年下の彼 『身勝手』
リョーマ君と過ごした恋人としての一週間は瞬く間に過ぎていった。
恋人と呼ばれるようになって七日目の夜。
彼と共に帰ってきた近所の公園で抱きしめられながら、私はリョーマ君の言葉に息を呑む。
「ね、明日は成田の近くにホテルを取るんだけど・・・も来る?」
「ホテルって、」
「泊まる。出来たらも一緒に。」
一緒に泊まる?それって・・・
思い当たって赤面し、あたふたとする私は『成田』の意味が分かっていなかった。
「アメリカへ帰る前に抱きたい。」
抱きたいと囁かれた言葉より何より、
彼がアメリカに帰るという事実を知らなかった私は衝撃を受けていた。
「だって受験のために帰国したって・・・」
「一応って言ったでしょ。
親と進学をどうするか話し合いに帰ってきただけ。それに一番の目的はだったし。」
「じゃあ・・また直ぐに帰ってくるの?」
「こっちの大学に進学する気はないよ。拠点はアッチの方が動きやすいし。」
混乱する私をよそにリョーマ君が当然のように言う。
「親はどっちの国でもいいから進学しろって言うけど、勉強する時間があったらテニスしたいのが本音。
来年からは本格的にトーナメントに参加するつもりだしね。
で、この一週間はいろいろと揉めてた。
最後はオヤジの『お前の好きにするがいいさ』で決まったから、もう帰るよ。」
帰る・・・リョーマ君はそう言った。
行くじゃない、帰る。彼にとっては遠いアメリカが『帰る』場所なのだと知った。
だったら、何故?
指先が痺れる感覚。
体の奥から震え出てくるような哀しみと遣る瀬無さ。
「どうして?」
絞り出した声は微かに震え掠れていた。
「どうして・・・私の前に現れたの?」
「?」
「行ってしまうと、一緒にいられないと分かっていて、なんで私に近づいたの?
気まぐれ?遊び?それとも、暇つぶし?ヒドイよ、そんなの、」
居心地の良いリョーマ君の胸を押して抜け出した。
伸びてきた手に腕を掴まれたけれど、それも振り払う。
目を見開くリョーマ君が涙で歪み、よく見えないよ。
「たった一週間のために・・・私を選んだの?」
「イエスで、ノーだよ。」
「なに?」
「短い時間しか傍にいられないのは知っていた。だから、イエス。
を選んだ。しか選ばない。他は欲しくない。それ以外の理由はないよ。だから、ノー。」
「意味が分からない・・・」
リョーマ君の気持ちが分からない。
あんなに確かに感じた彼の好意さえ幻のように思えてしまう。
首を横に振れば新たな涙が零れていくのが分かった。
「、聞いて。俺には俺の目指すものがある。それは譲れない。」
残酷な言葉ね。
だったら私に触れないで欲しかった。
「そして、も俺にとっては譲れない。」
「そんな・・・」身勝手な。
「だから両方を手に入れる。
明日の夜、ホテルの部屋で待ってる。」
「いや・・・行かない。もう会わないわ。」
「待ってる」
言うなり力づくで引き寄せられ抱きしめられた。
抵抗する体がシッカリと抱き込まれ、彼の口付けが髪に落とされていくのを感じて涙が止まらない。
「ホテルは成田空港の・・」
「聞きたくない!」
私を無視してホテル名を告げてしまうリョーマ君が憎らしかった。
聞いてしまったら決断しなくてはいけなくなるのに。
「イヤ・・・もう会わない」
「俺は会いたいよ」
「ヤダ・・リョーマ君のバカ」
「馬鹿はだよ。大事なことが分かってない。まだまだだね。」
「嫌い」
「好きなくせに」
泣きじゃくる私の耳元に唇を押し付けてリョーマ君が囁いた。
「ね、今度はが俺を捕まえてよ」と。
私の体を離したリョーマ君は「明日ね」という言葉を残し帰っていった。
公園に残された私は唯、泣くばかりだった。
眠れない夜は長い。
彼が日本からいなくなってしまう。
アメリカに行けば、また何年も帰ってこないのだろうか。
手塚先輩だって渡米したきり帰ってこない。
リョーマ君だって三年ぶりの帰国だったはず。
それなのに何故、私の前に?
考えは堂々巡りで答えにならない。
たかが一週間の恋人。
甘い思い出にしてしまえばいい。
そう思うのに、
リョーマ君の温もりを知ってしまった今では身が引き裂かれるように痛くて痛くて・・・
とても思い出になんか出来そうにない。
離れ離れになると知っていて、どうして抱かれなきゃならないの?
遠距離恋愛をしようって事?
これから先、何年も終わりの見えない時間を待っていろと?
涙ばかりが枯れることなく流れてくる。
リョーマ君が好きで。愛しくて。傍にいたくて。
なのに出来ないことが悲しくて。寂しくて。苦しくて。ツライ。
一週間前の幸せな再会が、今は後悔に変わっている。
それが何より・・・悲しいの。
翌朝。
眩しい夏の朝陽で目が覚めた。
泣きながらも、いつの間にかウトウトしていたらしい。
よく思い出せないけれど、目覚めたくないと願うほどシアワセな夢を見ていた気がする。
温かく、優しい夢だった。
そう思うと、また涙が滲んできた。
年下の彼『身勝手』
2006.08.02
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