恋は突然に 3 『勝敗』










あ・・・真田君だ。



長い廊下の向こう、背の高い二人が話しながら近づいてくるのが見える。
当然のように、真田君の隣にはファイルを手にした柳クンが歩いていた。


このまま回れ右をしたい衝動に駆られる。
だけど足が私の命令を聞く前に、目敏い柳クンに気づかれてしまった。


真田君は私に気づいていない。
柳クンの持つファイルに視線を落とし、何事か話しかけていた。
それに答えながらも、真っ直ぐ私を視線で捉えたまま向かってくる人。
そんな柳クンを前に私は逃げ出すこともできない。


ファイルから顔を上げた真田君が私と目が合うと、柳クンは初めて私に気付いたような笑顔を浮かべるのだ。



、今日のコート整備のことは聞いているか?」
「さっき監督から聞いたわ。」


「女子はどうする?一時間でも練習するのか?」



真田君が今日の練習について訊ねてきた。
その隣に立つ柳クンが静かな笑みを浮かべて私を見ていることに鼓動が落ち着かない。



「休みにするつもり。練習したい人だけ自由にって感じ。」


「ふむ。うちはどうする、蓮二?」
「そうだな。一時間では練習も多くはできないだろう。こっちも休みでいいと思うが。」


「幸村は間違いなく『今日は休みにして帰ろう』と言うだろうがな。」
「ああ、間違いない。そして、どこかに遊びに行こうと言い始めるだろう。」


「人の多いアイスクリーム屋に並ばされるのだけは避けたいな。」



二人が話すのを眺めながら、視線は自然と柳クンに向かってしまう。
付き合おうと言ってから後も全く態度の変わらない人。


真田君たちは私たちが付き合ってる事を知っているのかしら。
彼の様子からは知っているふうじゃない。


ひょっとして柳クンは私とのことを隠したいのかな。



「どうした?」
「え?」



柳クンに声をかけられて我に返った。
色々と考えていたら、ついつい柳クンの顔を見つめていたらしい。
真田君まで不思議そうに私を見ているのに気がついて、一瞬で頬が熱くなるのを感じた。



「なんでもないの、ああ・・行かなきゃ」と、しどろもどろに言って二人の前から逃げる。



恥ずかしい。
柳クンは平気な顔して、なんで私だけが意識してるの?
想いを打ち明けてきたのは柳クンの方なのに。


絶対に赤くなっているだろう頬を押さえ階段を駆け降りると、薄暗い昇降口に逃げ込んだ。
胸を押さえて息を整えるけど、ドキドキが止まらない。


すると階段から誰かが降りてくる気配がした。
人に見せられる顔じゃないと俯いて、階段に背を向ける。


だが、降りてきた誰かは靴音を響かせて私の方へと近づいてきた。







いやだ、どうして来るの?
今は柳クンの顔を見たくないのに。



?」



名前を呼ばれるのと同時に肩を掴まれた。
顔を見られたくないと、咄嗟に柳クンの手を振り払うようにして逃れる。



「そんな態度をとられると傷つくのだが・・・」



途方に暮れたような声色に顔を上げれば、本当に眉をハの字にした柳クンがいた。



「ご、ごめんなさい。」
「謝らなくてもいい。どうした?何かあったのか?」


「なんでもないの。」
「本当に?」



ウンと頷いたけど、柳クンにジッと見つめられると何もかもを見透かされそうな気がして緊張してしまう。
暫し私を見つめた柳クンは、手にしたファイルをこめかみに当てて小さく溜息をついた。



「なかなかに難しいものだな。」
「難しいって」


「異性との付き合い方というものは難しい。」



嘘よ、と思わず呟いた。
柳クンは何でも分かってる人じゃない。



「まぁ、いい。とにかく今日は俺に付き合ってくれないか?」



はぁ?と首をかしげた私に柳クンが困ったように笑う。



「一応、デートに誘っているつもりなんだが。どうだろう?」



また頬が熱くなってくる。
人をデートに誘っておいて、淡々としている柳クンが憎らしいほど。
だから素直になれないのよ。



「さ、真田君たちと遊びに行くんじゃないの?」
「ああ。それなら大丈夫だ。」



ニコッと柳クンが微笑んだ。
そして彼は何でもないように言うのだ。



「弦一郎たちに俺たちのことを報告しよう。
 滅多にない休みにデートなのだと言えば、さすがに遠慮するだろう?」


「だって・・・皆に知られていいの?」


「お前の気持ちが完全に俺へと向いたら報告しようと思って待っていた。
 もう、いいだろう?さっきのを見て確信した。」



なにを?
そう訊ねる気力は残ってなかった。



彼は私が完全に恋しているのを知っていたのだ。


柳クンを見つめずにいられないこと。
柳クンを前にするだけで鼓動が騒ぐこと。
柳クンのカノジョとして他の人に認められたいと思ってることまで。



「もう・・・嫌い。」
「なぜ?」


「だって嫌いなんだもの。」
「またそんな可愛いことを言う。」


「キ・ラ・イって言ってるのよ?」
「俺には反対の意味に聞こえる。」


「柳クン、絶対にヘンよ!」



プンと背を向けて歩き出した私の後ろに付いてきて笑う人。


憎らしい。
憎らしいけど好きみたい。


好きだからこそ嫌いなの。



「私・・・いつも柳クンに負けてる気がする。」



拗ねたように呟けば、後ろから大きな手で頭を撫でられる。
そのまま頭を抱きかかえるように包まれて、優しい彼の声が耳元に囁かれた。





「それは違う。いつもお前が勝ってるよ」って。




















恋は突然に3「勝敗」 

2007.08.12




















戻る     テニプリ連載TOPへ     次へ