きらめく青春を過ごす中に -中編-










卒業式の朝は雨だった。


昨日のうちに母親が上京してきて、卒業式の後には寮を引き払う準備が出来ている。
段ボールに囲まれた部屋で制服に袖を通し、これで最後なのだと改めて思う。


観月は卒業しても会ってくれると言った。
新幹線で二時間はかかるんだから、現実には無理だと思う。
それでも、そう言ってくれる観月の気持ちが嬉しかった。
上京でもする機会があれば、笑って付き合ってくれるだろうと夢を見られるから。



「観月、おはよう。」
「おはようございます。」



教室の入り口で胸にピンクの花をつけた観月に最後の『おはよう』を言った。
もちろん私の胸にもお揃いの花がつけられている。
後で交換して貰えないかなと頭をかすめ、未練がましいなと小さく笑った。





下級生に誘導されてホールに入る。
厳かな緊張が満ちる中、私たちの卒業式は始まった。



もう止めようにも止まらないほど流れてくる涙を抑え、観月の声を聞く。
粛々と進んでいく式の中、浮かんでくるのは観月と過ごした六年間の思い出ばかり。


同級生にも敬語で話す、綺麗な顔をした男のコ。
実は方言を出さないための工夫なのだと聞いたのは、随分と後だった。
私も無理して標準語で話しているんだと、
自分の思っている標準語が実は方言だったって事があるよねと盛り上がった。


テニスの応援にも随分と行った。
コートに立つ観月は誰よりも輝いて、私は大好きだった。
彼が望むような成績は残せなかったのかもしれないけれど、それでも観月のしてきた努力が無になるわけじゃない。
最後の夏に敗退し、立ち尽くす彼の後ろ姿を私は忘れないだろう。


なんでもない場所にも、時間にも、全てに観月がいる。
きらめいて眩しいほど全てに。



拍手に送られて中央の通路に出れば、偶然に観月と並んだ。
いつも背中を見ていたのに、本番の卒業式で並べるなんて神様の贈り物みたい。
観月は視線を私に流すと、やっぱり少しだけ笑って「泣き虫ですね」と囁いた。



最後のHRが終われば、生徒達は表に出ていく。
そこには後輩たちが花束を持って待っているのが常だ。
卒業証書の黒い筒を手にした観月が声をかけてきた。



、あとで一緒に写真を撮りましょう。」


「ウン。」
「僕はテニス部の部室に寄らなくちゃいけないんですけど。」


「分かった、待ってるから。」



自分が誘うより先に観月から写真を撮ろうと言ってくれた。
それが嬉しくて、私はどれだけでも観月を待つ気持ちで昇降口に向かった。


優しい春の小雨が降り注ぐ。
色とりどりの傘が並ぶ中にフラッシュの光りが反射していた。
私も友達や後輩たちと写真を撮ったり、抱きあったりして別れを惜しむ。


観月、まだかな。
傘が多くて誰が誰なのか、ちっとも分らない。


携帯に電話がかかってきてないかと確認すれば、お母さんからの着信が幾つも入っていた。



「もしもし、お母さん?」


?よかった、やっと繋がった。予定した時間より早くに引っ越しの人が来ることになったのよ。
 どの荷物を送って、どれを捨てるのか、お母さんには分からないから直ぐに帰ってきて。』



明日の仕事をどうしても休めない母は、引っ越しを今日中に済ませて私と共に帰る気だ。
式が終わると直ぐに寮へ向かい、部屋の片づけをしてくれていた。



「待って、まだ会えてない人がいて。」


『さっき電話があって、もうすぐトラックが着くの。
 できたら早い時間の新幹線に乗りたいし・・・お願いよ、。』


「分かった。すぐ・・戻るから。」



電話を切ると観月を探した。
まだ部室かもしれないと人の流れに逆らって向かうけど、傘がぶつかってうまく進めない。


どうしよう、時間がない。
手にした携帯を操作して観月の番号を呼び出す。


お願い、出て。
焦る気持ちとは裏腹に呼び出し音は規則的で長い。
これだけ周りが騒がしいと着信音に気付かないのだろう。
観月の携帯から無機質な留守番電話のアナウンスが流れてくる。
電話を切って、部室に急いだ。



やっとたどり着いたテニス部の部室は雨に煙って、シンとしている。
おそるおそるアルミドアをノックすれば、触れた拳が冷たい。
数秒待って、もう一度のノックをする。



「いない・・・」



呟いたのと同時に手のひらの携帯が鳴り始めた。
観月?と確認したウィンドウには別の名前。



?今、トラックが来たの。帰ってきてる?』
「ゴメン・・・今から出るところ。」



ああ、もう会えないの?
お母さんからの電話を切った手で、そのまま観月の携帯に電話をした。
出て欲しいと強く願ったけれど、繰り返されるのは同じアナウンス。


涙が出てきてしまう。
一緒の写真・・・撮りたかったのに。


アナウンスを聞き終わり、短い電子音が言葉を急かす。
私は震える吐息で観月の名を呼んだ。



「観月、いま部室の前にいるんだけど・・・
 もうね、帰らなきゃいけないんだ。
 引っ越しの人がもう来てて、荷物を出さなきゃいけなくて。
 それが済んだら直ぐに帰ることになってる。
 最後に写真を撮りたかったんだけど・・・ゴメン。
 また上京することがあったら連絡するね。」



大きく息を吸い込んだ。
そうしないと嗚咽が混じってしまいそうだ。


遠く青いフェンスの向こうには、美しい緑のテニスコートが並んでいる。
雨に濡れて緑は濃く、赤茶とのコントラストが美しい。



「観月、ありがとう。観月と一緒にいられて、すごく楽しかった。」



ありがとう、何度言っても足りないほど。
もう一度だけ観月の立っていたテニスコートを見つめ、私は寮に向かうために踵を返した。





















きらめく青春を過ごす中に 中編 

2008/01/06




















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