高嶺の花 2










「と、いうことで。は僕のものだから節度を持って接してね。
 特に、ブンタ!あと仁王もね。お触りは、ナシ。ムカつくから。」



小さくなる私の肩を抱いてニッコリと微笑んだ幸村先輩。
苦虫をつぶしたような顔の真田先輩と表情一つ変えなかった柳先輩。
それ以外の先輩は一様に驚きの表情をしていた。



『ずっと気になっていたんだ』



そう、幸村先輩は言った。


私は中等部から女子テニス部のマネージャーをしていた。
もともとは2つ上の姉がテニス部で、強引に引き込まれたのがキッカケ。
それでもやり始めると楽しくて、結局は三年間マネージャーとして働いた。



『君のお姉さんは知ってたよ。でね、あれが妹だって教えてくれたのが君だった。
 小さい体で走り回ってたよね。三つ編みにしてた長い髪がピョンピョン跳ねて可愛らしかった。
 俺も妹がいるから、はじめは可愛い妹みたいなコだと思ってたんだ。』



その頃の私は遠くから幸村先輩を見つめては胸をドキドキさせていた。
言葉など交わせるはずもない。
雲の上のような人だった先輩。



高等部に上がってからも女テニのマネージャーをするつもりだったけど、
既に何人かのマネージャーが在籍していた。
どうしようかな・・・と迷っている時、男子テニス部のマネージャーに誘われた。
誘ってくれたのは姉のカレシであった男テニの副部長。


今まで女子のマネージャーをおいたことがなかったけれど・・・と前置きされて、
即戦力で働けるマネージャーが欲しいのだといわれた。


部員目当てのお遊びじゃ困るから、そう釘をさされて始めた男テニのマネージャーだった。



『君がマネージャーとして入ってきたとき、なんか嬉しかったよ。
 男ばかりのむさくるしい部だったしね。
 それに君は可愛いし、一生懸命だし、小さいのにチョコチョコと走り回って元気だし。
 気づけばテニス以外にも部活に楽しみを見出してしまっていた。』



ああ、そう。
幸村先輩はよく声をかけてくれた。



『重そうだね。手伝ってあげようか?』


『いつも元気だね。なんか君を見てると元気が出るよ。』


『風が冷たくなってきたね。寒くない?』


『真田は怒ってないよ。大丈夫。いつも、あれなんだ。気にしなくていいよ。』



仁王先輩や丸井先輩も気軽に声をかけてくれたけど、誰より優しかったのが幸村先輩だった。


憧れだった。言葉を交わすことすら出来ないと思っていた人が優しくしてくれる。
淡く抱いていた憧れが『恋』に変わるのに時間はかからなかった。



お互いの心の変化を打ち明ければ、幸村先輩が足元の小石を蹴りながら拗ねた口調で言った。



「なんだ。も俺のこと好きだったんなら早く言ってくれればいいのに。時間が勿体無かったな。」



言えるはずがない。
だって幸村先輩は高嶺の花と呼ばれる人。


まさか私みたいな平凡な子に目を留めるなんて思いもしないことだった。
それは私にとって『奇跡』みたいなものだもの。



「まぁ、済んだことは仕方ないね。これから一杯、大事にするよ。」



そう言って、暗くなった帰り道で私の前に手を差し出した。
何でもないように差し出される手に私の胸は震えるの。



信じられない。でも・・・嬉しい。



遠慮がちに差し出した手は、直ぐに幸村先輩の手に掴まれてしまった。
長い指が私の手を柔らかく包む感覚に泣きそうになってしまう。



花どころじゃない。
つかめないはずの星をつかんでしまった様な気持ちなの。



明日には魔法が解けてしまうんじゃないか。
そんな気持ちさえする。



「あ、!今日は満月だよ。」



幸村先輩が眩しそうに指をさした先、丸い月がビルの間から輝いていた。
隣を見れば幸村先輩の顔も輝いている。



その美しい横顔に想いが溢れた。


私・・・先輩が好きです、と。








姉に幸村先輩と付き合うことになったと告げた。
すると酷く驚いた後に困惑した表情で「本当にいいの?」と訊かれた。



「幸村君は尋常じゃなく人気があるよ?
 彼・・なんていうか凡人じゃないでしょ。別格の人だから。
 が傷つくんじゃないかって・・・ちょっと心配だな。」



別格の人という言葉の意味は良く分かる。
姉は私を気遣って言ってくれてるけど、不釣合いなのだろう。



「幸村君がどういうふうにと付き合っていこうと思ってるか分からないけど、
 これから色々と嫌なことがあるかもしれないよ?大丈夫?」



大丈夫かと訊かれて、大丈夫と答えられるはずもない。
俯いて口ごもれば、姉の声が優しくなった。



が幸村君に憧れてるのは知ってたよ。だから・・・おめでとう。
 何かあったら幸村君に言いな?私でもいい。私から彼に言ってあげる。」


「うん・・・ありがとう。」


「頑張れ」
「うん」



遅くなって幸村先輩から電話がかかってきた。



『明日、お昼を一緒に食べよう。教室に迎えに行くよ。』
「そ、そんな、とんでもないです。」


『なんで?じゃあ、が迎えに来てくれるの?』
「それはもっと困ります。」


『まさか人目を気にしてる?俺じゃ、不満ってこと?』
「そんなことあるわけないじゃないですか。それは幸村先輩のほうで・・・」


『俺?俺はに全く不満はないよ。みんなに俺のカノジョだって宣伝したいぐらいなんだけど。』
「ええっ」


『だって学年が違うでしょう?見えないところで、どこの誰が狙ってるか分からないしね。』



私は唖然としていた。
そんな物好きな人はこの世に幸村先輩ぐらいしか居ませんと言っても相手にされず、
牽制のために教室へ迎えに行くと決めてしまった先輩は笑って電話を切ってしまった。



そして私の苦難は始まる。



高嶺の花と付き合う代償はとても辛いものだった。





















「高嶺の花 2」 

2006.10.01




















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