高嶺の花だって、いつかは誰かの手が触れるのでしょう?
その花を手に入れてしまった幸運な人はどうなったのかしら。


よく御伽噺であるじゃない?
貧しい農民が、お城の美しいお姫様と結ばれる話とかね。
最後は『幸せに暮らしましたとさ』で終わってるけど、本当だったのかな?


そんなことを思ってしまう。










     
高嶺の花 3










「あの子よ、幸村君のホラ。」


「え〜、なに普通のコじゃない。もっと特別な人かと思った。」


「ああいう何でも揃ってる人は、平凡に憧れるのかもね。」


「なんだ。あれぐらいのコだったら、誰でもカノジョになれるじゃない。」



擦れ違った背中で囁かれる言葉通りに、幸村先輩に告白する女のコたちが急に増えた。
幸村先輩は誠実に、でもハッきりと『付き合っている人がいるから』と断わってくれている。


今日の帰りは、私が隣に立っているのに他校の女のコが先輩に告白してきた。
どうしていいのか分からない私が後ずさりすると、そっと背中を誰かが支えてくれた。
たまたま通りがかった柳先輩だった。



「おいで。話は直ぐに終わるだろう。」



そう言って、幸村先輩に目配せすると元きた道を引き返してくれる。
分かっていても胸が痛くて言葉も出ない私に、柳先輩は温かい手を背に添えてポツポツと言葉をかけてくれた。



の今の状況を幸村はちゃんと承知している。
 そのうえで、どうにかを守ろうとはしているが・・・すべてというわけにはいかないだろう。
 辛いだろうが、幸村を信じてやってくれ。」


「はい・・・」



頷いたら泣いてしまいそうになった。
大好きな人と想いを通わせたら、幸せばかりが溢れるのだと思っていた。


だって、カレシのいる友達は皆が幸せそうに話すから。
何故、私は違うの?


突き刺さるような視線にさらされ、聞こえる聞こえないに関らず囁かれる陰口。
幸村先輩は優しく笑ってくれるのに、段々うまく笑えなくなってる私。



!」



幸村先輩が駆けてきた。



「無事にすんだか?」
「ありがとう、柳。ゴメンね、大丈夫?」



私への問いかけに頷けば、クシャクシャって頭を撫でられた。



「首に『カノジョいます』って、ぶらさげとこうかな。」
「ついでに『告白お断り』と付け足しておけばいいだろう。」



傷ついてる私を気遣うように二人が明るく話す。
私は無理して笑った。


そんな私の顔を見て、幸村先輩の瞳に影が落ちる。
だから・・もっと辛くなった。





翌日はちょっと目を離した隙に、倉庫前に置いてあったテニスボールのカゴが全部ひっくり返されていた。
地面を覆う黄色を見た時、息が止まった。


誰が何のためにやったのかなんて本当は分からない。
だけど私に対する嫌がらせじゃないとも言えない。



早くしないと練習が始まってしまう。
花壇に放り投げられているカゴを拾ってくると、地面に膝をついて一個一個ボールを拾っていった。



「ゲッ、なんだよ!コレ」



現れたのは切原君。
散らばる物凄い数のボールを見て、目を丸くしている。



「ひっくり返したのか?」
「うん・・・」


「嘘つけ。チッ、面倒くせぇな。」



言いながらも、ラケットでボールを掬い上げるようにして次々と拾ってくれた。



「ゴメンね?」
「別に。お前が悪いんじゃないだろ?」



ぶっきら棒だけど温かい。そんな切原君の言葉に涙が出てきた。
ボールが転がるセメントの上に涙の雫が落ちてしまう。



「お、おいっ。泣くなよ、な?幸村部長には俺が言ってやるから。」
「ううん、いいの。先輩に心配かけたくない。」


「けどよ、」
「誰がやったかなんて分からないし。私に対してかも分からないもの。」


「どう見ても嫌がらせだろ?」
「でも、」



話していたら、向こうから部員がボールを取りに来た。
そこで切原君との会話は途切れ、最後に「お願い」と口止めすれば渋々と頷いてくれた。





。今日・・・何かあった?」
「別に何も、」


「違うね。今日も、何かあっただね?」



駅へ続く帰り道。
幸村先輩が瞳を細めて私を見つめる。
今日も、の『も』に力が入った声だった。


先輩が私のことを心配して胸を痛めているのが伝わってくる。
心配かけたくなくて一生懸命に隠そうとするのに、それを見る幸村先輩はもっと痛そうな顔をする。
幸村先輩が悲しめば、私はもっと悲しい。



離れてしまおうか・・・そんな考えが頭をよぎってしまう。



「キス・・・しようか?」


「え?」
「キスしたい。いい?」



突然訊ねられて思考が停止した。
答えなど返せるはずがない。
まわらない頭で立ち尽くしていたら、幸村先輩に肩を掴まれた。



あ・・と、抗う力もないままに引き寄せられて唇を寄せられた。
それは一瞬だったのかもしれない。
けれど私にとっては長く感じられたキス。


唇が離れて、無意識に止めていた呼吸を一つした途端に強く抱きしめられた。



「後悔しないで。」
「先輩、」


「俺は離さないからね」



私は棒のように突っ立ったまま、先輩の声を聞いていた。





















「高嶺の花 3」  

2006.10.02




















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