ただ、愛しい。3 『繋がり』












ザルだと思ったのに、先に潰れたのはだった。
もっと酒を出せと俺に命令し、俺が台所に行ってチューハイを手に戻った時には寝ていた。
それも無防備に床に転がってだ。


俺も相当飲んでいた。
なんでを自分の家に連れてきたのか、そこらへんが曖昧なほど。
下心はなかったと思うんだが、どうだろう。


とにかくお互いがふらつきながらタクシーを拾った。
二駅ぐらいなら両方を回って貰えばいいと同じタクシーに乗って、先に俺のところに着いた。
そこで何故かの腕を引いてしまった。


きっと楽しくて放したくなかったんだと思う。



「おーい、。先に寝るなよ。」



頭もとにしゃがみ込んで声をかけてみたが反応はない。
悪戯心で冷たいチューハイの缶を頬につけたら、彼女の長い睫毛が震えて僅かに唇が開いた。



しなきゃよかった。



その時に思った。
アルコールで鈍ってる頭に、の無防備な寝顔は危うすぎる。
唇に引き寄せられそうになる自分を叱咤し、拍動するこめかみを押さえて頭を振った。


女ナシで一年以上たっているせいだ、きっと。
いくらなんでも久しぶりに会った女友達を襲ったらケダモノすぎる。


結論は『とにかく俺も寝よう』に至った。


いま思えば毛布の一枚でもかけてやれば良かったのだが、
俺はとにかく暴れだしそうな自分の中の男を封じ込めることに気を取られていた。
目を硬く閉じ、呪文のように『寝るんだ』と言い聞かせて寝る。
それも何故か彼女の近くで。


離れて寝れば、もう少し楽だったと思うんだが・・・本当に酒って恐ろしい。





修行のように寝たはずが、熟睡していた。
目覚ましの音に飛び起きて、テーブルに足をぶつけて暫し苦しむ。
その痛みの中でも探したの姿は、もうなかった。


ガッカリしてしまう気持ちに嘘はつけなくて、俺はぶつけた足と同様に痛む頭を押さえて溜息をつく。
そこで自分の体にかけられている毛布に気付いた。
辺りを見回せば散らかし放題だった缶も片付けられて綺麗になっている。


女性らしい気遣いに感心しつつテーブルに視線を落とせば、倒した目覚ましの下に紙があった。



って、こんな文字を書いていただろうか。
細く繊細な文字が美しい形で並んでいる。


飲み過ぎて泊まってしまったことと散らかして帰ることに対する謝罪。
鍵はポストに入れておくということ。
最後に俺に会えて嬉しかったと書かれていた。


だが、それだけ。
思わず紙の裏まで見てみたが何も書かれていない。


無意識の行動に何を探しているんだと考えて、それが『次』に関わる何かだと気付く。
何も残していかなかったに落胆しかかった時、目覚まし時計の下にもう一つ小さな紙があるのを見つけた。



「名刺?」



それは出版社の名前が入ったの名刺。
会社の電話番号と共に印刷された彼女の携帯番号に、フッと笑みが零れた。



マンションの鍵を閉め、いつもの習慣でエレベーターではなく階段を下りる。
足もとに気をつけながら操作する携帯電話。


携帯を耳にあて呼び出し音を数えつつ、エントランスから道路に出た。
左右を確認し広い道路を斜めに渡り始めた時、規則的な音が途切れる。



『はい、です。』


「もしもし、俺・・乾。」
『乾?』



実は少し緊張していた。
けれどの声を聞いて安心する。



「おはよう。もう会社?」
『ううん、今さっき出たところ。』


「俺も。」



車が迫って来るのに慌てて道路を渡り切る。
そして駅に向かって続く真っ直ぐな道の上に広がる青空を見上げた。



「俺の番号、登録しておいてくれよ。」
『了解。』



が笑いながら返事する。



「それと」
『うん?』


「今度、いつ会おうか?」




同じ空の下、今・・・君と繋がっているのは嬉しいことかもしれない。
俺は、そう思う。




















ただ、愛しい。『繋がり』 

2008/02/29




















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