もう五年以上が過ぎた。
ふっと笑顔がこぼれる。
人を愛することは。誰にも、自分にさえも止められない。
確かに熱は失っていくが、そのぶん想いは深くなる。
過去の人だって?
いいや、違う。は過去の人間じゃない。
今でも・・・愛しているのだから。
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