月とすっぽん 2
うっかりで景吾のカノジョにしてもらった私。
忍足には『すっぽん』と呼ばれ、宍戸には『その執念深さは尊敬に値するぜ』と言われている。
まぁ・・フェロモン垂れ流しの景吾をカレシに持てば苦労は多い。
黙っていれば芸能人にも負けないイイ男なのだから、モテるに決まってる。
付き合い始めた当初から、一週間もつか、一ヶ月もつかと賭けの対象にされていたほどだ。
予想に反して景吾と私の付き合いは高校から大学へと移り、もうすぐ卒業までしてしまうという長いものになっていた。
「は?卒論つっかえされたって・・お前、馬鹿じゃねぇの?」
「馬鹿って言う人が馬鹿だもん」
「なにが、もんだ。かわいコぶっても、可愛くねぇんだよ」
道の往来で頭を小突かれた。
すぐ手が出るんですよ、この男!
おまけに口が悪いったら、育ちがいいとは到底思えませんよ!
ま、それでも私は好きですけどね。
「だからね、ちょっと手伝ってよ」
「俺は暇じゃねぇんだよ」
「なんかお礼するから」
「いらねぇから自分でしろ」
「一生のお願い!」
「お前の一生のお願いは聞き飽きた」
景吾を熱く見つめる通りすがりのお嬢さんたちにガンを飛ばしつつ、私は嫌がる景吾の腕を無理やりに引っ張って歩く。
離せ、離さないと口喧嘩しながら、こうやって何年も景吾の傍にいた私だ。
お陰様で腹立たしくも頭のいい景吾の指導で何とか卒論に目途がたちそう。
少々疲れ気味の景吾は頬杖をつき、手元の本をめくりながら溜息を吐く。
地味な図書館に身を置いてさえ絵になる男は景吾ぐらいだ。
「お疲れ様」
「まったくだ。だが、これから暫く忙しくなるからな。これでチャラだ」
「ちゃら?」
「お前に構う暇がなくなるが、手伝ってやったんだから我慢しろ」
「はい?まぁ・・・いいけど」
私の顔も見ないで活字を追いながら淡々と言う景吾。
そりゃ卒業も近くなれば忙しくなるよねと納得し、特に疑問も抱かなかった。
その言葉の意味を知るのは半月ほど後だ。
「結婚?誰が」
「だから跡部だって」
相も変わらず似合わないオカッパ頭の岳人が興奮してまくしたてる。
広い大学の構内で偶然に会ったと思ったら、唾を飛ばす勢いで話し始めたのだ。
「え〜、まだプロポーズされてないし。でも指輪は貰ってるけどね」
「指輪はお前が勝手に買って、あとで金を払わせたんだろ?そうじゃなくて、相手はじゃねぇんだって」
岳人の言葉に息をのむ。
だけど内心の動揺を悟られたくなくて、わざと口をとがらせた。
「は?二股?あのヤロ〜」
「いやいや、もっと驚こうぜ」
「だってさ、昔から『むこうが勝手についてきた』とかって他の女と遊びに行っちゃう男だよ?今更驚かないって」
「そうだけどさ。跡部のカノジョとして図々しく居座ってきたのはだけじゃん」
その通りだけど、なにげに酷い岳人の言いぐさだ。
「どっかのお嬢様とか?」
「なんとかっていう会社の偉い人の孫だとか、なんとか。あ、お前。爆弾とかしかけにいくの犯罪だからな」
説得顔の岳人に、私という人間がどう映っているのか分かった気がする。
「しないよ。でも・・そうか」
呟いて空を見上げた。手を上げて思いっきり伸びをする。
とうとう、この日がきたかと思う。
テンションを下げた岳人が怪訝そうに私の横顔を見つめてきた。
「なんだよ。もっと、大騒ぎして暴れるかと思ったのに」
「ここで暴れてもねぇ」
「おい。すっぽん魂は、どうしたんだよ。食らいついて離さないっていうギラギラ感が足んねぇぞ」
「がっくん、なんか誤解してるよね。それより内定が取れなくてさぁ」
「げっ、まだ就職決まってなかったのか?」
この不景気に取り柄のない女子は厳しいのよ。
なんて・・話題は景吾から就職へと移り、ほっと息を吐いた私だった。
すっぽん、すっぽんって言うけど、すっぽんは臆病だから噛みつくんだって。
そんなギラギラと獲物を狙って噛んでるわけじゃないらしいよ?
噛みついたら離さないっていうけど、水に放すと直ぐに口を開いて逃げちゃうんだって。
それよりはさ、すっぽんって言うと『月とすっぽん』って言うじゃない?
そっちのほうが当てはまってるって思うわけ。
景吾が月で、私がすっぽん。
そんなこと、ずっと前から知ってたけどね。
月とすっぽん 2
2011/11/06
戻る テニプリ連載TOPへ 次へ