恋は突然に 4 『愛しさと切なさ』













真田君は「なに?」と言ったきり、言葉を無くした。
ただマジマジと並んだ私たちを見て、最後には「そうか」と頭をかいた。


幸村君はニッコリと微笑んで「やっぱりね」と言った。
微妙に嫌そうな顔をした柳クンの肩を叩き、「俺を騙せると思っていたのか?」と止めをさす。


二人に付き合いを打ち明ければ、噂は(主に幸村君が根源なのだが)あっという間に広がる。
はれてカレシとカノジョになった私たちは人目を気にすることなく共に居られるようになった。


そうはいってもお互いが部活中心の生活は変わりなく、そうそう一緒には居られないのだけど。



。ちょっといいだろうか?」



校門の前で走ってくる部員のタイムを計っていたら、後ろから声をかけられた。
振り向かなくったって分かる声。ここ最近は電話でも訊くことが多い声だ。
隣に立つ副部長が肩をすくめて私たちに背を向ける。
そんな周囲の反応を気恥ずかしく思いながら、努めて冷静に部長らしく対応する。



「どうしたの?」
「来月の連休なのだが、遠征が決まったのでバスを使いたい。女子の方に予定があるなら外部に頼むのだが、どうだろう?」


「来月の連休には何も予定していないわ。大丈夫。」
「そうか。なら、使用申請をしても構わないな。」


「毎月、練習試合を組んでいるのね。」
「トップで居続けるには攻めの姿勢を崩してはならないというのが、弦一郎のモットーだからな。」



優勝常連校の男子テニス部が自ら出かけて行って試合に挑む、その精神には頭が下がる。
私が「お疲れ様です」と頭を下げれば、柳クンは小さく笑って「じゃあ」と去っていった。


彼が遠ざかると、途端に周囲の部員が私の肘をつついて文句を言う。



「もう少し可愛らしく話せないの?ちっとも付き合ってるらしくないじゃないのよ。」
「バスを使うかと訊かれて、どう可愛らしく返事するのよ?バカバカしい。」


「そう言う問題じゃなくて!なんか、あなた達って恋人同士って雰囲気が微塵もないのよ。」
「こ、恋人って」


「だって付き合ってるんでしょう?ね、手ぐらい繋いだの?」
「手!?そ、そんなことしてないわよ!」


「やっぱり・・・」



ウンウンと頷く部員たち。
でもキスはしたのよ、付き合う前だけどね。


浮かんだ言葉を口にできるはずもなく、その後は皆に説教されても無視をした。



周囲を夕闇が包む頃、最後に部室のカギを閉めて振り返る。
まだ男子テニス部の部室には明かりがついていて、おそらく柳クンや真田君たちが残っている。


心の中で「お先に」と声をかけ、途中まで一緒に帰る部活仲間の後を追った。
お喋りしながら歩いていても、初めて柳クンに想いを告げられた場所を通る時には意識してしまう。
友達といても、心の隅で常にある存在。


恋は始まったばかりだけど、私は随分と柳クンが好きみたいだ。


大きな十字路で仲間と別れ、ひとりで家に帰る。
空を見上げれば、美しい一番星が輝いていた。



「蓮二クン」



誰も聞いていないことを良いことに、星に向って名前を呼んでみた。
真田君が呼ぶみたいに、私も呼んでみたい彼の名前。



「なんだ?」



突然耳元に人の気配がして、返事が返ってきた。
悲鳴を抑えて飛び逃げた私。
まさかと目を見開けば、きちんと学生服を着た柳クンが立っていた。


頭が混乱する。
今の聞かれた?
そう考えただけで顔が沸騰するほど赤くなるのを感じた。



「な、なんで、ここに?」
「お前が帰るのを見かけたから付いてきた。」


「いつから?」
「校門を出たあたりからだが?」


「な、なら、早くに声をかけてくれればいいのに!」
「友達と帰っていたから邪魔をするのも悪いかと遠慮したのだが・・・」



言って、困ったように笑う。
が、続けてとんでもなく恥ずかしいことを言い始めるのだ。



「おかげて良いものを聞かせてもらった。」
「まさか、」


「名前を呼んでくれるとは・・・嬉しいものだな、。」



ぎゃあーっと、声をあげて逃げ出したい気持ちだった。
耐えきれないと口元を押さえ、頭を横に振るしかない。
口をパクパク開いたところで言葉など出てくるものじゃない。



それ以上はやめて!恥ずかしすぎて倒れてしまう。



私の表情を見ていた柳クンがプッと噴き出した。
そのまま声をあげ、体を折って笑い始める。


唐突に始まった見たこともない柳クンの爆笑に、私は唖然としてしまった。



「す・・すまない。あまりに可愛らしい反応だったから、つい。」
「か、可愛い?どこがっ」



からかわれたのだと腹を立てれば、笑いを引っ込めた柳くんが瞳を細めた。



「すべてだよ。」




お前のすべてが可愛くて、愛しくて・・・たまらないんだ。




反則だよ、柳クン。
そんな言葉を真正面からぶつけられて、逃げられるはずがないでしょう。


肩に伸びてきた手を振り払う気力もなく受け入れて、抱き寄せられたら柳クンの鎖骨に額が当たった。
背の高い人なんだと、今さら頭の隅で思う。


ふんわりと抱きしめられて、その優しさに何だか泣きたくなった。
切なくて、自分から彼の胸に顔を埋めてジッと耐える。


柳クンは何も言わず、温かな手で繰り返し私の髪を撫でてくれた。
少しずつ安心して体の力が抜けていく。
切なさが愛しさに変わっていくのを腕の中で知った。



この人が好きだ。



軽く前髪をかきあげられて、額に唇が落ちてきた。
くすぐったくて、また泣きそうになる。



「これから俺のことを名前で呼んでくれ。俺も、と呼ぶ。」
「ウン」


「もう一つ。俺はお前の特別でいたいから、他の男には名前を呼ばせないでほしい。」



ちょっとした彼の独占欲に笑ってしまった。
笑うところではないだろうと頬を撫でられて、思わず顔を上げてしまう。


そこには真っ直ぐに見つめてくる瞳があったから、恥ずかしくて目を閉じるしかなかった。
後で考えれば、誤解されてもしかたない。


直ぐに重ねられた唇に気が動転したけれど、蓮二クンいわく・・・



「キスをねだられているのかと思った。」



まだまだ意思疎通が不十分の私たち。
人通りが少なかったとはいえ、歩道の真ん中でキスするなんてと怒る私と言い訳する蓮二クン。
恥ずかしすぎて怒ることでしか誤魔化せないのは、彼にバレバレかもしれない。



「なら、人がいなければいいんだな?」
「そういう問題じゃないもの。いつも突然で、」


「では、先に断れば場所は選ばないということか。」
「違う!」


「お前は本当に面白いな。からかいがいがある。」
「なんですって」



「そんなところも気に入っているよ。」



そう言って、自然に私の右手を握り手をつないだ。


いつか彼をぎゃふんと言わせたい。
そんな闘志を胸に秘め、恋した彼の横顔を見上げる。



あと五分も歩けば、家に着く。
それが切なくて。だけど共に帰れる五分が愛しい。



つないだ手が温かい、幸せな帰り道。




















恋は突然に『愛しさと切なさ』 

2007.08.15



















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