何度でもメリークリスマス 〜忍足編〜
「あ〜、あんな可愛い笑顔をふりまいて」
「お前、馬鹿だろ?」
心配する俺の隣で、跡部は携帯の画面を見ている。
洒落たカフェのガラス越し。
通りの向こうにあるファーストフード店で働く彼女が、だれかれかまわず笑顔を向けていた。
「勘違いしてストーカーする奴が出てくるかも」
「そりゃ、お前だ」
「いや、冗談じゃなく」
「なら、さっさと捕まえて閉じ込めとくんだな」
中学から付き合ってきた友人の悩みに対し、跡部はひどくそっけない。
それでも、俺様体質の男がここまで付き合ってくれることが特別であることも分かっている。
「どうしようかなぁ」
問うでもない俺の呟きに、跡部は携帯から視線をあげずに溜息をついた。
「もう充分だろ。いい加減にしねぇと本気で逃げられるぞ」
もっともな忠告に俺も苦笑いを浮かべるしかない。
ずっと好きなのはだけだ。
好きやけど、俺に心のすべてを預けてくれないが憎らしくもある。
口説きまくって無理やり頷かせた中三のクリスマスから、何年の月日が経っただろう。
「俺はずっと一筋なんやけどな」
「そんなの相手には通じてねぇと思うぜ?にとっては目に見えているものが真実だ」
好きやから相手の想いを確かめたい。
俺の気持ちに見合うだけの愛情をが持っているか、あの手この手で探ろうとする。
冷たくもした。別の女のコと仲良くして見せたり、時には縋ってほしくて別れを切り出したこともある。
は何もかもを抗わずに受け入れた。俺と付き合い始めた時と同様に、ただ頷いた。
周囲からは『めんどくさい男』と言われ、が気の毒だとも思われている。
「お前みたいな男を何度も許すの気持ちも考えてやれ、馬鹿」
「ちょっとは愛されてるやろうか、俺」
「そんなの本人に聞けばいいだろ?嫌いだと言われたら、潔く諦めろよ」
「諦めきれてたら苦労してないけどな」
「ふん、時間だ。じゃあな」
時計を確認した跡部が腰を上げ、自然な様子で伝票を置いて行った。
話し相手になってやったのだから奢ってもらうのは当たり前ということらしい。
金持ちのくせに割と細かい奴だ。
さて、どうしようか。
働く彼女の姿を見つめながら、俺は冷めたコーヒーを飲みほした。
雪でも降りそうな冷え込んだクリスマスの夜。
明日には新年に向けてのカウントダウンが始まるのだろう。
好きな人は腕の中にいる。
嬉しいには違いないのだが、相変わらず俺らの気持ちは擦れ違ってるよな。
聖夜に免じて許して欲しいと図々しいお願いをしてみたが、は答えをくれない。
バイト帰りのを駅で待ち伏せした俺は、ホームで彼女を捕まえた。
ドラマにでもなりそうな展開だが、実際はけっこう気まずい。
俺の頬には女に叩かれた痕があり、予備のメガネは型が古くてイマイチだ。
は思いっきり帰りたがってたし、それを力でねじふせた後ろめたさもある。
「なぁ」
背中からを抱きしめたまま、顎を柔らかな髪にのせるようにして空を見上げる。
都会にも数えるぐらいの星はあって、明るい街の明かりに負けず瞬いていた。
怒っているのか、呆れているのか、は黙ったまま。
それでも俺は続ける。
「なんで俺ら、こんなんやろうなぁ。まぁ、多分に俺が悪いけど」
ウンとが小さく頷く。
その反応に少し笑って、俺は頬をの髪にすり寄せた。
「どんな時も平気な顔してるお前が憎らしくて、でも好きで
嫌いになれたら楽なんやろうけど、これがまた難しい。で、相談なんやけど」
腕の中の小さな体が僅かに緊張したのを感じた。
宥めるように髪にキスして、今夜は絶対に腕を解かないと力を込める。
「が抱えてきた気持ちを聞かせてくれるか?」
またホームに人が集まってきていた。
最終も近い夜のホームで恋人たちが抱き合っていても誰も気には留めない。
は前を真っ直ぐ向いたまま暫く黙っていたが、ひとつ息を吐くと「侑士の顔が見たい」と言った。
久々に呼ばれた名前は甘く俺の耳をくすぐる。
つい腕の力を緩めてしまった俺は、その直後に後悔することとなった。
耳の近くでした破裂音に続いて、頬が熱くなる。
視界が歪んだのは、メガネが吹っ飛びかけてずれたせいだ。
ホームに響いた音に周囲の人間が俺らに向けた視線を感じる。
「痛いなぁ」
情けなく間延びした声が出たが、内心では酷く動揺していた。
まさかにまで叩かれるとは思っていなかった。
「ずっと我慢してきたけど、侑士は馬鹿すぎる」
「はぁ」
「少女マンガじゃあるまいし、女のコがすねたり、甘えたり、
カレシ相手に好きよ好きよって言い続けると思ったら大間違いだよ?
侑士は夢を見過ぎなの。そんなコが希望なら、私なんか好きになっちゃだめ
私がどんなに侑士を好きか、気持ちを分かろうともしないで勝手なことばっかり言わないで」
馬鹿と、とどめに小さな拳で胸をたたかれた。
だらしなく緩んでくる口元が隠せない。
ジンジンとしてきた頬をさすって誤魔化そうとしたが無理だ。
「なに笑ってんの?」
「そ・・やね」
「気持ち悪い」
「ごめんな。勝手に顔がにやけてきて」
の瞳が潤んでキラキラと輝いて見える。
「俺、アホみたいや」
『好きじゃないけど、なんとなく付き合ってる』とか言われたら、どうしよう。
そんな事を怖がっていたのは、付き合い始めた最初のことだったのに。
が俺のことを好きだと分かってからも、もっともっとと欲張って馬鹿をしてしまった。
「みたいじゃなくて、アホそのもの」
「酷いなぁ」
俺が目じりを下げると、も少し笑った。
そして、また俺を許すんや。その深い愛情で。
「これが最後だからね」
その言葉に頷いて、俺は正面からを胸に抱いた。
ぎゅっと背中を抱きしめ返されて、その感触に満たされた気持ちになる。
「愛してる。メリークリスマスや、」
ロマンチック気分で囁いたら、腕の中の恋人が「恥ずかしい人」と嫌がった。
何度でもメリークリスマス/忍足編
2011/12/09
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